聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第一部:第十章 エラゼルとラーソルバール(中編)

(二)情熱②

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 父親、という言葉で思い出す。
「お父様かぁ……、父上は多分来てくれないだろうなあ」
 先日帰宅した際に、大会の日程も伝えているが、体の不自由な父が、司書の仕事に都合をつけてまで、来てくれるだろうか。
 父との関係が悪いわけでもないし、他の家庭を羨むつもりはないが、もっと健康であってくれたらと、時折無いものねだりをしてしまう。
 だから、せめて父に褒めて貰いたい。
 いつもはしないが、この大会には少しだけ個人的な感情を混ぜてしまおう。恥ずかしくない結果を父に持って帰るために。

 大会は順調に三日目に突入した。
 この日は二回戦が行われる事になっていた。
 誰もが予想した通り、エラゼルは圧倒的な力の差を見せつけ、快勝。
 周囲を歓声の渦に巻き込んだ。
 シェラはやや腕の立つ男子生徒に手こずったが、日頃の訓練の成果か、これを退けて勝利を飾った。
 試合を見ていた観客は意外な結果に見えたようだったが、フォルテシアは平然と受け止めた。「勝って当たり前」と思っていたようだ。
 そのフォルテシアも、槍を操る相手に全く自分の戦いをさせることなく、あっさりと勝負を決めた。
 ガイザ、グレイズ、ジェスターの男子生徒三名も余裕で勝ち上がり、ミリエルも初戦と同様、パワフルな試合運びで完勝したが、剣よりも軍学志向のエミーナは、剣の腕で上回る男子生徒に敗北してしまった。
 エミーナは負けて戻ってきた時も案外あっさりしており、「もっと訓練しないとね」と反省していた。

 ラーソルバールはというと、開始直後に突っ込んできた相手の剣を絡め取り、首元に剣を突きつけて即時に終了させるという、全く遠慮の無い試合をして見せた。
 個人的な感情は置くとして、ラーソルバールには、将来騎士として戦場で背中を預ける仲間となる者達に強くなってもらいたい、戦場に赴いた際にも皆が無事に帰ってきて欲しいという願望を持っている。
 それが同期であれば、尚更だ。
 幼年学校当時のように、騎士になる可能性が殆ど無い相手と戦うのとは、訳が違う。
 自分のような者に即座に負けるようであれば、もっと訓練をしなくてはいけないと、と考えて欲しい、そう願っての事だった。
 エラゼルをして「やる気が有るのか、無いのか」分からないように見えたのは、それが理由だった。

 この日の全試合終了後、代表会の招集により、またフォルテシアが連れていかれた。
 三日目以降の組み合わせを決めるという事だった。
 確かにトーナメント表にでは、明確な記載があるのは二回戦までで、それより上は意味ありげに点線で記されていた。
「ってことは、フォルテシアが帰って来れば、明日以降の組み合わせが分かる訳ね。私は二つ勝った時点で高望みはしないけどさ」
 シェラが半ば諦めたように言う。
「シェラさんは、まだこれからが有るんだから、そんな事言わずに」
 エミーナに励まされた。自身の試合はもう無いので、案外気楽なのかもしれない。
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