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47. 返してもらいます!
しおりを挟む「え……?」
サヴァナは最初、何を言われたのかよく分からなかったようで、ポカンとしていた。
けれど、少し時間が経ってから意味を理解したようで、虚ろだった表情が引き締まった。
「返してもらう……? やだ、お姉様ったら何を言っているの?」
「何を? もちろんそのままの意味よ」
私がそう答えるとサヴァナはキッと睨み付けてきた。
「酷いっ! お姉様、私の魔力を奪うというの!?」
「あなたのじゃない。もともと私の魔力よ」
「っ!」
サヴァナは一瞬、ぐっと言葉を詰まらせたけれど簡単には引き下がらなかった。
「お姉様には私と同じ“奪取の力”があるわけじゃないでしょ? だから、そんなこと出来るわけないじゃない!」
「……」
どうやら、サヴァナは奪取は自分だけの能力だと思っているらしい。
でも、残念ながら奪取の魔法は珍しくはあるけれど、使える人はサヴァナだけではない。
(まぁ、サヴァナの場合はそこに厄介な性質が加わっているから、ある意味唯一無二と言えるのでしょうけれど)
でも、そんなことをわざわざ教えてあげる義理はない。
「なんで黙るの!? まさか、お姉様にも使える力だというの?」
「……」
前に私がトラヴィス様に、奪われたままは嫌なのです! と、宣言した時に言われた。
私は潜在能力が高いからサヴァナと同じ力が使えると思う、と。
(呪いが解けたからなのかしら? ……本能で分かるわ。確かに使える)
でも、今回の私の場合は奪うというより返してもらうが正解なのよね。
だから、奪取と言うよりも……
「な、何か言ってよ! お姉様!!」
「───使えるわ」
「え? つ、使える……の?」
サヴァナが一際大きなショックを受けた顔になった。
「でも、今から施す力は奪取ではないわ」
「……? ど、どういう意味……」
「さっきも言ったでしょう? サヴァナ。あなたの魔力の殆どはもともと私のものなのよ」
「……」
「だから、この場合は奪取ではなく“奪還”が正しいわね?」
私の言葉にサヴァナが目を丸くする。
「ちょっと待ってよ、お姉様……お姉様はどれだけ力が使えるの!?」
「え?」
「私の力も使えて……さらに魔力を奪い返す……? それに変身だってしてた……じゃない。お姉様の授かった力は守護の力なんでしょう……全然関係の無い力ばかりたくさん───」
「さあ?」
「さ、さあ!?」
私が首を傾げるとサヴァナはますます大きなショックを受けた顔をした。
(そんなこと聞かれても分からないわ)
ただ、自分で分かることは今、すごく身体が軽くて何でも出来そう……そんな気分になっているということだけ。
そして、一刻も早く欠けたものを満たしたい。そんな気持ち───
「そういうわけで、返してね? サヴァナ」
「え? あ……うっ……」
「ああ、そうそう。奪われた分を全て返してもらった後、どれくらいの魔力があなたの元に残るのかは知らないけれど、少しは残るといいわね」
「え……嘘っ」
私がにっこり微笑んでそう言うと、サヴァナの顔が盛大に引き攣った。
「い、いやぁぁぁぁぁぁあーーーー」
サヴァナのその悲鳴は部屋の中にとてもよく響き渡った。
❋❋❋
クリフォードは、サヴァナの悲鳴でハッと目が覚めた。
(ぼ、僕は……そうだ……サヴァナの真実が色々と顕になって……)
本当の守護の力の持ち主はマルヴィナだった。
サヴァナの力は守護ではなく……奪取……それも、まるで人の心まで操れるような……そんな恐ろしい力……
(マルヴィナ……)
僕にも国にも本当に必要な人はサヴァナではなく、マルヴィナだった!
そう思い直したのに……
───マルヴィナ。俺は君への生涯変わらぬ愛をここ……に誓うよ
───君が大好きだ
魔術師がマルヴィナに愛を告げ……
───好き、です。私もあなたが……トラヴィス様のことが好きなのです
マルヴィナがその魔術師にそう想いを返していた。
僕はその光景が信じられず驚いてずっと固まってしまっていた。
クリフォードはどうしてだ、と頭を抱える。
マルヴィナはあんなに僕に惚れていたじゃないか!
(なのに、どうしてあの魔術師に顔を赤らめて愛を告げたんだ!?)
───クリフォード様、私あなたの力になれるように頑張ります!
そう言っていたじゃないか!
確かに僕はサヴァナのことを信じてしまったけれど……
(いや、待てよ? 今、目の前で行われていたやり取り……)
サヴァナが自分の能力を使ってマルヴィナの魔力を奪っていたらしい。
そのせいで、マルヴィナは“守護の力”を発揮することが出来なかった。
だが今、目の前でマルヴィナへサヴァナから魔力の奪還とやらを行っている。
と、いうことは……マルヴィナの魔力は戻るはず。
そして、守護の力も使えるようになる……
「……」
僕は思った。
サヴァナを置いてマルヴィナだけをクロムウェル王国に連れ帰ればいいのでは?
父上もそれで喜ぶはずだ!
僕のことを愛してもいないのに愛しているフリをしていたサヴァナ。
すっかり騙された……
可愛くて健気で優しくて頑張り屋……それはサヴァナではなかった。
(マルヴィナ……)
そう思ってマルヴィナの方に視線向けると、ちょうどサヴァナからの魔力の奪還に成功したのか……マルヴィナはキラキラとした光に包まれて輝いていた。
(綺麗だ……)
これは、やはり何がなんでもマルヴィナを連れ帰らなくては。
「……」
マルヴィナはそこの魔術師のプロポーズのようなものに「家族になりたい」と返事をしていたが、家族が欲しいだけならその相手は僕だっていいはずだ!
マルヴィナは、そもそも僕と婚約する予定だったのだから。元に戻るだけさ。
(その時の気持ちを思い出してくれ、マルヴィナ!)
それに“ローウェル伯爵家の長子の力、守護の力”は我が国のものだ。
国一番の魔術師だろうと隣国に譲るわけにはいかない!
そう思った僕は、キラキラと輝いているマルヴィナの元に向かう。
「───マ、マルヴィナ!」
「……クリフォード様?」
「!」
なぜだ! マルヴィナの表情が一瞬で曇ったぞ!?
僕が声をかける寸前まではキラキラした輝きと共に眩しい笑顔を見せていた、のに……なぜだ。
だが、僕だってここで引き下がる訳にはいかない!
「ち、力が戻って良かったね……そ、それで、そのすまなかった」
「……」
ヒヤッとした。
なぜそこで黙る?
無言の圧力に背筋が凍るほどヒヤッとしたけれど、諦める訳にはいかない僕はマルヴィナの目を見つめて微笑んだ。
(どうだ? かつて君が頬を赤らめてくれていた僕の最高の微笑みだ!)
「マ、マルヴィナ!」
「……」
「君も分かってくれているとは思うが……マルヴィナ、その力……は我がクロムウェル王国に使われるべき力なんだ」
ピクッ
マルヴィナの身体が反応した。
よし!
そうだろう、そうだろう? やはりそう思うだろう?
「君のことを大きな誤解で追放したことは心から謝罪する。だが……その、君を必要としているのは僕……我々だ! そこの魔術師ではない……そうだろう?」
「……」
「愛が欲しいならこれからは僕が君を愛する!」
そこの魔術師は、マルヴィナが居なくても一人で大概のことは出来るのだろう?
それなら、マルヴィナは必要ないはずだ。
そして、身分も僕は王子……しかも王太子だ!
魔術師の妻なんかより未来の王妃の方が嬉しい……そうだろう?
「だから、どうか僕と一緒にクロムウェルへの帰国を────」
「お断りします」
(あれ……?)
おかしいな。聞き間違えたのだろうか?
「い、いや、マルヴィナ? どうしたんだい? ほら、かつての君は国や僕のことをあんなに……」
「お断りします!」
(え?)
なぜか二度目のお断り……を口にしたマルヴィナの顔は、ほんの少し前まで僕を慕ってくれていた時の顔付きとは全然違っていた。
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