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52. 初めての……
しおりを挟む❋❋❋
その日、私たちは屋敷に戻らず王城に泊まることになった。
私は与えられた部屋で、なかなか寝付けずぼんやりと窓の外を眺めていた。
(リリーベル様、大丈夫かしら?)
水晶を見終えたリリーベル様は、当たり前だけど相当疲れていたらしく、
何の文字なのか見当がついた。だけど、少し調べないといけないことがある。
と口にした後、倒れ込んでそのまま眠ってしまった。
「大きすぎる力の代償で、力を使いすぎると眠ってしまう……かぁ」
リリーベル様は突然、フラっとしたので驚いていたら、トラヴィス様がそういう体質なのだと説明してくれた。
そして、一晩寝ればだいたい復活するのだという。
(そうよね……)
なんと言ってもリリーベル様はまだ十四歳。
通常の魔力だってまだ不安定な年頃。それなのに……
(あの歳であれだけの力を使えるリリーベル様は、いったいどんな人生を送ってきたのかしら……)
そう思わずにはいられない。
「ローウェル伯爵家の力を授かるための儀式が十八歳の誕生日なのもきちんと意味があったのね……」
そう口にした時、コンコンと部屋の扉がノックされた。
一瞬、こんな時間に誰? と思ったけれど私がこの部屋にいることを知っていて訪ねてくる人なんて一人しかいない。
「……」
扉の向こうの姿を想像して私の胸がトクンッと高鳴る。
「──マルヴィナ、俺だ。起きている?」
「!」
ああ、やっぱり、トラヴィス様だわ!
そう思って私は笑顔で扉を開けた。
────
「──いっ」
「……い、痛かった……ですか? いえ、痛いですよ、ね」
「ん……少し。でも、大丈夫だ」
「トラヴィス様……」
ソファで隣同士に座った私たち。
腰を下ろすなり私は痛々しいことになっているトラヴィス様の頬にそっと触れた。
「しかし、イライアス殿下め……」
トラヴィス様は美しい顔を歪ませて悪態をついた。
私としても、これはどうしても聞かずにはいられない。
「トラヴィス様…………王子殿下はどうしてこんなことを……?」
「あー……」
トラヴィス様は、リリーベル様が眠りに入る前に頼みごとをされており、その為に王子殿下の元に会いに行っていた。
元々、クロムウェル王国の彼らの様子なども報告もしないといけなかったから、丁度いいんだと言っていたのに……
戻って来たら何故か頬が腫れている。
そして、それはどこからどう見ても殴られた後にしか見えなかった。
「まぁ……殿下が怒るのも無理はないんだ」
「え?」
「ほら、リリーに無理をさせてしまっただろう?」
「あ……」
(そうだった! リリーベル様は殿下の婚約者……)
自分の婚約者が倒れたと聞いて怒らないはずがない。
私が黙り込むとトラヴィス様がそっと頭を撫でてくれた。
「リリーが無茶をするのは性格的に分かっていただろうから、兄だったら察して事前に倒れる前に止めろって怒られた」
「……」
「まぁ、止めても言うことを聞かないのがリリーなんだけど」
トラヴィス様はそう言って肩を竦めた。
「思っていたより水晶を視るのが重かったみたいだ。だけど、リリーが頑張ってくれたおかげでおかげであの謎の文字については分かりそうだよ」
「本当ですか?」
「ああ。明日、殿下の許可をもらって書庫で詳しく調べてみる」
「そうなんですね」
私が安心して微笑みを浮かべると、トラヴィス様とパチッと目が合う。
今、トラヴィス様は眼鏡をしていないので、美貌が溢れていて私の胸のドキドキは止まらない。
(それに、殴られて頬が腫れてしまっているのに、全く美貌が損なわれないってどういうことなの?)
「……マルヴィナ」
「!」
そのままギュッと抱きしめられた。
そして、トラヴィス様は私の耳元に口を寄せて囁く。
「それで? 俺の愛しいマルヴィナを憂い顔にさせている理由は何かな?」
「……え!」
「リリーのこと? 水晶のこと? 自分の力のこと? クロムウェルの阿呆四人のこと? それとも───」
「……っ」
トラヴィス様には何でもお見通しなのかもしれないと思った。
「……まぁ、全部かな?」
「……」
「今日は一度に色々なことがあり過ぎたからね」
「はい……」
私もギュッと抱きしめ返しながら頷いた。
「マルヴィナ。リリーは大丈夫。明日になれば、ケロッとした顔でやかましいことを言ってくる」
「ふふ……」
そんな姿を想像して思わず笑ってしまう。
「水晶も明日になれば謎は解けるだろう。あの水晶、随分と思わせぶりなことをしてきたけれど、あんなのは、ちょっと変なお告げをするただの丸っこい玉だ!」
「……」
トラヴィス様にかかると、国の至宝とも言える水晶が単なる丸っこい玉になるらしい。
「マルヴィナの力の件だって心配しなくていい。だって……」
「だって?」
「マルヴィナには、ルウェルン国一の魔術師がそばに居るんだぞ?」
トラヴィス様が胸を張ってそう口にする。
「……」
トラヴィス様は一つ一つ私の抱える不安を払拭しようとしてくれている。
その優しさがたまらなく好きだと思った。
「クロムウェル王国の阿呆共だって心配しなくていい。事が終わればさっさと送り返す」
「はい……」
「そして、もちろんクロムウェル王国には、今後マルヴィナと接触なんてさせない」
「トラヴィス様……」
私が顔を上げると、至近距離で目が合って、トラヴィス様の綺麗な瞳に思わず見惚れそうになった。
ドクンッと私の胸が大きく跳ねる。
「そうだろう? だってマルヴィナは俺と幸せになるんだから」
「……はい」
私が頷くとトラヴィス様の手がそっと私の頬に触れる。
そして、トラヴィス様の美しい顔がそっと近付いて来た。
(……あ、もしかして)
私はそっと瞳を閉じる。
───チュッ
そして、程なくして私の唇に柔らかいものが触れる。
(唇……へのキスは初めて、だわ)
「マルヴィナ……」
「……トラヴィス様」
唇を離して互いの顔を見る。
トラヴィス様の顔は真っ赤。きっと私の顔も真っ赤。
二人揃って真っ赤だと思うと、幸せで嬉しくて思わず笑ってしまう。
「マルヴィナ。そんな可愛い顔で笑うのは反則だよ」
「え? 反……則?」
そう言ったトラヴィス様は、手を私の頬から動かして顎に手をかける。
そして、上を向かせると素早くチュッとキスをした。
「……!?」
「もっともっと、こういうことをしたくなるからね」
「~~~!?」
トラヴィス様からの愛情たっぷりのキスはなかなか終わらなかった。
そんなトラヴィス様からの愛をたくさん受けながら、私は願った。
(明日には必ず全ての決着を……)
そして、リリーベル様が元気になりますように、と。
────そして、翌朝。
「一晩眠ったとはいえ、こんなにスッキリと回復したのは始めてですわ……!」
そんな風に首を傾げているも、すっかり元気になったリリーベル様の元に昨日のメンバーが集まる。
ちなみに、クロムウェル王国の四人はかなりの寝不足のようで揃いも揃って顔色が悪かった。
「───それでは、まずはサヴァナさんの能力を分かりづらく示したり、謎のお告げを発したとされる文字の説明からいたしますわね」
リリーベル様はにっこりと美しい微笑みを浮かべてそう言った。
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