聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第一部:第二章 希望を胸に

(二)入寮③

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 寮は煉瓦と木が主体の建築物で、どこか大きな宿屋といった感がある。ラーソルバールの部屋がある一号棟は、隣接する学舎への通路に近く、塀からは遠い位置にあった。
 部屋は通路奥の門部屋。入ってみると室内は広くはないが、大きめの窓もあり、窮屈さを感じるものではない。
「ちゃんと家具もあるんだね。クローゼットとドレッサー、これだけあれば収納は問題なし。それから机とベッド、小さな食器棚とテーブル。うんうん」
 必要な物は揃っているようなので、とりあえずは安心する。
 寮では飲用水や、洗濯用の洗い場、トイレ、風呂などは共用のものを利用する決まりとなっている。食事は基本的には食堂で用意されるが、自室への持ち込みも可能とある。
 食事や風呂の時間こそ決まっているが、意外に幅があるため自由度は高い。
 まずは共用となる水回りの場所の確認を、と思っていた所で、部屋の扉を誰かがノックした。
「ラーソル、入ってもいい?」
 シェラの声だった。
「どうぞ、鍵は開いてるよ」
 扉を開けてシェラが笑顔で入ってきた。
「斜め向かいの部屋だよ、よろしくね! ラーソルの部屋番は一揃いだって聞いてたから、すぐに分かったよ。ここに来るの待ってたんだ」
「遅くなってごめんね、シェラはここに来たの早いんだね」
 シェラは照れながら「そこそこね」と返した。
 ラーソルバールは早起きが得意ではない、いや苦手の部類だろうか。ガイザも似たようなもので、おかげで迎えの馬車の時間が丁度良い程度だったが、もう少し早かったら辛かったに違いない。

 これから水回りを見に行こうと思っていた、と切り出すと、シェラは提案にすぐに賛成の意を示した。その水回りはさすがに国立の学校だけあって、綺麗なもので二人は感心しきりだった。特に大人数が入る風呂は広く、見たことのない大きさの湯船があり、とても驚いた。
 汗や埃に塗れての教練を受ける事もあり、濡れた布で体を拭くだけでは足りないのだろう。頭までしっかり洗える風呂場は、非常に重要なのだという事がよく分かる。
 二人はこれが一年生用のものであることを知り、更に驚いた。
 探検を終えて互いに部屋に戻り、しばらく荷物を片付けていると、気付けば昼になっていた。
「シェラ、お昼に行こう!」
 相棒を誘い、食堂へ急ぐ。
 試験の際に使用したのは学校の食堂で、寮の食堂は敷地の壁を挟んだ裏側にある。
 朝と夜、および休日は寮の食堂、それ以外の昼食は学校側で出される事になっている。ちなみに、食堂は入り口の立て札で、食事可能時間内なのかが分かるようになっている。
「遅くなったけど、間に合ったね」
 用意されていたのは軽食で、パンとハムと野菜、それとスープだった。
「どう、片付いた?」
 先に寮に着いていたシェラは、余裕たっぷりに尋ねた。
「私はもうちょっとかな。シェラって家では、誰かにやってもらってると思っていたから、結構意外だわ」
 パンに野菜を挟みながら、相棒をちらりと見る。
「いやいや、自分でやってるよ。執事が沢山いる訳じゃないからね、自分の事は自分でね」
 苦笑いで答えた。シェラの家は一男二女で、次女である彼女にはあまり手が行き届いていないらしい。父親がそれを不憫に思ったらしく、シェラに良縁の結婚相手を探し始めた。だが、本人は余計なお世話とばかりに、この道を選んだと話してくれた。
 剣は小さい頃から護身用に覚えさせられた、ということだが、何が役に立つことになるか分からないものである。
「ご一緒させてもらっていいですか?」
 ラーソルバールの背後から声がした。
 二人とも予想外の出来事で少々驚いた。声をかけてきたのは同じ新入生だろう、小柄な黒髪の少女だった。
 口にパンが入っていたので、ラーソルバールは動きだけで「どうぞ」という合図をする。
 シェラも同様で、笑顔だけ向けて歓迎した。
「私はミリエル・オーバニティです。よろしくお願いいたします。ミルエルシさんの隣の部屋になったので、ご挨拶も兼ねてなんですが」
「……堅苦しいのは要らないです。こちらこそよろしくお願いします。これからラーソルって呼んでください」
 ようやくパンを飲み込んで、挨拶を返す。
 騎士学校に入り、人の繋りが増えていく。色々な縁があり、少しずつ糸が繋がっていく。その喜びをかみしめていた。
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