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第一部:第九章 エラゼルとラーソルバール(前編)
(四)赤と白のドレス①
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(四)
誕生会の会場は平穏さを取り戻した。
衆目を引きつけた暗殺者達との戦いについては、デラネトゥス公爵から正式に謝罪が行われた。
「本日、皆様をお招きしておきながら、このような事態になりました事、誠に申し訳ありませんでした。皆様にお怪我が無かった事で、何より安堵いたしております」
公爵は深々と頭を下げた。
意外とも言えるその光景に会場がざわめく。貴族には、他者に頭を下げる事をよしとしない者も多い。貴族の最上位にあたる公爵家の当主が頭を下げると言うのは、異例の事態だったからだ。
公爵のこの行為は結果的には招待客らからの評価を高める事になったが、それを意図したものでは無いだろう。
「暗殺者はイリアナを狙ったものと推察されます。これはイリアナおよび、デラネトゥス家の不徳の致すところであります。また首謀者の特定および逮捕を、憲兵官に依頼いたします」
デラネトゥス伯爵の横には、イリアナとエラゼルの姿がある。
二人は至って平静であり、事件など無かったかのように見せている。ただ、エラゼルのドレスに付着した返り血だけが、事件を現実のものと証明していた。
ちなみに次女であるルベーゼは病ということで、この会に出席していない。
「本日、イリアナの危機を救ってくれたお客様がいらっしゃいますが、ご本人の希望によりご紹介できません。また、その方から、今回の一件は当家の警護の者が対応した事にして欲しいとのご依頼を受けております。皆様におかれましては、是非そのようにご記憶下さいますよう、御願い致します」
話は少し前に戻る。
ラーソルバールとエラゼルが会場に引き上げてくると、会場は大歓声で二人を向かえた。
白いドレスの少し後ろに揺れる赤いドレス。衆目から避けるようにラーソルバールは、エラゼルの背後を歩く。
皆、エラゼルに遠慮してか道をあけ、寄って来る者は居ない。
「良いのか? 今回の件が公になれば、国内の多くの者がラーソルバール・ミルエルシという名を知る事になる。英雄のような扱いを受けることも有るだろうに」
「そんなの面倒なだけだし、余計な揉め事に巻き込まれそうで嫌。それに暗殺者に知られると……」
「知られると? 命を狙われ……」
エラゼルは、はたと足を止め、慌てて振り返った。
「うん」
口を開けて焦るエラゼルを見て、ラーソルバールは頷いた。
「思い切り、名を呼んだな……」
「ついでにエラゼルも名乗ったよね」
「すまん……」
ガックリと肩を落とすエラゼルを見て、ラーソルバールは吹き出した。
今日は、普段見られないエラゼルの姿が色々と見られた。不思議な一日になったものだと振り返った。
幸い、青年レガードは暗殺者が所持していた毒消しで早期対応したことにより、事なきを得た。また、邸内の警備についていた者達に、死傷者は無かった。誰もが姿を消した暗殺者達の存在に気付かなかった事が、結果的に幸いしたといえる。
ただ、公爵家の警備の甘さが露呈した形となり非常に問題視されており、今後は暗殺者の侵入を検知できるよう、訓練もしくは人員の入れ替えが発生する可能性は大いにあるだろう。
「まあ、何よりイリアナ様が無事で良かった……」
「そうだな。それは感謝してもしきれぬ。父上にも色々と言い含んでおくから、安心していい」
初めてエラゼルがラーソルバールに優しい笑顔を向けた。
誕生会の会場は平穏さを取り戻した。
衆目を引きつけた暗殺者達との戦いについては、デラネトゥス公爵から正式に謝罪が行われた。
「本日、皆様をお招きしておきながら、このような事態になりました事、誠に申し訳ありませんでした。皆様にお怪我が無かった事で、何より安堵いたしております」
公爵は深々と頭を下げた。
意外とも言えるその光景に会場がざわめく。貴族には、他者に頭を下げる事をよしとしない者も多い。貴族の最上位にあたる公爵家の当主が頭を下げると言うのは、異例の事態だったからだ。
公爵のこの行為は結果的には招待客らからの評価を高める事になったが、それを意図したものでは無いだろう。
「暗殺者はイリアナを狙ったものと推察されます。これはイリアナおよび、デラネトゥス家の不徳の致すところであります。また首謀者の特定および逮捕を、憲兵官に依頼いたします」
デラネトゥス伯爵の横には、イリアナとエラゼルの姿がある。
二人は至って平静であり、事件など無かったかのように見せている。ただ、エラゼルのドレスに付着した返り血だけが、事件を現実のものと証明していた。
ちなみに次女であるルベーゼは病ということで、この会に出席していない。
「本日、イリアナの危機を救ってくれたお客様がいらっしゃいますが、ご本人の希望によりご紹介できません。また、その方から、今回の一件は当家の警護の者が対応した事にして欲しいとのご依頼を受けております。皆様におかれましては、是非そのようにご記憶下さいますよう、御願い致します」
話は少し前に戻る。
ラーソルバールとエラゼルが会場に引き上げてくると、会場は大歓声で二人を向かえた。
白いドレスの少し後ろに揺れる赤いドレス。衆目から避けるようにラーソルバールは、エラゼルの背後を歩く。
皆、エラゼルに遠慮してか道をあけ、寄って来る者は居ない。
「良いのか? 今回の件が公になれば、国内の多くの者がラーソルバール・ミルエルシという名を知る事になる。英雄のような扱いを受けることも有るだろうに」
「そんなの面倒なだけだし、余計な揉め事に巻き込まれそうで嫌。それに暗殺者に知られると……」
「知られると? 命を狙われ……」
エラゼルは、はたと足を止め、慌てて振り返った。
「うん」
口を開けて焦るエラゼルを見て、ラーソルバールは頷いた。
「思い切り、名を呼んだな……」
「ついでにエラゼルも名乗ったよね」
「すまん……」
ガックリと肩を落とすエラゼルを見て、ラーソルバールは吹き出した。
今日は、普段見られないエラゼルの姿が色々と見られた。不思議な一日になったものだと振り返った。
幸い、青年レガードは暗殺者が所持していた毒消しで早期対応したことにより、事なきを得た。また、邸内の警備についていた者達に、死傷者は無かった。誰もが姿を消した暗殺者達の存在に気付かなかった事が、結果的に幸いしたといえる。
ただ、公爵家の警備の甘さが露呈した形となり非常に問題視されており、今後は暗殺者の侵入を検知できるよう、訓練もしくは人員の入れ替えが発生する可能性は大いにあるだろう。
「まあ、何よりイリアナ様が無事で良かった……」
「そうだな。それは感謝してもしきれぬ。父上にも色々と言い含んでおくから、安心していい」
初めてエラゼルがラーソルバールに優しい笑顔を向けた。
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