【完結】可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~

Rohdea

文字の大きさ
58 / 66

58. 愚かな人たち

しおりを挟む


「りえん……離縁……離縁届けを置いて……出て行った……?」

 私の横でお父様が真っ青になって声を震わせている。
 確かにお父様とお母様の関係は、あの日、お姉様の部屋が空っぽになっていたことが発覚した時から悪くなってはいた。
 だけど……

(まさか、お母様が出て行ってしまうほどだったなんて!)

 お父様はまるで魂が抜けてしまったかのように力を失くしてその場に崩れ落ちた。

「それで、サヴァナ嬢。君には手紙が残されておる」
「わ、私には手紙……ですか?」

 お父様には離縁届、私には手紙……
 私は戸惑いながらもその手紙を受け取る。

(なんて書いてあるのかしら?)

 そんなソワソワした気持ちが伝わってしまったようで、陛下は言った。

「気になって仕方がないのだろう?  開けて読んでみるといい」
「あ、ありがとうございます……!」

 なんと、陛下直々にそう言って貰えたので、私は遠慮なく手紙を開封することにした。



「……」

 お母様からの手紙には、お父様にマルヴィナの荷物を盗んだ犯人だと疑われた時から出ていくことは考えていた、旦那様には呆れしかない、使用人も殆ど辞めてしまったから家が回らない……というお父様への恨み辛みがここぞとばかりに綴られていた。

(なーんだ。やっぱり、お父様に愛想を尽かして出ていったのね~)

 と、思っていたら──
 サヴァナは、実は守護の力の持ち主ではなく偽者ではないか?  という話が貴族の間に広まっていて、どこに行ってもローウェル伯爵家の人間というだけで変な目で見られてしまう。雨が止まないのはお前の娘のせいだと嫌味も言われた。もう限界、こんなのはもう耐えられない。サヴァナは偽者だったのね?

 なんて書かれていた。

(……は?  お母様まで私を偽者呼ばわり!?  ……しかも、貴族の中にまで話が広まっている?)

 手紙を持つ手が震える。
 お母様が出て行ったことで、ローウェル伯爵家は更に笑いものになってしまう。

(なんてことをしてくれたのよ……お母様!)

 憤慨しながら窓の外を見るとポツポツ降り出していた雨は、本格的に強くなっていた。

(どうしよう……)


───


 再び降り出した雨、家を出て行ったお母様……その事実をなかなか受け入れられずに呆けていたら、陛下がクリフォード殿下に向かって訊ねる。

「───さて、それではクリフォード。こたびのルウェルン国での成果についての報告を聞こうではないか」
「……っ!」

 殿下はビクッと肩を震わせた。
 その反応に陛下が眉をひそめる。

「ふむ?  何やら随分と早い帰国であったが……魔術は学べたのか?」
「……」
「それに。何やら、お前の顔はたった数日なのにやつれて頬もこけている。そんなにも魔術の修行は辛いものだったのか?」
「……ま、魔術……は」

 陛下の怒涛の質問攻めのせいで、殿下の顔色は更に悪くなっていく。

「……」

 けれど、クリフォード殿下はしばらくの沈黙の後、何かを決心したかのように口を開いた。

「───へ、陛下、諸々の報告の前にまず一つ、至急でお願いしたいことがございます」
「至急だと?  なんだ?」
「僕とサヴァナ・ローウェル伯爵令嬢との婚約を今すぐ破棄させていただきたいのです」

(なっ!?)

 報告より何よりも真っ先に言うことがそれなの!?

「なに?  サヴァナ嬢と婚約破棄だと……?」
「はい、父上が手紙に書かれていたように……その、やはりサヴァナは“守護の力”は持っていません。あの判定結果は誤りでした……」
「───ふむ、やはりそうであったか。まあ、そうなので、あろうな……」

 私は陛下のその返事に愕然とする。

(なっ!  驚きもしないわけ!?)

 陛下は私が“守護の力”の持ち主ではないことを平然と受け止めた。
 やっぱり雨のせいでずっと疑われていた……

「では、やはり真の力の持ち主は姉のマルヴィナ嬢だったことが判明したわけだな?」
「……そ、それは」

 クリフォード殿下はその言葉には、気まずそうに目を逸らす。

「ふむ。つまり、こういうことか?  手紙にも書いたように、真の力の持ち主のマルヴィナ嬢を新たな妃として迎えるということだな!  だから、妹との婚約は破棄するということか」
「あ、いや、それは……」

(……は?  陛下は何を言っているの?  本気でお姉様を迎えるつもりだったの!?)

 けれど、お姉様は私たちとは縁を切って、向こうの国で美貌の魔術師と……

「ん?  しかし、肝心のマルヴィナ嬢の姿がどこにも見えぬではないか。どこにいるのだ?  連れ帰ったのだろう?」
「……」
「雨が再び降り出してしまったからな!  これは早速、我が国に守護の力をかけてもらわねばならんぞ?  ようやく使えるようになったのだろう?」

 クリフォード殿下の顔色はどんどん悪くなっていく。
 当然よね。守護の力を持ったお姉様はここにはいないもん。

「父……陛下、ざ、残念ながらマルヴィナを連れ帰ることは叶いません……でした」
「は?  クリフォード?  お前は何を言っている?  捜索出来なかったのか?」

 クリフォード殿下は首を横に振る。

「い、いえ……マ、マルヴィナには会いました……が、こ、この国には絶対に帰らない、と」
「馬鹿者!  なぜ、それで引き下がって来た!?  無理やりでも連れ戻せと言っただろう!?」
「で、ですが……」
「言い訳などいらぬ!  マルヴィナ嬢が本物の守護の力の持ち主だと言うなら、さっさと連れ戻せ!」
「む、無理です」
「クリフォード!!」

 涙目で首を横に振るクリフォード殿下に対して、陛下は更に怒鳴りつける。
 怒鳴りつけられたクリフォード殿下は、怯えながらも必死に訴えた。

「マ、マルヴィナを無理やり連れ戻そうとした場合……ル、ルウェルン国が、て、敵に回ってしまいます…………」
「敵に回る、だと?」
「優れた魔術師を総動員してでも立ち向かう……と」 

 陛下の眉がピクリと動いた。

「なっ……!?」
「…………帰国したら必ず陛下にそう伝えるように、と、ルウェルン国の王子からの……で、伝言……です……」


❋❋❋


「───クシュンッ、クシュンクシュン」
「マルヴィナ!?」

 その頃の私は突然のくしゃみに襲われていた。

「クシュッ……だ、大丈夫です……クシュンッ」
「大丈夫じゃなさそうだよ?」
「す、すみません……」

 トラヴィス様に背中をさすられてどうにか落ち着いて来た。

「……これは、あれかな?  クロムウェル王国でマルヴィナの話にでもなったかな?」
「私、の?」
「ああ、国王陛下が帰国した王子から話を聞いて、“マルヴィナを連れ戻せーーーー”って怒鳴り散らす、とかさ」
「!」

 私がビクッと身体を震わすと、トラヴィス様は優しい手つきで頭を撫でてくれた。

「大丈夫だ。イライアス殿下にお願いして、その辺はしっかり釘を刺してもらえるように阿呆王子を脅してくれた」

(お、脅し!?)

 何だか物騒な言葉が飛び出した。
 それでも私は聞かずにはいられない。

「……そ、それでも陛下に話が通じなかったら……どうなります?」
「……」

 トラヴィス様は少し間を置いてから、にっこり黒い笑顔を浮かべた。

「その時は、もちろん────」

しおりを挟む
感想 417

あなたにおすすめの小説

妹は謝らない

青葉めいこ
恋愛
物心つく頃から、わたくし、ウィスタリア・アーテル公爵令嬢の物を奪ってきた双子の妹エレクトラは、当然のように、わたくしの婚約者である第二王子さえも奪い取った。 手に入れた途端、興味を失くして放り出すのはいつもの事だが、妹の態度に怒った第二王子は口論の末、妹の首を絞めた。 気絶し、目覚めた妹は、今までの妹とは真逆な人間になっていた。 「彼女」曰く、自分は妹の前世の人格だというのだ。 わたくしが恋する義兄シオンにも前世の記憶があり、「彼女」とシオンは前世で因縁があるようで――。 「彼女」と会った時、シオンは、どうなるのだろう? 小説家になろうにも投稿しています。

そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。 ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。 不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。 ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。 伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。 偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。 そんな彼女の元に、実家から申し出があった。 事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。 しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。 アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。 ※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

両親から謝ることもできない娘と思われ、妹の邪魔する存在と決めつけられて養子となりましたが、必要のないもの全てを捨てて幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたユルシュル・バシュラールは、妹の言うことばかりを信じる両親と妹のしていることで、最低最悪な婚約者と解消や破棄ができたと言われる日々を送っていた。 一見良いことのように思えることだが、実際は妹がしていることは褒められることではなかった。 更には自己中な幼なじみやその異母妹や王妃や側妃たちによって、ユルシュルは心労の尽きない日々を送っているというのにそれに気づいてくれる人は周りにいなかったことで、ユルシュルはいつ倒れてもおかしくない状態が続いていたのだが……。

婚約者と家族に裏切られたので小さな反撃をしたら、大変なことになったみたいです

柚木ゆず
恋愛
 コストール子爵令嬢マドゥレーヌ。彼女はある日、実父、継母、腹違いの妹、そして婚約者に裏切られ、コストール家を追放されることとなってしまいました。  ですがその際にマドゥレーヌが咄嗟に口にした『ある言葉』によって、マドゥレーヌが去ったあとのコストール家では大変なことが起きるのでした――。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?

リオール
恋愛
侯爵家の執務を汗水流してこなしていた私──バルバラ。 だがある日突然、婚約者に婚約破棄を告げられ、父に次期当主は姉だと宣言され。出て行けと言われるのだった。 世間では姉が優秀、妹は駄目だと思われてるようですが、だから何? せいぜい束の間の贅沢を楽しめばいいです。 貴方達が遊んでる間に、私は──侯爵家、乗っ取らせていただきます! ===== いつもの勢いで書いた小説です。 前作とは逆に妹が主人公。優秀では無いけど努力する人。 妹、頑張ります! ※全41話完結。短編としておきながら読みの甘さが露呈…

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!

処理中です...