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51. 水晶のガードは固い
しおりを挟む(異常気象……)
トラヴィス様のその言葉を聞いてクロムウェルの四人がそれぞれ複雑な表情を浮かべる。
そしてサヴァナを除く三人がチラッとサヴァナに視線をやった。
(なるほど、この件でサヴァナは相当危うい立ち位置になってしまっていたのね?)
勉強嫌いなはずなのに、わざわざルウェルン国に来てサヴァナに魔術を学ばせようと考えたのも、それでイメージアップをはかりたかったからなのかもしれない。
そう理解しながらも私は今、この場で初めてその異常気象の話を聞かされたので驚いていた。
国を出る時、確かにどんよりしていて今にも雨が降りそうだわ、とは思っていた。
でも……まさか、あれからずっと雨が降り続いていたなんて思いもしなかった。
しかも、よくよく話を聞いてみると、私が国境を越えてルウェルンに入国した辺りから本格的に降り出している。
(これは、やっぱりそういうこと、よね)
“守護の力”を持つ者が国を離れた───それも、一時的ではなく追放という形で。
きっと、この意味は大きかった。
今思えば、それでなくても天気は私の気持ちを現してくれたかのようにムラがあった気がする。
(さすがに、私の力に天候を操るなんて大きな力はない)
ただ、影響は与えていた。
そして、サヴァナが国を出たと同時に雨が止んで空が晴れたという話まで聞いてしまうと、トラヴィス様の言った言葉には同意しかない。
「……」
そんな状態で国を出て来たサヴァナが、この後クロムウェル王国に戻る……歓迎されないのは明らか。
しかも、魔術について学んで帰るはずだったのに、学ぶどころかそこで判明した能力は守護ではなく“奪取の力”───それも現状、魔力不足で使うことも出来ない。
(サヴァナが王妃が……と嘆いていたのはこういうことだったのね)
そして暴露により殿下との関係が危うくなっているであろう今、サヴァナが予定どおり、殿下の婚約者であり続け、未来の王妃となるためには強大な力は絶対に必要だった。
おそらく国に戻ったらサヴァナと殿下の婚約は破棄という方向で話が進むのは間違いない。
自業自得という言葉がこれ程までにピッタリな事例は他に無いのでは?
心の底からそう思ってしまった。
(───これは、サヴァナにも“ざまぁみろ!”だわ)
「……」
けれど、そうなるとクロムウェル王国が、今よりも確実に“私”を欲しがることは目に見えている。
さっさと四人を追い出してクロムウェルに帰ってもらうつもりだったけれど、もしかしたら早まらなくて良かったかもしれない。
(クリフォード殿下、筆頭魔術師、ローウェル伯爵にクロムウェル王国の陛下を止めるだけの力があるとは正直、思えないもの)
本来なら権力的に充分なものを持っているはずなのに、今、彼らほど役に立たない人たちもいない。
(───水晶の謎を解いたらトラヴィス様に相談して先手を打つ必要があるわ)
「それでは確認させていただきますわね?」
そんなことを考えていたら、リリーベル様の準備が整った様子。
すぐにリリーベル様の瞳の色が変わる。
(何度見ても綺麗……)
あの金色の瞳を前にしたら、嘘はもちろん、隠しごとも出来ない……そんな気持ちにさせられる。
「マルヴィナ」
「トラヴィス様?」
「……大丈夫だ」
そう言って隣に寄り添ってくれているトラヴィス様が私の手を取ってキュッと握ってくれた。
ドキッと胸が跳ねる。
それと同時に、私の中に温かい魔力が流れて来た。
「……!」
私が顔を上げると目が合ったトラヴィス様がにこっと微笑んだ。
その微笑みの美しさによる興奮と胸のトキメキで私は一瞬で顔が真っ赤になり茹だってしまった。
「ん? 照れた? ……可愛いよ、マルヴィナ」
「っっ!?」
「おっと、危なっ……!」
トラヴィス様がクスッと笑って私に顔を近付けて来たと思ったら、耳元でそんなことを囁いてきたので私は完全に腰砕けになってしまった。
❋❋❋
(……なぜ! なぜ、お兄様たちはこんな時にイチャイチャしているんですの!?)
リリーベルは真実の瞳の力で水晶を見ていたら、視界の端で兄とそのお嫁さん(決定)がイチャイチャしているのが目に入った。
また、その光景を目撃しているのは、自分だけでなく───
(阿呆王子と阿呆妹が、すごいショックを受けた顔をして二人を見ているではありませんか!!)
「……」
諸々が明らかになって心の離れた阿呆二人の気持ちはお兄様とマルヴィナさんへと向かっている……と。
なんて阿呆な二人なのかしら……と、私は呆れる。
そして、肝心のお兄様たち──そんな二人の視線には全く気付かずイチャイチャはさらにエスカレートしていますわ!!
羞恥……羞恥心はないんですの!?
さすが、この場で大告白とプロポーズまでこなすお兄様ですわ。
そんなお兄様に訊ねても、きっと“愛しいマルヴィナに愛を伝えていただけだ”と言い張るに違いないのですけれど。
(つまり、本能で盛大な虫を近寄らせずに追い払っているということかしら……?)
……残念ですわねぇ……お兄様相手に勝ち目は全くなくってよ?
阿呆のお二人様───
───って! そんなことよりも、今はこの水晶のことですわ!
ついつい気が削がれてしまったけれど、気を取り直してより深く視てみる。
思っていたよりも古くから使われている物ですわね。
そして、これはかなり力の強い魔術師が作った物───
こんな物を作れるような優れた魔術師がクロムウェルに昔はいたのかしら?
申し訳ないけれど、それは正直、考えにくいですわね……
そうなると……
(これは、ルウェルンの魔術師が手を貸して作られたものだったり───?)
もし、そうだとするとあの知らなかった“文字”は……
───ん?
あら、嫌ですわ……この水晶、これ以上の私の干渉を阻もうとしていますわね。
もっと深掘りしたかったけれど、今日の私はずっと魔力を使い続けていてそろそろ限界が近い。
(今はこれ以上は駄目ですわ……)
一旦、私は視るのを中断することにした。
「……」
「リリー、大丈夫か?」
私が顔を上げると、お兄様が心配そうに駆け寄って来る。
愛しのマルヴィナさんと、イチャイチャしていたわりにそういう所は素早いお兄様ですわ。
まぁ、今もちゃっかりとマルヴィナさんの手は握ったままですけれども。
「だ、大丈夫ですわ。ただ、思ったよりもガードが固くて……」
「そうか」
「……ですが、あの文字がどこのなんの文字なのかは見当がつきました、わ」
「なに?」
私がそう言うと 皆が一斉にこちらに視線を向けた。
(あ……)
けれど、その瞬間、クラっと目眩がした。
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