60 / 66
60. 破滅に向かう国
しおりを挟む❋❋❋
「ルウェルン国が敵に回る……だと? クリフォード! 何をふざけたことを言っているんだ!」
「……」
今にも怒りに任せて暴れ出しそうな父親の姿を見てクリフォードは内心で頭を抱えていた。
(畜生! ふざけたことは言っていないのに! 僕はどうすればいいんだ!)
父上が“守護の力”の真の持ち主であるマルヴィナを欲する気持ちは分からなくはない。
僕だって可能なら無理やりにでもマルヴィナのことを連れ戻したいと思っている。
だが……無理だ。
マルヴィナの意思は怖いくらいに固かったし、何よりマルヴィナの周りが……強すぎる。
(僕を無視して選んだのが最強の魔術師で、その妹も何やらとんでもない力の使い手で、王子まで味方につけて……敵うはずないだろう!)
クリフォードは、自分を脅していた時のルウェルン国の王子の目が本気だったことを思い出してしまい身体を震わせた。
どう考えてもクロムウェルではルウェルンには勝てない。
あの美貌の魔術師は顔色一つ変えずに身体に電流を流してきた。
あの時は本当に苦しくて死ぬかとも思った。
あんな魔術を簡単に使える人材がゴロゴロしている国になんて勝てるはずがないじゃないか!
なぜ、父上にはそれが分からないんだ!?
「父上……! マルヴィナのことは、あ、諦めましょう? そしてもう、ローウェル伯爵家の力には頼らずに……」
「うるさい!」
カッと目を見開いた父上に僕の訴えは一蹴されてしまった。
そして次に父上は、ローウェル伯爵家の二人に視線を向けるとため息を吐く。
「伯爵……は夫人に逃げられたことで腑抜けと化している。その娘は偽者だったから役に立たない……か」
確かに伯爵はショックのあまり固まっていて、全く使い物にならなそうだ。
サヴァナによると夫人は、出国前から伯爵と揉めていたそうだし、僕らが向こうにいる間、国民のサヴァナへの不信感はどんどん強まっていったそうだから、色々と耐えられなくなったのだと予想する。
(……だが、家を出た所で国内にいては肩身が狭いままだろうに)
ローウェル伯爵夫人……元夫人は伯爵の妻であることが自慢だったようで頻繁にパーティーなどに顔を出していたこともあり、世間に顔がかなり知れ渡っている。
あれではどこに行ってもすぐに見つけられてしまうだろう。
(ローウェル伯爵家……か)
サヴァナも“奪取の力”とかいう盗っ人のような力を持っていることは判明したが、なんと魔力が足りなくて使い物にならないという。
帰国の際に魔力封じについては解除されていたので、水晶で魔力値の判定を行ったところ、本当に最低数値を叩き出していた。
「はぁ……それで筆頭魔術師、この国の魔術師たちはどれくらい使える?」
「へ! つ、使える……とは?」
突然、父上に話を振られた筆頭魔術師がしどろもどろになった。
「クリフォードの話によると、マルヴィナ嬢を連れ戻そうとすると、ルウェルン国が黙っていないのだろう? ならば、我が国の魔術師たちはルウェルンにどれくらい対抗出来るのだ?」
「へ、陛下!? ま、まさか……」
「ち、父上!?」
その言葉を聞いた筆頭魔術師は真っ青になり、必死になって無理だと訴えた。
「あ、あちらの魔術師と我々との差は明らかでございます……絶対に歯がたちません」
「何? やる前から決めつけるのか!? それでもお前は魔術師の端くれか!」
「へ、陛下……」
筆頭魔術師の顔が悔しそうに歪む。
魔術師でもない陛下に何がわかるんじゃ! そう言いたそうな表情だった。
結局、僕と筆頭魔術師が何をどう訴えても、父上の中ではマルヴィナは絶対に連れ戻すという意思は変わらないようだった。
(は、破滅だ……!)
これは確実にルウェルン国を怒らせ、マルヴィナも怒らせる。
そうなれば間違いなくこの国は破滅する
(……もう、クロムウェル王国は終わりだ……)
僕はその場にがっくりと膝をついた。
❋❋❋
イライアス殿下との謁見後、私は穏やかな毎日を送っていた。
そして、気になるクロムウェル王国の動きは、トラヴィス様が前に言ってくれたように、すぐに向こうに人を送ってくれたため、頻繁に情報が入って来る。
まだ、私を連れ戻す為に人が動いた……という話は聞こえて来ない。
「えいっ!」
ドカーンッ
(あ、また命中したわ!)
トラヴィス様の作った特製の防護壁の中で攻撃魔法の練習をしながら、トラヴィス様と入手した情報についての話をするのがすっかり最近の日課となっていた。
「……マルヴィナは攻撃のコントロールが抜群だね」
「不思議とそこ! って思って狙った所にきちんと攻撃が向かってくれるんです」
「普通はそれが難しいのだけど……これも潜在能力の高さ故……なのかな?」
トラヴィス様は苦笑して私の頭を撫でながらそう言った。
「それで……今日は何か動きはありましたか?」
「うん───クロムウェルでは王太子の婚約破棄が世間に発表されたそうだ」
「!」
私はヒュッと息を呑んだ。
「……では、ローウェル伯爵家は」
「すごい非難集中を浴びている」
「そうなりますよね」
特にサヴァナへの批判の声が多く、嘘をついて王子に取り入った悪女とまで呼ばれているらしい。
そこまで強く非難されるのは、再び雨が降り出したことも大きいという。
「ちなみに家を出ていったという夫人は、実家に身を寄せていたそうだけど、そちらにも非難の声が向いているそうだよ」
「……」
「先に一人だけ逃げたということは、娘が偽者だと知っていたんだろう!? って余計に非難されているみたいだ」
「もう、何をやっても裏目に出てしまうんですね」
最初に母親だった人が離縁届を置いて出て行ったと聞いた時は驚いたし、一人だけ逃げるなんて……とも思ったけれど、世間はそう甘くないらしい。
「今は、クロムウェル王国においてローウェル伯爵家という名は地に落ちたも同然のようになっている」
「……あんなに自分たちが“ローウェル伯爵家”であることを誇らしげで得意そうな顔をしていたのに皮肉なものですね」
「クロムウェル国内では、ローウェル伯爵家はもう終わりだという声が強い」
もう、終わり。
その言葉を聞いてその通りだと思った。
「終わるべき……だと私も思います」
ローウェル伯爵家の力は、伯爵を継いだ者から生まれた長子に発現する。
サヴァナが世間で悪女と呼ばれ、伯爵家の名も地に落ちたとなると、現状、あの家の跡継ぎとなれる者……いや、なりたい者などいないだろう。
父親だったあの人が私に家から出て行けと言った時、ローウェル伯爵家の今後について語っていた。
あの時はショックで話半分に聞いていたけれど……
サヴァナがクリフォード殿下と婚約し、そして私を追放することが満場一致で決まったローウェル伯爵家には、どうしても力を継がせる跡継ぎが必要だった。
そこで、選ばれたのはお父様の弟家族の子ども──私にとっては、いとこにあたる子どもを養子とすることだった。
(けれど、きっとこの騒動でその話も流れたはず)
誰だって好き好んで泥船になど乗りたくなんかない。だから、もう終わりでいい。
「でも、王家……いや、国王陛下だけはマルヴィナを連れ戻せば、伯爵家の力も大丈夫だと思っているらしいんだ」
「え?」
「よほど頭に血が上っているのか、周囲の話に聞く耳を持たないらしい」
「……そんな」
(これは……単純に私が子どもを産めば、その力が子に受け継がれるとか勘違いしていそうだわ)
そういうことではないのに。
しかも、ルウェルン国を怒らせることになるのに、私を連れ戻す?
私を追放すると決定した人の中に陛下もいたはずなのに、本当に手のひら返しが酷すぎる。
「───よっぽど国を破滅させたいんだろう。だから、そろそろ動くかもしれないよ」
トラヴィス様のその言葉に私は頷いた。
405
あなたにおすすめの小説
妹は謝らない
青葉めいこ
恋愛
物心つく頃から、わたくし、ウィスタリア・アーテル公爵令嬢の物を奪ってきた双子の妹エレクトラは、当然のように、わたくしの婚約者である第二王子さえも奪い取った。
手に入れた途端、興味を失くして放り出すのはいつもの事だが、妹の態度に怒った第二王子は口論の末、妹の首を絞めた。
気絶し、目覚めた妹は、今までの妹とは真逆な人間になっていた。
「彼女」曰く、自分は妹の前世の人格だというのだ。
わたくしが恋する義兄シオンにも前世の記憶があり、「彼女」とシオンは前世で因縁があるようで――。
「彼女」と会った時、シオンは、どうなるのだろう?
小説家になろうにも投稿しています。
そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。
木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。
ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。
不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。
ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。
伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。
偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。
そんな彼女の元に、実家から申し出があった。
事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。
しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。
アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。
※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)
私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。
ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。
しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。
もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが…
そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。
“側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ”
死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。
向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。
深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは…
※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。
他サイトでも同時投稿しています。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m
両親から謝ることもできない娘と思われ、妹の邪魔する存在と決めつけられて養子となりましたが、必要のないもの全てを捨てて幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたユルシュル・バシュラールは、妹の言うことばかりを信じる両親と妹のしていることで、最低最悪な婚約者と解消や破棄ができたと言われる日々を送っていた。
一見良いことのように思えることだが、実際は妹がしていることは褒められることではなかった。
更には自己中な幼なじみやその異母妹や王妃や側妃たちによって、ユルシュルは心労の尽きない日々を送っているというのにそれに気づいてくれる人は周りにいなかったことで、ユルシュルはいつ倒れてもおかしくない状態が続いていたのだが……。
婚約者と家族に裏切られたので小さな反撃をしたら、大変なことになったみたいです
柚木ゆず
恋愛
コストール子爵令嬢マドゥレーヌ。彼女はある日、実父、継母、腹違いの妹、そして婚約者に裏切られ、コストール家を追放されることとなってしまいました。
ですがその際にマドゥレーヌが咄嗟に口にした『ある言葉』によって、マドゥレーヌが去ったあとのコストール家では大変なことが起きるのでした――。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?
リオール
恋愛
侯爵家の執務を汗水流してこなしていた私──バルバラ。
だがある日突然、婚約者に婚約破棄を告げられ、父に次期当主は姉だと宣言され。出て行けと言われるのだった。
世間では姉が優秀、妹は駄目だと思われてるようですが、だから何?
せいぜい束の間の贅沢を楽しめばいいです。
貴方達が遊んでる間に、私は──侯爵家、乗っ取らせていただきます!
=====
いつもの勢いで書いた小説です。
前作とは逆に妹が主人公。優秀では無いけど努力する人。
妹、頑張ります!
※全41話完結。短編としておきながら読みの甘さが露呈…
玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。
昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。
入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。
その甲斐あってか学年首位となったある日。
「君のことが好きだから」…まさかの告白!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる