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49. 魔力
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───言いたいことを言えたからか、身体だけでなく心も軽くなった気がする。
(これで終わる……)
あとは今、私自身が口にしたようにサヴァナが目覚めたらすぐに彼らには帰ってもらいたい。
……サヴァナの力は守護ではなく奪取。
はたして、それを知ったクロムウェル国王はどんな顔をするのかしら。
(どうなろうとも、私には関係ないけれど)
《───マルヴィナ。すっきりした?》
《え? 分かります、か?》
トラヴィス様が私の顔を覗き込むと、頬を撫でながらそう訊ねて来た。
《うん。顔付きが変わったかな》
《そうです……か》
残念ながら自分の顔を今は見ることは出来ないので、そう言われてもよく分からない。
《だけど変わらず、可愛いよ?》
《か……》
そんな甘い甘い言葉に私の胸がドクンッと大きく跳ねた。
急に恥ずかしくなってしまい、トラヴィス様の顔を直視出来なくて目を逸らす。
《はは、照れた───そんな所も、可愛い可愛い俺のマルヴィナだ》
《トラヴィス様……》
私たちが見つめ合ったところで、コホンッという咳払いがして我に返った。
慌てて振り返ると、そこにはとってもいい笑顔をしたリリーベル様。
《リリー!》
私とトラヴィス様は勢いよく離れた。
リリーベル様は迫力のある美しいにっこり笑顔のまま言った。
《───お兄様、マルヴィナさん。よくご覧になって? もう仲睦まじい様子をあちらに見せつける必要はないと思いますわよ?》
リリーベル様の視線を追うと、その先ではクリフォード殿下も筆頭魔術師もローウェル伯爵も絶望の顔をして各々がガックリと膝をついていた。
《いや、見せつけていたつもりはないんだが……》
《は? あちらの王子にマルヴィナさんを諦めさせるために、わざとイチャイチャして見せつけていたのではありませんの?》
《いや? ただ愛しいマルヴィナを俺が愛でたかっただけだが?》
真顔で答えるトラヴィス様にリリーベル様は呆れた表情を浮かべた。
《お兄様って……恋愛ごとになると、単なるポンコツになるんですのね……知りませんでしたわ》
リリーベル様は、そのくせポンコツなのに確実に相手にダメージをきっちり与える行動はするとか……おそろしい兄ですわ……と呟いていた。
《リリー、余計な一言が多いぞ?》
《ふふ、失礼しましたわ》
そんな微笑ましい兄妹のやり取りを見ながら、とにかくこれで終わりね──と思ったところで、サヴァナの身体が動く気配がした。
(目が覚めた……?)
この場の誰かに叩き起こされる前に自分で目が覚めたらしい。
サヴァナはムクリと起き上がる。
ぼんやりとした様子で周辺をキョロキョロすると屍のように崩れ落ちている三人の様子にギョッとしていた。
「えっ……なに……?」
そんな声を上げたあとは、ハッと思い出したかのように自分の手のひらを見つめた。
そして、よく耳を澄まさないと聞こえない程の小さな小さな声で呟いた。
「…………無い」
それが何のことを指しているのかは明確で、サヴァナは今、自分の中に残った魔力を感じ取ったのだと思う。
《ほとんど残っていませんわね》
《ああ》
私にはさっぱりだけど、リリーベル様とトラヴィス様にはサヴァナの魔力の流れや様子が分かるらしい。
《それにしては、減りすぎじゃないか? どういうことだ?》
《ええ……思っていたよりも少ないですわ…………あ!》
(減りすぎ?)
二人のその言葉に疑問を感じていると、そこで、リリーベル様が何かに気付いた。
その視線はクリフォード殿下に向いている。
《なるほど……彼女は無意識に力を使ってマルヴィナさん以外からも魔力を奪い取っていたようですわね》
《私以外から?》
《そこの王子も被害者の一人ですわ》
《クリフォード殿下……》
《ええ、そこの王子の魔力が先程より増えていますもの》
つまり、私がサヴァナから魔力の奪還を行った。そのことで、クリフォード殿下もサヴァナから奪われていた分が元に戻った……そういうことなのかしら?
だけど、リリーベル様はクリフォード殿下に憐れみの表情を向けた。
《あの王子……もともと魔力なんてほとんどありませんのに……お気の毒》
《え!? そうなのですか?》
私が聞き返すとトラヴィス様も大きく頷きながら言った。
《それなのに、なけなしの魔力は根こそぎ奪われていたみたいだな。マルヴィナから奪えなくなってからは、地味にずっと持っていかれていたんじゃないか?》
《ええ……あれでは、かなり身体に負担がかかっていたのではないかしら?》
《体質的に魔力に弱いようだから、自分の魔力に何か変動がある度に頭痛に悩まされていそうなタイプだな》
(それって……!)
その言葉を聞いて、クリフォード殿下はやたらと手で頭を押さえていたわ……と気付く。
《……何か変動がある度にって、もしかして魔力が戻って来ても……ですか?》
《らしいよ。魔力が動く度に苦しむことになるそうだから、魔術とは関わらないところで平凡に生きることをお勧めされるタイプだ》
《……》
(一応、一国の王太子でもあるのに、平凡に生きることをお勧めされている……)
トラヴィス様は当たり前のことのようにサラッと言ったので、きっと、この国では普通に知られていること。
でも、魔術の知識に遅れているクロムウェルのことだから、殿下が頭痛を訴えても“原因不明”で片付けられてしまうのでしょうね、と私は思った。
「なんでよ。ぜんぜん……無いじゃない……」
そんな話をしていると、自分の手を見つめていたサヴァナが絶望の表情を浮かべていた。
「嘘でしょ? どうしてこんなに無いの? こんなの……魔力封じが解かれても……力を使える気がしない……」
(力が使えない? そんなに無いの?)
それなら、昔から無意識に力を使っては、人の心を奪い尽くしていたのはいったいどうやって……?
《父親……か》
《え?》
《あの性悪女の魔力の供給源だよ》
《!》
《おそらく最初にあれが魔力を奪った相手は父親だ》
確かにお父様はローウェル伯爵家の力を授かっている人間。魔力量は人より多いはず。
《王子とは違って魔力には強いから奪われていることには気付きもしなかったんだろう》
《あ……》
トラヴィス様曰く、
サヴァナの元々の魔力はとても弱くて、本来は人ひとり分の魔力を奪える程度の力しかなかった。けれど、父親の魔力を初めて奪ってその強さのおかげでパワーアップに成功。
そこからは徐々に力を拡大していって……
《では、サヴァナは今……》
《魔力封じを解いても、誰かの力を奪うまではほぼ無力》
《……》
《しかも、今、俺が感じている魔力だと一人の魔力も奪えるかどうかも怪しい》
《え!》
「やだ、こ、こんな弱くて私……王妃になれる、の? どうしよう……」
サヴァナの中ではクリフォード殿下の妃=王妃。
(こんな魔力では殿下の役に立てない、なんて発想にはならないのね)
もうこれ以上、私が追い詰めなくても、クロムウェルに帰ってからのサヴァナの迎える未来が見えたような気がした。
(もう、いいわ)
放心しているけれどサヴァナも目覚めたようだし、これでさっさとお帰り願って──と……思ったところで、何かを考え込んでいたリリーベル様が口を開く。
《……お兄様、あの者たちを追い出す前に、出来れば最後に一つ“視たい”ものがありますの》
《なんだ?》
リリーベル様はチラッと筆頭魔術師の方を見ながら言った。
《───水晶ですわ》
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