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第一部:第七章 部隊演習
(二)天秤①
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(二)
朝から始まった演習も、昼を迎える頃になっていた。
携帯用の日時計もあるが、正確な方角も分からないうえ、学校にあるような据え置き型の大きなものと違い、大まかな時間しか分からない。
時間と共に、疲労が表に出てきた。日々、基礎体力を鍛えるトレーニングをしてはいるが、やはり一年生と二年生では大きく差が出る。
白い襟巻きの一年生、紺色の襟巻きの二年生。その疲労の出方は、襟巻き無しでも判別が容易である程だった。
緊張のまま歩く事に慣れない一年生は、時折よろけて級友にぶつかりそうになる。このまま戦闘に至れば、手も足も出ないまま、終わる。それが分かっていても、安易な方法をとれば、敗北となる。
ちなみに敗北した側には、伝統の『運動訓練』が課せられる事になっている。『運動訓練』の過酷な内容に、音を上げるものも多い。一年生はそう聞かされている。
お互いに負けるわけにはいかない事情が、ここにある。
両陣営の動きは意外に、連携が取れていなかった。
青陣営は、エフィアナのもたらした情報を三班に伝えたものの、それについて協議することなく、三班は本陣への即時攻撃が有効であると判断し、敵本陣を目指して進行速度を速めた。
攻め寄せる敵軍を迎え撃つべく、二班は後退し本陣と連携するという決断に至る。各々が勝手に判断をした結果、当初の作戦が機能することなく、迷走する形になった。
通常であれば、明確な新たな指針を示さない限り勝利は遠のく。だが、赤陣営は斥候が全滅したことにより、敵の奇襲を警戒し、進行速度を上げる事が出来ずにいた。
結果、最初に戦闘に突入したのは、赤軍本陣の前に現れた青軍三班と、本陣を守る五班であった。何の捻りもない戦闘への導入に、赤軍は呆れた。
最初こそ青軍の増援に警戒したものの、それが無いと分かると攻勢に転じる。少し高台になった本陣の地形を生かし、弓を活用するなど攻撃に力を入れた。
行軍による疲労が蓄積した青軍と、ここまで動いておらずに疲労が無い赤軍とでは、明らかに動きが違った。結果、泥沼化すると思われた戦闘は、案外あっさりと、赤軍が本陣を守りきるという形で決着した。
赤軍の損害は二割、対する青軍は七割。生き残ったのは五名だけで、バラバラになって敗走した。決定的な敗北と言って良かった。
三班の敗走を知る由も無い二班は、疲労を考慮して、ややゆっくりと自軍本陣へと向かっていた。
「間もなく本陣だ。だが、我々は本陣の見えるこの位置で待機しよう。敵軍が現れた場合に奇襲を仕掛ける」
班長は声が大きくなりすぎぬよう配慮しつつ、皆に伝えた。
「ドラッセ……。あ……いや、班長。本陣に伝令を送るか?」
気になったのか、エフィアナが質問をする。
慌てたのか、班長を名前で呼び、即座に訂正した。
「それも考えたんだが、本陣は見通しが良すぎる。伝令を走らせれば、敵に見つかる可能性が高い。本陣には申し訳ないが、知らせないで置こうかと考えている」
「それで良いと思う。ただ、待つだけでなく、周囲に偵察を出すべきだと思う」
連携を取ることが出来れば、出来ることの幅が広がるが、やむを得ない。
だが、いつどの方向から、敵がやって来るのか知れない状況で、ただ待ち続ける手はない。敵の位置によっては、こちらも場所を変える必要が出てくる。
本陣より先に攻撃を受けたのでは意味が無い。あくまでも本陣という餌に食いついて貰わなくては困る。
「本陣側を除く、三方に偵察を出そう。但し、無理はさせない」
朝から始まった演習も、昼を迎える頃になっていた。
携帯用の日時計もあるが、正確な方角も分からないうえ、学校にあるような据え置き型の大きなものと違い、大まかな時間しか分からない。
時間と共に、疲労が表に出てきた。日々、基礎体力を鍛えるトレーニングをしてはいるが、やはり一年生と二年生では大きく差が出る。
白い襟巻きの一年生、紺色の襟巻きの二年生。その疲労の出方は、襟巻き無しでも判別が容易である程だった。
緊張のまま歩く事に慣れない一年生は、時折よろけて級友にぶつかりそうになる。このまま戦闘に至れば、手も足も出ないまま、終わる。それが分かっていても、安易な方法をとれば、敗北となる。
ちなみに敗北した側には、伝統の『運動訓練』が課せられる事になっている。『運動訓練』の過酷な内容に、音を上げるものも多い。一年生はそう聞かされている。
お互いに負けるわけにはいかない事情が、ここにある。
両陣営の動きは意外に、連携が取れていなかった。
青陣営は、エフィアナのもたらした情報を三班に伝えたものの、それについて協議することなく、三班は本陣への即時攻撃が有効であると判断し、敵本陣を目指して進行速度を速めた。
攻め寄せる敵軍を迎え撃つべく、二班は後退し本陣と連携するという決断に至る。各々が勝手に判断をした結果、当初の作戦が機能することなく、迷走する形になった。
通常であれば、明確な新たな指針を示さない限り勝利は遠のく。だが、赤陣営は斥候が全滅したことにより、敵の奇襲を警戒し、進行速度を上げる事が出来ずにいた。
結果、最初に戦闘に突入したのは、赤軍本陣の前に現れた青軍三班と、本陣を守る五班であった。何の捻りもない戦闘への導入に、赤軍は呆れた。
最初こそ青軍の増援に警戒したものの、それが無いと分かると攻勢に転じる。少し高台になった本陣の地形を生かし、弓を活用するなど攻撃に力を入れた。
行軍による疲労が蓄積した青軍と、ここまで動いておらずに疲労が無い赤軍とでは、明らかに動きが違った。結果、泥沼化すると思われた戦闘は、案外あっさりと、赤軍が本陣を守りきるという形で決着した。
赤軍の損害は二割、対する青軍は七割。生き残ったのは五名だけで、バラバラになって敗走した。決定的な敗北と言って良かった。
三班の敗走を知る由も無い二班は、疲労を考慮して、ややゆっくりと自軍本陣へと向かっていた。
「間もなく本陣だ。だが、我々は本陣の見えるこの位置で待機しよう。敵軍が現れた場合に奇襲を仕掛ける」
班長は声が大きくなりすぎぬよう配慮しつつ、皆に伝えた。
「ドラッセ……。あ……いや、班長。本陣に伝令を送るか?」
気になったのか、エフィアナが質問をする。
慌てたのか、班長を名前で呼び、即座に訂正した。
「それも考えたんだが、本陣は見通しが良すぎる。伝令を走らせれば、敵に見つかる可能性が高い。本陣には申し訳ないが、知らせないで置こうかと考えている」
「それで良いと思う。ただ、待つだけでなく、周囲に偵察を出すべきだと思う」
連携を取ることが出来れば、出来ることの幅が広がるが、やむを得ない。
だが、いつどの方向から、敵がやって来るのか知れない状況で、ただ待ち続ける手はない。敵の位置によっては、こちらも場所を変える必要が出てくる。
本陣より先に攻撃を受けたのでは意味が無い。あくまでも本陣という餌に食いついて貰わなくては困る。
「本陣側を除く、三方に偵察を出そう。但し、無理はさせない」
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