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第一部:第九章 エラゼルとラーソルバール(前編)
(二)エラゼルの姉③
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(三)
「外の警備の者は何をしている!」
「バルコニーに人を回せ!」
「会場には入れるな!」
怒号が飛び交う。
その様子を見て、エラゼルはただ呆然として立ち尽くしているような娘では無かった。
騒然とする会場を、壇上から冷静に眺める。
「ロガリオ、私の剣を持ってきて」
近侍していた侍従に告げると、バルコニーを睨んだ。
「あの、赤いドレス……」
ラーソルバールは動けずにいた。
先程までは感じ取れていた気配が、騒然とした会場の音に紛れ、今は感じ取れない。
視界、息遣い、殺気、どうやって敵を見付けるか。
一瞬の遅れが命取りになる。
手負いの侵入者が、見透かしたように笑みを浮かべる。
そして懐から何かを取り出して飲み込む。
恐らくは解毒薬だろう、ラーソルバールは直感した。暗殺者の武器に毒が塗布されていたとしても不思議ではない。
腕からの毒が回る前に、対処したという所だろう。
「標的を逃したばかりか、小娘に翻弄されたとあっては我らの名に傷がつく」
ラーソルバールを指差し、嘲るように笑う。
お前を殺す、そう宣言しているに等しい。
だが、バルコニーという、そう大きくない空間にいつ何処から来るのか。
果たして、本当に最初の標的は自分なのか。ラーソルバールに迷いが生じる。
手負いの男は、毒が効いているのか、まだ思うように動けずに居る。
風が舞い、ラーソルバールの髪を揺らす。
そして夜の澄んだ空気と草木の匂いを運んでくる。
「どうした、動けないのか!」
男が挑発する。
「イリアナ様、我々も彼女を助けに……」
護衛の一人が声を上げる。
「助けになれるのなら、行きなさい。邪魔をするだけなら、ここに居なさい」
「これでもデラネトゥス家の護衛でございます! 彼女の盾にはなれましょう!」
イリアナに詰め寄るように懇願する。
「ならばレガード、彼女は大切なお客様です。必ず守り抜きなさい」
「はい、御家の名誉のために!」
敬礼をすると人ごみを掻き分け、バルコニーへと駆け出した。
会場からは、ラーソルバールを支援するように、いくつかの魔法が投げかけられた。
防御強化、魔法盾、武器強化。
だが、毒刃がかすっただけでも死に至る可能性があるこの状況では、これらがあまり意味を成さない事をラーソルバール自身が知っている。
これだけ張り詰めた状態で動けないという経験が無いため、自身でも疲労感が増していくのが分かる。
ただ待つよりのは駄目だ。誘いをかけるしかない。
ラーソルバールは一瞬、疲れたふりをして構えを解く。
その瞬間、手負いの男の視線が動いた。
(そっちか!)
感じた殺気が迫る。
その瞬間だった。
「助勢いたします!」
青年がバルコニーに飛び込んできた。
「だめっ!」
ラーソルバールに向けられたはずの襲撃者の切っ先が、青年の肩を抉った。
「外の警備の者は何をしている!」
「バルコニーに人を回せ!」
「会場には入れるな!」
怒号が飛び交う。
その様子を見て、エラゼルはただ呆然として立ち尽くしているような娘では無かった。
騒然とする会場を、壇上から冷静に眺める。
「ロガリオ、私の剣を持ってきて」
近侍していた侍従に告げると、バルコニーを睨んだ。
「あの、赤いドレス……」
ラーソルバールは動けずにいた。
先程までは感じ取れていた気配が、騒然とした会場の音に紛れ、今は感じ取れない。
視界、息遣い、殺気、どうやって敵を見付けるか。
一瞬の遅れが命取りになる。
手負いの侵入者が、見透かしたように笑みを浮かべる。
そして懐から何かを取り出して飲み込む。
恐らくは解毒薬だろう、ラーソルバールは直感した。暗殺者の武器に毒が塗布されていたとしても不思議ではない。
腕からの毒が回る前に、対処したという所だろう。
「標的を逃したばかりか、小娘に翻弄されたとあっては我らの名に傷がつく」
ラーソルバールを指差し、嘲るように笑う。
お前を殺す、そう宣言しているに等しい。
だが、バルコニーという、そう大きくない空間にいつ何処から来るのか。
果たして、本当に最初の標的は自分なのか。ラーソルバールに迷いが生じる。
手負いの男は、毒が効いているのか、まだ思うように動けずに居る。
風が舞い、ラーソルバールの髪を揺らす。
そして夜の澄んだ空気と草木の匂いを運んでくる。
「どうした、動けないのか!」
男が挑発する。
「イリアナ様、我々も彼女を助けに……」
護衛の一人が声を上げる。
「助けになれるのなら、行きなさい。邪魔をするだけなら、ここに居なさい」
「これでもデラネトゥス家の護衛でございます! 彼女の盾にはなれましょう!」
イリアナに詰め寄るように懇願する。
「ならばレガード、彼女は大切なお客様です。必ず守り抜きなさい」
「はい、御家の名誉のために!」
敬礼をすると人ごみを掻き分け、バルコニーへと駆け出した。
会場からは、ラーソルバールを支援するように、いくつかの魔法が投げかけられた。
防御強化、魔法盾、武器強化。
だが、毒刃がかすっただけでも死に至る可能性があるこの状況では、これらがあまり意味を成さない事をラーソルバール自身が知っている。
これだけ張り詰めた状態で動けないという経験が無いため、自身でも疲労感が増していくのが分かる。
ただ待つよりのは駄目だ。誘いをかけるしかない。
ラーソルバールは一瞬、疲れたふりをして構えを解く。
その瞬間、手負いの男の視線が動いた。
(そっちか!)
感じた殺気が迫る。
その瞬間だった。
「助勢いたします!」
青年がバルコニーに飛び込んできた。
「だめっ!」
ラーソルバールに向けられたはずの襲撃者の切っ先が、青年の肩を抉った。
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