134 / 439
第一部:第十一章 エラゼルとラーソルバール(後編)
(四)素顔のエラゼル②
しおりを挟む
「私なんて、エラゼルに負けてるところばっかりだよ。剣の勝負ぐらい勝たせて貰わなきゃ、不公平ってもんでしょ」
「……うふふ、不公平……ですか。私達『貴族』は不公平な世の中の上に立つような存在ですよ」
エラゼルは笑った。頬を伝う涙は残ったままだ。
スッキリしたと言うものの、まだ心の中で整理がつかないものはあるのだろうか。
戸惑いを残したような笑顔が、ラーソルバールには気になった。
だが、その答えはすぐに分かる事になる。
「……ラーソルバール、貴女に……お願いがあります」
エラゼルからのお願いと言われて、一瞬驚いた。躊躇するように途切れがちに言われると、身構えてしまう。
「ん? ……私に出来ること?」
「……貴女にしか出来ない」
「?」
「……その……私の…………友……に……なって欲しい……」
最後の方は消え入りそうな声で訴えかける。
エラゼルは頬を染め、話しながら段々と俯いていき、終いには下を向いてしまった。
「ええーっ、改めて言われると困っちゃうよ。今まで一杯追いかけられたし……」
慌ててラーソルバールの顔を見て、申し訳無さそうに縮こまるエラゼル。
その様子が可笑しくて、ラーソルバールは笑ってしまった。からかった甲斐があるというものだ。
「冗談だよ、これからも……いえ、今まで以上によろしくね、エラゼル」
その言葉を聞いて、エラゼルの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ありが……とう……」
泣き出したエラゼルは嗚咽しながら立ち尽くし、ラーソルバールが差し出した手にも気付かぬ程だった。ここに至るまで余程思いつめていたのだろう。
自分を隠して肩肘張って頑張ってきたのだろうが、本当は素直な普通の女の子なのだろう。そう感じてラーソルバールは思わずエラゼルを抱き寄せた。
「ねえ、エラゼル……。私は貴族とは名ばかりの貧乏男爵家の娘だよ。公爵家のエラゼルとは大分格が違うけど、大丈夫?」
「家柄や格なんて関係ありません。友は友です。誰にも文句は言わせません」
涙で上ずった声で、エラゼルは約束した。
「まあ、他人が見たら、私はただの取り巻きだけどね」
ラーソルバールは苦笑した。
「それは困りますが……」
悲しそうな声を出す。
「そうならないように、努力するよ……あ……」
ラーソルバールは思い出したように腕を解くと、肩に手を置き、エラゼルの目を見つめた。
「そうそう、エラゼルはこれからどうするの? ここは辞めるの?」
「何故です?」
不思議そうに首を傾げる。
「イリアナ様が仰っていたけど、貴女がここに来た目的は宿敵である私を……」
「あー、いや、その……。結果がどうあろうと、一度ここに入ると決めた時から、最後までやりきるつもりでいました。………全く、姉上め余計な事を……」
最後に小さく恨み節を入れたが、決めた事をやり抜く、その真っ直ぐさこそエラゼルなのだと、ラーソルバールは改めて理解した。
「それを聞いて安心したよ……って、もうひとつ大事な事を忘れていた。エラゼル、私と一緒に居る友達もよろしくね」
「承知しました」
涙を手で拭いながら、笑顔で答える。
「そういえば先程、黒髪の娘とも話したような……」
「何を?」
「忘れました……」
そう言って、エラゼルは照れくさそうに笑った。
自分はずっとこの快活で真っ直ぐな娘を宿敵と位置づけ、複雑な感情を抱き続けていた。敵対心や競争心、そして憧れや……好感。あの娘の言葉で気付かされたのかもしれない。
ここまで随分と回り道をしたものだ。
これからは少し違う世界が見えるかもしれない。期待して居よう。
……これから?
「そうだ、私もひとつ言い忘れていた事があります……」
「なに?」
エラゼルがニヤリと笑い、ラーソルバールを指差す。
「来年は……来年こそはそなたを叩き潰して、私が勝つ!」
言葉とは裏腹に爽やかな美しい笑顔をラーソルバールに向ける。
「はいはい」
二人は大声で笑い合った。
「……うふふ、不公平……ですか。私達『貴族』は不公平な世の中の上に立つような存在ですよ」
エラゼルは笑った。頬を伝う涙は残ったままだ。
スッキリしたと言うものの、まだ心の中で整理がつかないものはあるのだろうか。
戸惑いを残したような笑顔が、ラーソルバールには気になった。
だが、その答えはすぐに分かる事になる。
「……ラーソルバール、貴女に……お願いがあります」
エラゼルからのお願いと言われて、一瞬驚いた。躊躇するように途切れがちに言われると、身構えてしまう。
「ん? ……私に出来ること?」
「……貴女にしか出来ない」
「?」
「……その……私の…………友……に……なって欲しい……」
最後の方は消え入りそうな声で訴えかける。
エラゼルは頬を染め、話しながら段々と俯いていき、終いには下を向いてしまった。
「ええーっ、改めて言われると困っちゃうよ。今まで一杯追いかけられたし……」
慌ててラーソルバールの顔を見て、申し訳無さそうに縮こまるエラゼル。
その様子が可笑しくて、ラーソルバールは笑ってしまった。からかった甲斐があるというものだ。
「冗談だよ、これからも……いえ、今まで以上によろしくね、エラゼル」
その言葉を聞いて、エラゼルの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ありが……とう……」
泣き出したエラゼルは嗚咽しながら立ち尽くし、ラーソルバールが差し出した手にも気付かぬ程だった。ここに至るまで余程思いつめていたのだろう。
自分を隠して肩肘張って頑張ってきたのだろうが、本当は素直な普通の女の子なのだろう。そう感じてラーソルバールは思わずエラゼルを抱き寄せた。
「ねえ、エラゼル……。私は貴族とは名ばかりの貧乏男爵家の娘だよ。公爵家のエラゼルとは大分格が違うけど、大丈夫?」
「家柄や格なんて関係ありません。友は友です。誰にも文句は言わせません」
涙で上ずった声で、エラゼルは約束した。
「まあ、他人が見たら、私はただの取り巻きだけどね」
ラーソルバールは苦笑した。
「それは困りますが……」
悲しそうな声を出す。
「そうならないように、努力するよ……あ……」
ラーソルバールは思い出したように腕を解くと、肩に手を置き、エラゼルの目を見つめた。
「そうそう、エラゼルはこれからどうするの? ここは辞めるの?」
「何故です?」
不思議そうに首を傾げる。
「イリアナ様が仰っていたけど、貴女がここに来た目的は宿敵である私を……」
「あー、いや、その……。結果がどうあろうと、一度ここに入ると決めた時から、最後までやりきるつもりでいました。………全く、姉上め余計な事を……」
最後に小さく恨み節を入れたが、決めた事をやり抜く、その真っ直ぐさこそエラゼルなのだと、ラーソルバールは改めて理解した。
「それを聞いて安心したよ……って、もうひとつ大事な事を忘れていた。エラゼル、私と一緒に居る友達もよろしくね」
「承知しました」
涙を手で拭いながら、笑顔で答える。
「そういえば先程、黒髪の娘とも話したような……」
「何を?」
「忘れました……」
そう言って、エラゼルは照れくさそうに笑った。
自分はずっとこの快活で真っ直ぐな娘を宿敵と位置づけ、複雑な感情を抱き続けていた。敵対心や競争心、そして憧れや……好感。あの娘の言葉で気付かされたのかもしれない。
ここまで随分と回り道をしたものだ。
これからは少し違う世界が見えるかもしれない。期待して居よう。
……これから?
「そうだ、私もひとつ言い忘れていた事があります……」
「なに?」
エラゼルがニヤリと笑い、ラーソルバールを指差す。
「来年は……来年こそはそなたを叩き潰して、私が勝つ!」
言葉とは裏腹に爽やかな美しい笑顔をラーソルバールに向ける。
「はいはい」
二人は大声で笑い合った。
0
あなたにおすすめの小説
ボンクラ王子の側近を任されました
里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」
王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。
人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。
そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。
義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。
王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?
辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~
リーフレット
ファンタジー
「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」
帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。
アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。
帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。
死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。
「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
婚約破棄は構いませんが、私が管理していたものは全て引き上げます 〜成金伯爵家令嬢は、もう都合のいい婚約者ではありません〜
藤原遊
ファンタジー
成金と揶揄される伯爵家の令嬢である私は、
名門だが実情はジリ貧な公爵家の令息と婚約していた。
公爵家の財政管理、契約、商会との折衝――
そのすべてを私が担っていたにもかかわらず、
彼は隣国の王女と結ばれることになったと言い出す。
「まあ素敵。では、私たちは円満に婚約解消ですね」
そう思っていたのに、返ってきたのは
「婚約破棄だ。君の不出来が原因だ」という言葉だった。
……はぁ?
有責で婚約破棄されるのなら、
私が“善意で管理していたもの”を引き上げるのは当然でしょう。
資金も、契約も、人脈も――すべて。
成金伯爵家令嬢は、
もう都合のいい婚約者ではありません。
異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない
葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3)
「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー)
ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。
神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。
そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。
ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。
早く穏やかに暮らしたい。
俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。
【毎日18:00更新】
※表紙画像はAIを使用しています
転生幼子は生きのびたい
えぞぎんぎつね
ファンタジー
大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。
だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。
神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。
たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。
一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。
※ネオページ、カクヨムにも掲載しています
【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~
深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる