108 / 439
第一部:第九章 エラゼルとラーソルバール(前編)
(三)招かれざる客③
しおりを挟む
「貴様のような輩を、デラネトゥス家へ招いた憶えはない!」
エラゼルはゆっくりと切っ先を暗殺者に向ける。
「私はそこの女程甘くない。侵入者を殺さずに済ませようなどという、寛大な心は持ち合わせておらぬ」
いつもと変わらぬエラゼルの高圧的態度を見て、ラーソルバールは不謹慎にも口元が緩んだ。
(やっぱり格好良いね……)
言葉にしたところで、額面通り素直に受け取るとは思えないので、声には出さず心の中に止めて置く。
「お前もいつまでそんな汚らしい剣を持っている。これを使え」
エラゼルは暗殺者から視線を外さず、もう一本持ってきた剣をラーソルバールに放り投げる。
「おっと……」
右手の小剣を離さずに、受け取ろうとしたため、危うく取り損なうところだった。
「バルコニーだと、小剣の方が取り回しがきいていいんだけどなぁ……」
「この、たわけ者が……」
エラゼルは呆れ気味に溜め息をついた。
「レガードの借りもある。さっさと片付けるぞ」
「はいはい」
ラーソルバールはエラゼルと共闘できることが、少し嬉しかった。
剣を交えることはあったが、共に肩を並べることは無かった。
騎士になったら……、そんな淡い希望を持ってはいたが、それがこんなに早く来るとは思わなかった。
「小娘が二人になったところで、何ができようか」
多数の者に姿を晒した時点で、暗殺者としては失格かもしれない。
小娘にただしてやられただけでは、暗殺者としても武人としても面目が立たない。
だが、この二人を仕留めてしまえば、多少なりとも汚名は雪げる。
両の手に小剣を握り、小娘どもを全力で殺す。終われば動けぬ者は打ち捨てて帰り、再度標的を狙うまで、と覚悟を決めた。
「エラゼル・オシ・デラネトゥス、参る!」
先に動いたのはエラゼルだった。
弧を描く一閃を、暗殺者のは左の剣で受け、反撃を試みる。
だが、右からラーソルバールの横薙ぎが襲い掛かったため、剣を払い退けて一歩後退した。
今度は逆に暗殺者が二本の剣を駆使して、ラーソルバールに攻撃を仕掛ける。
だが、防御に徹するラーソルバールは、全てを剣で捌き有効打を与えない。
攻撃を繰り出すその横から、エラゼルが剣を突き出すと、暗殺者は慌てて飛び退った。
「ねえ、エラゼル…さっきから思ってたんだけどさ…」
「何だ?」
「ドレスって動きにくいよね……」
真顔でラーソルバールは言ったのだが、エラゼルには余程可笑しかったようで、珍しく笑い顔を見せた。
「この状況で、今更よくそんな冗談が言えるな……」
相手から視線を逸らさず、笑いながら答える。
その様子をちらりと横目で見て、ラーソルバールは嬉しそうな顔をした。
「もうね、全然動けないんだよ……っと」
今度はラーソルバールが先に仕掛ける。
踊るように数回、突きを繰り出し、足を止める。
「この程度で、どうにかなるとでも…」
暗殺者が攻撃を避けつつ、強がる。
「ぐっ……!」
その瞬間、暗殺者の脇腹をエラゼルの剣が深く捉えた。
衝撃と痛みにバランスをを崩しながらも、暗殺者は跳躍しベランダの柵に乗った。
ラーソルバールは正攻法でも何とかなるかとは思ったが、過剰な自信は危険だと判断した。
相手が戦士や騎士であれば、真っ向勝負でも良いかもしれないが、手の内が分からない相手には安全策をとる必要がある。エラゼルとの連携が最善だと考え、彼女もそれに即座に対応してみせた。
初めての割には結構いけるものだと感心し、結果に安堵する。
「さて、その傷では自慢の暗殺術もままなるまい。大人しく観念せよ」
エラゼルの勧告をあざ笑うかのように、暗殺者は小剣を投げつける。
その意図を理解しながら、エラゼルは難なくそれを払いのけた。
「阿呆が一人先走らねば、このようにならずに済んだものを。口惜しいな……」
男は捨て台詞を残し、柵から飛び降りた。
すぐさま後を追うように、腕を負傷した男が飛び降りる。
急いで柵に駆け寄り、庭をを見下ろしたラーソルバールだったが、男達の姿は既に消えていた。
暗闇の中に消えた男達は、いつか復讐にやってくるかもしれない。
だがその様子を見ても、エラゼルは後を追うよう指示は出さなかった。
「ラーソルバール・ミルエルシ。姉上の命を救い、奮戦してくれた事を感謝する」
エラゼルは宿敵に頭を下げた。
個人の感情よりも、大事なものがある。それを理解していた。
「いいえ、怪我人を出してしまったのは私のミスです。申し訳ありませんでした」
ラーソルバールも頭を下げた。
エラゼルも何も言わず頷き、それを受け止めた。
「レガードにすぐに毒消しを。暗殺者共の懐にあるはずだ急いで探せ!」
即座に暗殺者の捕縛と、怪我人の手当て、会場への対応指示をして、エラゼルは主役に戻った。
少し返り血を浴びた純白のドレスが、彼女にとっての勲章だったかもしれない。
こうして気絶している二人と、首の傷により恐らく死んでいるだろう一人、計三人の暗殺者を残して、襲撃事件は幕を閉じた。
エラゼルはゆっくりと切っ先を暗殺者に向ける。
「私はそこの女程甘くない。侵入者を殺さずに済ませようなどという、寛大な心は持ち合わせておらぬ」
いつもと変わらぬエラゼルの高圧的態度を見て、ラーソルバールは不謹慎にも口元が緩んだ。
(やっぱり格好良いね……)
言葉にしたところで、額面通り素直に受け取るとは思えないので、声には出さず心の中に止めて置く。
「お前もいつまでそんな汚らしい剣を持っている。これを使え」
エラゼルは暗殺者から視線を外さず、もう一本持ってきた剣をラーソルバールに放り投げる。
「おっと……」
右手の小剣を離さずに、受け取ろうとしたため、危うく取り損なうところだった。
「バルコニーだと、小剣の方が取り回しがきいていいんだけどなぁ……」
「この、たわけ者が……」
エラゼルは呆れ気味に溜め息をついた。
「レガードの借りもある。さっさと片付けるぞ」
「はいはい」
ラーソルバールはエラゼルと共闘できることが、少し嬉しかった。
剣を交えることはあったが、共に肩を並べることは無かった。
騎士になったら……、そんな淡い希望を持ってはいたが、それがこんなに早く来るとは思わなかった。
「小娘が二人になったところで、何ができようか」
多数の者に姿を晒した時点で、暗殺者としては失格かもしれない。
小娘にただしてやられただけでは、暗殺者としても武人としても面目が立たない。
だが、この二人を仕留めてしまえば、多少なりとも汚名は雪げる。
両の手に小剣を握り、小娘どもを全力で殺す。終われば動けぬ者は打ち捨てて帰り、再度標的を狙うまで、と覚悟を決めた。
「エラゼル・オシ・デラネトゥス、参る!」
先に動いたのはエラゼルだった。
弧を描く一閃を、暗殺者のは左の剣で受け、反撃を試みる。
だが、右からラーソルバールの横薙ぎが襲い掛かったため、剣を払い退けて一歩後退した。
今度は逆に暗殺者が二本の剣を駆使して、ラーソルバールに攻撃を仕掛ける。
だが、防御に徹するラーソルバールは、全てを剣で捌き有効打を与えない。
攻撃を繰り出すその横から、エラゼルが剣を突き出すと、暗殺者は慌てて飛び退った。
「ねえ、エラゼル…さっきから思ってたんだけどさ…」
「何だ?」
「ドレスって動きにくいよね……」
真顔でラーソルバールは言ったのだが、エラゼルには余程可笑しかったようで、珍しく笑い顔を見せた。
「この状況で、今更よくそんな冗談が言えるな……」
相手から視線を逸らさず、笑いながら答える。
その様子をちらりと横目で見て、ラーソルバールは嬉しそうな顔をした。
「もうね、全然動けないんだよ……っと」
今度はラーソルバールが先に仕掛ける。
踊るように数回、突きを繰り出し、足を止める。
「この程度で、どうにかなるとでも…」
暗殺者が攻撃を避けつつ、強がる。
「ぐっ……!」
その瞬間、暗殺者の脇腹をエラゼルの剣が深く捉えた。
衝撃と痛みにバランスをを崩しながらも、暗殺者は跳躍しベランダの柵に乗った。
ラーソルバールは正攻法でも何とかなるかとは思ったが、過剰な自信は危険だと判断した。
相手が戦士や騎士であれば、真っ向勝負でも良いかもしれないが、手の内が分からない相手には安全策をとる必要がある。エラゼルとの連携が最善だと考え、彼女もそれに即座に対応してみせた。
初めての割には結構いけるものだと感心し、結果に安堵する。
「さて、その傷では自慢の暗殺術もままなるまい。大人しく観念せよ」
エラゼルの勧告をあざ笑うかのように、暗殺者は小剣を投げつける。
その意図を理解しながら、エラゼルは難なくそれを払いのけた。
「阿呆が一人先走らねば、このようにならずに済んだものを。口惜しいな……」
男は捨て台詞を残し、柵から飛び降りた。
すぐさま後を追うように、腕を負傷した男が飛び降りる。
急いで柵に駆け寄り、庭をを見下ろしたラーソルバールだったが、男達の姿は既に消えていた。
暗闇の中に消えた男達は、いつか復讐にやってくるかもしれない。
だがその様子を見ても、エラゼルは後を追うよう指示は出さなかった。
「ラーソルバール・ミルエルシ。姉上の命を救い、奮戦してくれた事を感謝する」
エラゼルは宿敵に頭を下げた。
個人の感情よりも、大事なものがある。それを理解していた。
「いいえ、怪我人を出してしまったのは私のミスです。申し訳ありませんでした」
ラーソルバールも頭を下げた。
エラゼルも何も言わず頷き、それを受け止めた。
「レガードにすぐに毒消しを。暗殺者共の懐にあるはずだ急いで探せ!」
即座に暗殺者の捕縛と、怪我人の手当て、会場への対応指示をして、エラゼルは主役に戻った。
少し返り血を浴びた純白のドレスが、彼女にとっての勲章だったかもしれない。
こうして気絶している二人と、首の傷により恐らく死んでいるだろう一人、計三人の暗殺者を残して、襲撃事件は幕を閉じた。
0
あなたにおすすめの小説
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた
黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆
毎日朝7時更新!
「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」
過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。
絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!?
伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!?
追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!
辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~
リーフレット
ファンタジー
「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」
帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。
アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。
帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。
死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。
「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」
婚約破棄は構いませんが、私が管理していたものは全て引き上げます 〜成金伯爵家令嬢は、もう都合のいい婚約者ではありません〜
藤原遊
ファンタジー
成金と揶揄される伯爵家の令嬢である私は、
名門だが実情はジリ貧な公爵家の令息と婚約していた。
公爵家の財政管理、契約、商会との折衝――
そのすべてを私が担っていたにもかかわらず、
彼は隣国の王女と結ばれることになったと言い出す。
「まあ素敵。では、私たちは円満に婚約解消ですね」
そう思っていたのに、返ってきたのは
「婚約破棄だ。君の不出来が原因だ」という言葉だった。
……はぁ?
有責で婚約破棄されるのなら、
私が“善意で管理していたもの”を引き上げるのは当然でしょう。
資金も、契約も、人脈も――すべて。
成金伯爵家令嬢は、
もう都合のいい婚約者ではありません。
【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~
深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。
異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない
葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3)
「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー)
ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。
神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。
そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。
ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。
早く穏やかに暮らしたい。
俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。
【毎日18:00更新】
※表紙画像はAIを使用しています
転生幼子は生きのびたい
えぞぎんぎつね
ファンタジー
大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。
だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。
神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。
たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。
一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。
※ネオページ、カクヨムにも掲載しています
竜皇女と呼ばれた娘
Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた
ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる
その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ
国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる