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第一部:第十四章 崩れゆくもの
(一)夢の正体②
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お茶と少しの菓子、それだけで十分に時間が潰れた。
エラゼルが家の不満を色々と言うので、私は完全に聞き役に回っていた。
姉上と、いったら全く。から始まり、父上は厳しくてかなわん、とまで。
時に笑ったり、真剣に聞き入ったりと、近くて遠かった二人の七年分を埋めるのにとても役立った。
おかげで夢の事を考えずに済んだので良かったのだが、もしかするとそれ自体がエラゼルが意図した事だったのかもしれない。
そうやってエラゼルと居る事で、少しだけ気持ちに余裕が出来た。
一人ではないという事が、嬉しい事なのだと実感させられる。
父にも事情があり、弱みを見せたり甘える事が負担になると考えたため、それができなかった。
エラゼルに頼る事が正しいことかと言われれば違うかもしれない。
彼女にとっては、もしかしたらただの暇つぶしかもしれないが、一緒に居てくれると言ってくれたことが、ただ嬉しかった。
人がまばらな食堂で食事を共にし、そのあとで風呂も一緒に入った。
分かってはいたが、やはりというか何と言うか、エラゼルのスタイルの良さに少し凹んだ。
私と体格は大差ないのだが、出るところが出ていて、少し羨ましかった。
神様はこの人にどれだけ贔屓するのだろうかと、柄にもない事を考えてしまった。
うん、深くは考えないで置こう。そう決めて浴場を後にした。
風呂上りに幼年学校時代の話をしながら、ゆったりと二人で過ごした後のこと。
「エラゼル、やっぱり部屋に戻らないの?」
いつまでも彼女が部屋に戻る様子が無いので、気になって聞いてみた。
「問題は悪夢なのだろう? 一緒に寝れば良いではないか」
いとも簡単に、あっさりと想定内の答えが返ってきた。
最初からそのつもりだったという事らしい。
公爵家のお嬢様が、寮のベッドで二人で寝るという事が私には想像できない。
「大きめに作られているとは言え、二人で寝たら狭くない?」
「多少は窮屈かも知れんな。狭いのは嫌なのか?」
「いやそうではなくて…、うちの実家のベッドは狭いから慣れているけど、エラゼルが大丈夫なのかと……」
「まあ、寝相は良いほうなのであまり気にならんかな…」
はい、分かりました。どうしてもここで寝ていくという事ですね。
寮の規則上は特に問題ないし、まだ休暇中で人も少ないから気にする人もいないだろう。
「はいはい、じゃあ寒いから風邪ひかないようにしないとね」
「気をつけよう」
エラゼルは微笑んだ。
「じゃあ、寝ようか」
悪夢のせいで寝不足になっているせいか、やけに眠いし、体もだるい。
部屋を片付けてから二人でベッドに潜り込むと、ランタンの火を消した。
暗くなったとは言え、カーテンの隙間から差し込む月明かりに照らされて、エラゼルの顔が良く見える。
「何だ?」
エラゼルの顔を見て、にやついていたらエラゼルに気付かれた。
「ううん、何でもない。今日はありがとう」
「気にするな。寝ている間に布団を奪うかも知れんが、それも気にするな」
エラゼルは本気とも冗談ともつかぬ事を言う。
「さっき寝相いいって言ってたよね…」
「ふむ、言った気がするな」
そう言うと彼女は楽しそうに笑った。
「誰かと同じベッドで寝るというのは、幼い頃に姉上達と一緒に寝たとき以来だな……」
思い出すように遠い目をした後、エラゼルは目を閉じた。
「おやすみ…」
「ああ、おやすみ」
そして、私は眠りに落ちた。
エラゼルが家の不満を色々と言うので、私は完全に聞き役に回っていた。
姉上と、いったら全く。から始まり、父上は厳しくてかなわん、とまで。
時に笑ったり、真剣に聞き入ったりと、近くて遠かった二人の七年分を埋めるのにとても役立った。
おかげで夢の事を考えずに済んだので良かったのだが、もしかするとそれ自体がエラゼルが意図した事だったのかもしれない。
そうやってエラゼルと居る事で、少しだけ気持ちに余裕が出来た。
一人ではないという事が、嬉しい事なのだと実感させられる。
父にも事情があり、弱みを見せたり甘える事が負担になると考えたため、それができなかった。
エラゼルに頼る事が正しいことかと言われれば違うかもしれない。
彼女にとっては、もしかしたらただの暇つぶしかもしれないが、一緒に居てくれると言ってくれたことが、ただ嬉しかった。
人がまばらな食堂で食事を共にし、そのあとで風呂も一緒に入った。
分かってはいたが、やはりというか何と言うか、エラゼルのスタイルの良さに少し凹んだ。
私と体格は大差ないのだが、出るところが出ていて、少し羨ましかった。
神様はこの人にどれだけ贔屓するのだろうかと、柄にもない事を考えてしまった。
うん、深くは考えないで置こう。そう決めて浴場を後にした。
風呂上りに幼年学校時代の話をしながら、ゆったりと二人で過ごした後のこと。
「エラゼル、やっぱり部屋に戻らないの?」
いつまでも彼女が部屋に戻る様子が無いので、気になって聞いてみた。
「問題は悪夢なのだろう? 一緒に寝れば良いではないか」
いとも簡単に、あっさりと想定内の答えが返ってきた。
最初からそのつもりだったという事らしい。
公爵家のお嬢様が、寮のベッドで二人で寝るという事が私には想像できない。
「大きめに作られているとは言え、二人で寝たら狭くない?」
「多少は窮屈かも知れんな。狭いのは嫌なのか?」
「いやそうではなくて…、うちの実家のベッドは狭いから慣れているけど、エラゼルが大丈夫なのかと……」
「まあ、寝相は良いほうなのであまり気にならんかな…」
はい、分かりました。どうしてもここで寝ていくという事ですね。
寮の規則上は特に問題ないし、まだ休暇中で人も少ないから気にする人もいないだろう。
「はいはい、じゃあ寒いから風邪ひかないようにしないとね」
「気をつけよう」
エラゼルは微笑んだ。
「じゃあ、寝ようか」
悪夢のせいで寝不足になっているせいか、やけに眠いし、体もだるい。
部屋を片付けてから二人でベッドに潜り込むと、ランタンの火を消した。
暗くなったとは言え、カーテンの隙間から差し込む月明かりに照らされて、エラゼルの顔が良く見える。
「何だ?」
エラゼルの顔を見て、にやついていたらエラゼルに気付かれた。
「ううん、何でもない。今日はありがとう」
「気にするな。寝ている間に布団を奪うかも知れんが、それも気にするな」
エラゼルは本気とも冗談ともつかぬ事を言う。
「さっき寝相いいって言ってたよね…」
「ふむ、言った気がするな」
そう言うと彼女は楽しそうに笑った。
「誰かと同じベッドで寝るというのは、幼い頃に姉上達と一緒に寝たとき以来だな……」
思い出すように遠い目をした後、エラゼルは目を閉じた。
「おやすみ…」
「ああ、おやすみ」
そして、私は眠りに落ちた。
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