聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第一部:第四章 ラーソルバールの休暇(前編)

(三)少しだけの涙①

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(三)

「ターシャさん、おはようございます!」
 宿屋に明るい声が響く。
「お嬢様! お久し振りです。昨日村にいらしたと聞いて、お会いしたくてウズウズしてました。本当に朝が待ち遠しかったんですよ」
 出迎えた宿の女将は、目を細めて喜んだ。
「私も久々の村で、少し舞い上がってます」
 ラーソルバールは嬉しそうに飛び跳ねる。その仕草が面白かったのか、女将は吹き出しそうになりながらも、笑いを堪えた。
「お嬢様、騎士学校に入学されたとお聞きしましたよ」
「皆さんのお陰で、無事入学出来ました」
 照れながら頭を下げる。
 村の人達が見守ってくれていたから、今の自分が有る。この村が自分の故郷であり、家である。ラーソルバールはその想いを無くした事はない。
「おめでとうございます。お嬢様の夢でしたものね。ついでに盗賊退治までしてこられるとは、お嬢様らしいですねえ」
「ありゃ、耳が早い」
「お客様からお聞きしましたよ。凄かったと驚いて居られました。でも、余り危険な事や無茶なことは、なさらないでくださいね。お嬢様に何か有ったら、村が大騒ぎになりますから」
「はぁ…努力します……」
 騎士になるのに、危険な事をするなと言われても困るが、無茶はしないようにしよう。少しだけ反省したラーソルバールだった。
「ラーソルちゃん、おはよう」
メルーナが顔を出した。良く寝たのか、疲れは無さそうに見える。
「おはようございます」
「昨日は女将から、お嬢様愛をいっぱい聞かされたわよ」
 ハッとして振り返ると、女将が笑みを浮かべて見ている。果たして何を語ったのだろうか、怖くて二人には聞けなかった。
「今日は特産品をご紹介がてら、案内させて頂きます。ここに居ますので、準備が出来ましたら声をかけてください」
 誤魔化すように本来の目的を切り出す。
 行商のために、村の特産品を定期的に買ってくれるようになれば嬉しい。
「はいよ、よろしくね」
 貴族の娘だと聞いても、どうも話し方を改めるという雰囲気ではない。ラーソルバールは気にする事はないし、女将もそれを聞き咎める訳でもない。どちらかと言えば堅苦しいのを嫌うのがラーソルバールの性分なので、自然な事なのかもしれない。
 メルーナが一旦自室に戻るのを見送ると、二人でゆっくりと歓談して時間を潰す。
 しばらくすると、男二人は行商に出かけ、メルーナのみが支度を終えて現れた。
「まずは麻織物から見ていきましょうか」
 視察も兼ねて各所を巡るため、昨日の馬車をそのまま利用している。料金は村持ちになっている。

 工房といった感の有る建物の前で、二人は馬車を停めて降りた。
「麻と申しましたが、正確には亜麻を利用しております。こちらの方が柔らかく、加工しやすいのだそうです」
 建物の中で見た織物は、メルーナの目を引くものだったようで、手にとってはしきりに感心していた。
「通気性も良く、丈夫なので旅装用のローブ等を作るには良いですが、防御という意味では衝撃吸収も弱く、鋭利な刃物の前では役に立ちません。何枚か重ねれば強いものは出来ると思いますが…」
「比較的暑い地域や、湿気の高い地域では普段着として向くんじゃないかい?」
 積極的に話すメルーナは、流石商売人と思わせた。工房を出る頃には、商談をまとめていたようで、満足そうな笑顔を浮かべていた。
 その後、芋畑、茶畑と巡り、昼食となった。
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