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62. 未来のために
しおりを挟む「魔術師が来るなら、いっそのこと懐柔してしまえばよくないかなと思って」
「か……懐柔ですか?」
首を傾げる私にトラヴィス様は言った。
「うん。ほら、阿呆王子たちはさっさと帰国させるためにあんな手段を用いることにしたけど……」
「え、ええ」
それって、ルウェルン語を理解出来ていないのを逆手にとったりした……あのことよね?
「魔術師たちは逆に懐柔してこちら側に引き入れる……のも有りかなと思うんだ」
「え!」
「魔術師たちがいなくなれば困るのはクロムウェル王国の方だろう?」
「それはその通りですけども」
ルウェルン国の魔術師ほど優れた力は使えなくても、確かに魔術師の力はあちらこちらで重宝されている。
それを引き抜かれると確かにクロムウェルとしては大きな痛手だ。
(懐柔してこちら側に……)
そんな上手くいくものかしら?
そう思った私に向かってトラヴィス様は不敵な笑みを浮かべた。
「どうやら報告によると、魔術師たちは阿呆王子たちのことをあまりよく思ってなかったみたいなんだ」
「……サヴァナたちを?」
「そう。それに……」
「それに?」
トラヴィス様は一旦言葉を切ると軽く息を吐いた。そして今度は少し寂しそうに笑う。
「仮にも“魔術師”を名乗っている者として、魔術の奥深さを知ったら彼らはマルヴィナの捜索よりもそっちに夢中になると思うんだよね」
「!」
「まぁ、これは魔術師としての勘……というかそうであって欲しいという俺の願いでもあるけれど」
トラヴィス様のその笑みに胸がキュッとした。
堪らなくなった私はギュッとトラヴィス様に抱きつく。
(そんな顔をしないで?)
「マルヴィナ?」
「不思議ですね……トラヴィス様の言うことなら何でもその通りになってしまいそうです」
「……それは」
「それは?」
私が顔を上げて聞き返すと、トラヴィス様の顔がそっと近づいて来てチュッとキスをされた。
「!?」
「───やっぱり愛の力じゃないかな?」
「あ、愛の力ですか?」
「そう──……」
トラヴィス様は身体を離すと、ヒョイッと私を抱き上げる。
そして、とびっきり甘い微笑みを私に向けた。その破壊力満点の微笑みに私の心臓が大きく跳ねる。
「ト、トラ……」
「俺は愛しいマルヴィナのためなら、何でも出来る気がするんだよね。だから、愛の力」
「っっっ!」
(ダ、ダメ……ちょ、直視出来ないーーーー!)
トラヴィス様の浮かべたその微笑みが、あまりにも美しすぎて私は一気に恥ずかしくなってしまい顔が直視出来ない。
「あ、赤くなった。本当に可愛い……」
「~~~っ」
耳元でそんな言葉を囁かれ、そのまま抱っこされた状態でトラヴィス様の部屋に連れ込まれたら、その後はたくさんたくさん愛でられた。
───
トラヴィス様の予想は当たっていたようで、クロムウェルの魔術師たちが王宮に到着するというその日、クロムウェルの兵が動いたとの報告を受けた。
(やっぱり、私の捜索……いえ、連れ戻し部隊はあちらが本命なんだわ……!)
そう確信する。
そして、私は男爵家にいるよりもトラヴィス様の側にいるのが一番安全だろうということで、サヴァナたちの時と同様に、変身魔法を使って変装した私はこっそりクロムウェル王国の魔術師たちを出迎える場に潜んでいた。
彼らは“私”を見ても何の反応も起こさなかった。
(やっぱり誰も私だと気付かないものなのね~……って、それよりも……)
出迎えた彼らは、ずっと恐縮していて、まるで何かに怯えているように見える。
まだ、戦争が始まったわけでもないのになぜ? と不思議に思った。
(これはルウェルン国を警戒している……とかかしらね)
しかし、最初こそ、そんなピリッとした空気が流れたものの、トラヴィス様の言うように彼らはやはり魔術師と名乗るだけあって、すぐにトラヴィス様の披露する魔術の虜になっていった。
これはもちろんトラヴィス様が敢えて彼らが食いつきそうな話題や魔術を披露したせいもあるけれど、彼らの頭の中にはマルヴィナの存在なんて無くなっているのでは?
そう聞きたくなるほどだった。
───その日、結局彼らは私の姿を見破ることもなければ、人探しをしているという言葉すら発することなく、「さすが、ルウェルン国は違う!」と、大変満足そうに本日の魔術の授業を終えていた。
(ええーーーー……?)
そして帰宅途中、トラヴィス様は私に言った。
「───思った通りだった。彼らなら“こちら側”に引き抜けると思うよ」
私も頷く。だって同意しかない。
「あの魔術師たち、本気で私を探すこと忘れているように見えましたね?」
「そうだったね。やっぱり彼らはマルヴィナの捜索には乗り気ではなかったんだと思うよ」
「……それならいいのですが。でも、最初は何に怯えていたのでしょう?」
「警戒……にしては真っ青だったな……」
そこだけはよく分からなくて私たちは二人で首を傾げた。
「とりあえず、明日以降の彼らの監視と面倒は他の魔術師に頼んである」
「では、私たちはクロムウェルを出発したという兵を撃退する方に集中出来そうですね!」
「ああ。マルヴィナには指一本触れさせない」
私は思う。
彼らは大人しく引き下がってくれるといいのだけれど。
もし、そうでないのなら……
私は自分の手のひらをじっと見つめる。
(───私は一切、容赦しないわ)
だって、大好きな人とこれから生きていく未来を守りたいから───
❋❋❋
一方、クロムウェルを密かに出国した兵たちは……
「殿下の話だと、マルヴィナ様はルウェルン国の貴族、イーグルトン男爵家という所に居候しているらしい」
「まさか、逃げ出していたとはな」
「そんな調子で本当に我が国を護ってくれるのかな」
「むしろ、本当に今度こそ守護の力は本物なのか? 王家が信じられないんだが……」
兵たちはサヴァナの件もあり、いまいち王家のことを信用しきれないというのが本音だった。
それでも命令だから仕方なく彼らはルウェルン国へと向かう。
とにかくウンザリするあの雨を止ませてくれる人だと聞いたから。
「陛下によると、マルヴィナ様が国に戻ることを嫌がるようなら、殴って気絶させてでもいいから連れ戻せって話だけど」
「げー……俺だったら自分にそんな仕打ちをする国なんて守りたくないな」
「分かる分かる。それなら、ルウェルン国の方を守護したくなるだろうよ」
そうなるとクロムウェルは困るよなー……なんて冗談半分でそんな話をしていたら、兵の一人が「そういえば……」と口にする。
「でも、筆頭魔術師の話だと、ローウェル伯爵家の力は、クロムウェル王国で授かった我が国特有のものだから、他国では効かないはずだと言っていたぞ?」
「へ~、それなら、安心か~」
「俺、国境を超える時にバシッて弾かれるんじゃないかと思っちまったよ~」
「なんじゃそりゃ……結界みたいに? ハハハ、もしそうなったら凄いなぁ」
「でも、クロムウェル王国以外を守護出来ないなら大丈夫ってことだろ? なら、安心だな!」
そんな話をしている彼らは知らない。
マルヴィナの容赦しないという決意。
そして、彼女がとにかく“規格外”の力の持ち主である、ということを────……
…………それから、クロムウェル王国の兵がルウェルン国にどうにか入国をしたその日。
クロムウェル王国では、サヴァナたちの帰国に合わせるかのように再び降り始め、続いていた雨がピタりと止んだ────
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