聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第一部:第五章 ラーソルバールの休暇(後編)

(三)帰宅①

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(三)

 休暇四日目。
 結局、ラーソルバールは伯爵と共に王都へ向かうことになった。
 馬車には伯爵と執事が乗り込む事になっており、そこに同乗する形になる。
 王都に着くまで、落ち着かない時間を過ごさねばならないのが分かっているので、昨晩から憂鬱になっている。さらに、慣れない来客用の豪華な部屋に一人で泊まるということもあり、全く落ち着かず夜はよく眠れていない。気を抜いたら、馬車で寝てしまいそうで怖い。
 寝惚けたままベッドに転がっていると、扉を叩く音が聞こえた。
「おはようございます! ラーソルバールお嬢様」
「どうぞ」
 メイドの声に上半身だけを起こして、迎え入れる。
「おはようございます、エレノールさん」
「よく眠れましたか?」
 朝から爽やかな雰囲気で、メイドが入ってきた。
 片やラーソルバールは、元々朝が弱いのに、さらに睡眠不足のせいで頭が冴えない。
「どう見えます?」
 うまい切り返しもできず、かなり失礼な物言いになってしまった。
「全然ダメでしたと、顔に書いてありますよ」
 苦笑いしながら、メイドは近寄ってきて髪を櫛でとかす。
 今更抵抗したところで、どうにもならないのは分かっているので、ラーソルバールはされるがまま受け入れている。
「だから私がお側で寝ましょうかと、申し上げましたのに」
「いやいや、そういう問題ではありません」
 てきぱきと動き、気の利く女性だが、どこか抜けたところが有るよう感じる。
 そこが親しみやすい所なのだろうか。
「馬車内が不安でしたら、私も王都まで同行いたしましょうか?」
 ラーソルバールの鬱々とした雰囲気を察したのだろうか。
 馬車内の雰囲気を変える、とても有難い申し出だが、そんな無理が通るとは思えない。
「そんな無理は言えません」
「伯爵様にご相談してみましょう」
 軽く答えるメイドに、驚いた。
「行けるとしても、支度もしてな……」
「済んでおります」
「ん?」
 想定外の答えが返ってきたので、反応に困った。
「メイドたる者、常に準備万端でなければなりません。お嬢様のお声掛りが有ると思い、このエレノール、昨晩のうちに準備を整えておきました」
 最初から付いてくる気だったということか。この人には敵わない。ラーソルバールは苦笑いするしかなかった。
 ただ、それを伯爵が許すかは別の話だと思っていたのだが……。そんな懸念も必要なかったようで、結局この後、メイドの申し出は強引に押し切る形で許可された。
「ふっふっふ。勝利です」
 ラーソルバールが身支度を整えた頃、メイドは不敵な笑みを浮かべて戻ってきた。
 ささやかな荷物を小脇に抱えてはいるが、服装は変わっていない。
「その格好で行くんですか」
「慣れてますし、動きやすいんです」
「あ……はぁ……」
 メイドの服というものは仕事上で支障のないように、動きやすいように作られているのだから、当然の事なのだが、外出するのにもそれで良いのかという、ラーソルバールの疑問は解消されることは無かった。
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