54 / 66
54. 婚約破棄
しおりを挟む❋❋❋
(な、何よこれぇぇぇ!!)
サヴァナは次から次へと浮かび上がる自分を嘲笑うかのような文字の数々に憤慨していた。
守護の力のことは、本当に悔しいし仕方がないけど理解したつもりだった。
そして、自分には奪取の力なんて凄い力を授かっていたことが判明したものの、魔力が足りずに今はその力すら使えそうにないということも思い知らされたばかりだった。
(悔しくて眠れなかったわ……おかげで寝不足よ!)
それなのに文字は、どんどん出てくる。
そして、読み上げられる内容はどれもこれも酷い。酷すぎる。
“盗っ人”“性悪”“勘違い女”……
(な、なんですって!? もう我慢ならない!)
「ちょっと! その本、貸しなさいよ!」
「え?」
読み上げられている言葉が信じられず、これは嵌められているのかもしれないと思い、ルウェルンの古代語についての解説とやらが載った本をひったくる。
そうして自分でも文字と本の訳を確認してみようとした。
けれど、現代のルウェルン語も怪しい自分には結局、正解が分からない。
それでも、どうにか読み取った文字は……
「だっしゅ……あくじょ……悪女!?」
やはり、読み上げられていた文字に嘘はないのかもしれない、と泣きそうになる。
聞こえてくる限り、良い言葉なんて一つも浮かんでいない。
水晶は完全に私をバカにしている。
そして、水晶によるとどめはこんな文字だった。
───“破滅を導く”
「は、破滅……!?」
その文字が浮かび上がった瞬間、誰もが羨むほどの輝かしい道を順風満帆に歩むはずだったサヴァナ・ローウェル伯爵令嬢の未来にヒビが入った音が聞こえたような気がした。
────
(どうしてこんなことになったのよ……)
あの、美少女により水晶の謎が明かされたことで、以前、筆頭魔術師が一人でいる時に水晶に浮かんだ文字とやらは、やはり警告だったと結論づけられた。
“偽者”や“破滅”という文字に筆頭魔術師は覚えがあったと言う。
───このまま偽者を崇めていると国は破滅する。雨はその始まりに過ぎない───
そんな言葉だった可能性が高い……ということで落ち着いた。
そうして、もはや“用済み”となった私たち──
予定ではもう少しルウェルン国に滞在するはずだったのに、切り上げて帰国するという。
私たちに向かってそう説明した時の青白い顔をしたクリフォード殿下は、一切、私の目を見ようともしなかった。
そんな殿下は帰国前この国の王子殿下に呼び出されているという。
なので、殿下が戻ってくるまでは帰れないので待機するしかない。
私は、部屋でぼんやりと待つことにした。
ふと、窓の外に目を向ける。
(いい天気……晴れ間なんてこの国に来て久しぶりに見たわ)
クロムウェル王国の……長雨は偶然なんかではなく……警告だった。
そんな報告をされたら私の人生は滅茶苦茶よ!
はぁ、とため息を吐いた時、部屋の扉がノックされた。
(もしかして? 話が終わったクリフォード殿下かしら?)
やっぱり私が恋しかったから真っ直ぐ会いに来てくれたとか??
そう思いながら顔を出したら、そこに居たのは殿下ではなく……
「───サヴァナ」
「……お父様」
同じく待機中のお父様だった。
期待させんじゃないわよ!
そんな気持ちでお父様を睨みつけると、お父様はうっ……と小さく唸って黙り込んだ。
「……」
「……」
互いに言葉が出てこないため、気まずい空気が流れる。
(いったい何しに来たのよーーーー!)
「サ……」
そして、お父様が何かを言いかけたその時だった。
部屋の窓から見える庭園に二人の人影が見えた。
よくよく目を凝らすと、それはお姉様と、何故かお姉様なんかを愛してると言ったあのかっこいい魔術師だった。
「……チッ」
(お姉様なんかの何処がいいのよ……絶対に私の方がお似合いだと思うのに)
今朝、魔術師の頬は誰かに殴られたようでびっくりするくらい腫れていたけれど、美貌がまったく損なわれておらず、あんないい男に愛されているらしいお姉様が憎い。
そんな気持ちで二人を睨んでいると──……
(は? 二人で手を繋いで……距離が近っ……え? 何やってるの?)
魔術師がお姉様の耳元で何か囁いたのか、お姉様の表情はパッと華やいで嬉しそうに笑う。
そんなお姉様のことを見る魔術師の目はとても優しい。
とにかくお姉様のことが愛おしいというのが伝わって来るようで───……
ギリっと唇を噛む。
(どうして? どうしてお姉様なの?)
「知らなかった……マルヴィナはあんな風に笑う子だったのだな……」
「え?」
気がつくと私の隣に立って窓の外を見つめながらお父様がボソッと呟いた。
「十九年間……マルヴィナがあんな嬉しそうに笑った顔など見たことがなかった……」
「お父様?」
「知らなかった……私は……本当に何も……何も知らず…………」
ガクッと項垂れるお父様。
どうやらお父様は昨日、お姉様に言われた
────クロムウェル王国なんかに未練はありませんので、どうぞ私のことはお構いなく!
という言葉が相当ショックだったようで、ずっと項垂れている。
今更、お姉様を追い出したことを後悔しているらしい。
「お父様、もう戻らないなんて言うお姉様なんか、放っておけばいいじゃない!」
「……」
「大丈夫よ、私が王妃になれば……」
「────サヴァナ」
お父様がじっと私を見ると、首を横に振りながら言った。
「お前が王妃になることはない」
「は? お父様ったら何を言っているの? 私と殿下は婚約しているのよ?」
「そのクリフォード殿下との婚約だが───」
「……?」
……ドクンッ
心臓が嫌な感じに跳ねた。私の背中に冷たい汗が流れる。
(嫌な予感がするのは気のせい……よね?)
お父様がそんな真剣な顔をするからいけないのよっ!
そうやって必死に嫌な予感を打ち消そうとした私にお父様が告げた。
「今朝、クリフォード殿下に言われたのだ」
「い、言われた……?」
「────サヴァナとは婚約破棄をしたい、と」
お父様の発したその言葉に私は目を大きく見開くとヒュッと息を呑んだ。
❋❋❋
帰国前のサヴァナがちょうど“婚約破棄”の話を聞かされていた頃。
私はトラヴィス様と共に王宮の庭園にいた。
「お花を摘んで帰っていいだなんて王子殿下も太っ腹ですね」
「昨日、殴ったことのお詫びだと言っていたが……」
そう言われてトラヴィス様の頬に目を向ける。
「まだ、痛いですよね?」
「少し」
私は、まだトラヴィス様の腫れている頬を見ながら思う。
(私にも“癒しの力”が使えたらいいのに───)
「どうした? マルヴィナ」
「いえ……早く良くなりますように、と」
「ああ、ありがとう」
私たちは、目が合ってフフッと微笑み合う。
「そうだ、マルヴィナ」
「はい」
「今頃、イライアス殿下とあの阿呆王子が顔を合わせている頃だと思うけど」
「あ、そうですね?」
帰国させる前にどうしてもとイライアス殿下の方が話がしたいと頼み込んだらしい。
「今頃、あの阿呆王子はこの国に来たことを色々と後悔しているかもしれないよ」
「え?」
「色々と頼んでおいた。ま、自業自得だからね」
(た、頼んだ……?)
そう口にしたトラヴィス様の笑顔はとっても黒かった。
430
あなたにおすすめの小説
妹は謝らない
青葉めいこ
恋愛
物心つく頃から、わたくし、ウィスタリア・アーテル公爵令嬢の物を奪ってきた双子の妹エレクトラは、当然のように、わたくしの婚約者である第二王子さえも奪い取った。
手に入れた途端、興味を失くして放り出すのはいつもの事だが、妹の態度に怒った第二王子は口論の末、妹の首を絞めた。
気絶し、目覚めた妹は、今までの妹とは真逆な人間になっていた。
「彼女」曰く、自分は妹の前世の人格だというのだ。
わたくしが恋する義兄シオンにも前世の記憶があり、「彼女」とシオンは前世で因縁があるようで――。
「彼女」と会った時、シオンは、どうなるのだろう?
小説家になろうにも投稿しています。
そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。
木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。
ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。
不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。
ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。
伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。
偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。
そんな彼女の元に、実家から申し出があった。
事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。
しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。
アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。
※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)
私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。
ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。
しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。
もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが…
そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。
“側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ”
死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。
向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。
深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは…
※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。
他サイトでも同時投稿しています。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m
両親から謝ることもできない娘と思われ、妹の邪魔する存在と決めつけられて養子となりましたが、必要のないもの全てを捨てて幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたユルシュル・バシュラールは、妹の言うことばかりを信じる両親と妹のしていることで、最低最悪な婚約者と解消や破棄ができたと言われる日々を送っていた。
一見良いことのように思えることだが、実際は妹がしていることは褒められることではなかった。
更には自己中な幼なじみやその異母妹や王妃や側妃たちによって、ユルシュルは心労の尽きない日々を送っているというのにそれに気づいてくれる人は周りにいなかったことで、ユルシュルはいつ倒れてもおかしくない状態が続いていたのだが……。
婚約者と家族に裏切られたので小さな反撃をしたら、大変なことになったみたいです
柚木ゆず
恋愛
コストール子爵令嬢マドゥレーヌ。彼女はある日、実父、継母、腹違いの妹、そして婚約者に裏切られ、コストール家を追放されることとなってしまいました。
ですがその際にマドゥレーヌが咄嗟に口にした『ある言葉』によって、マドゥレーヌが去ったあとのコストール家では大変なことが起きるのでした――。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?
リオール
恋愛
侯爵家の執務を汗水流してこなしていた私──バルバラ。
だがある日突然、婚約者に婚約破棄を告げられ、父に次期当主は姉だと宣言され。出て行けと言われるのだった。
世間では姉が優秀、妹は駄目だと思われてるようですが、だから何?
せいぜい束の間の贅沢を楽しめばいいです。
貴方達が遊んでる間に、私は──侯爵家、乗っ取らせていただきます!
=====
いつもの勢いで書いた小説です。
前作とは逆に妹が主人公。優秀では無いけど努力する人。
妹、頑張ります!
※全41話完結。短編としておきながら読みの甘さが露呈…
玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。
昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。
入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。
その甲斐あってか学年首位となったある日。
「君のことが好きだから」…まさかの告白!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる