聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第一部:第十六章 動乱

(二)覚悟③

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 荒れ狂う嵐の如く兵士を薙倒すジャハネートと、相手を翻弄しつつ舞うように敵を倒すラーソルバール。
 その姿は、強襲した兵士達を恐怖させた。
 講堂内に居る兵士の数は増え、五十人程は居る。
 だが、二人を掻い潜って宰相を狙うという事の困難さを目の当たりにし、腰が引けていた。
「怯むな、行け!」
 隊長格だろうか、兵士達の後ろから声が響く。
 だが、兵士達の足は動かない。
 戦意の衰えた兵士に檄を飛ばしたところで、それが改善するはずもない。
 誰かが二人に抗えると、証明して見せれば良いだけだ。
 隊長の命に応えるように、一際体の大きな男が二人を止めようと立ち塞がる。
「殊勝じゃないか。ただ、図体ばかりでかくても駄目なんだよっ!」
 ジャハネートの剣が唸る。
 辛うじて大男はその剣を自らの剣で受け止めた。
 そのまま力勝負に持ち込もうと、体重をかけて押し込もうとする。
「力勝負なんて、ランドルフの馬鹿にでも挑みな!」
 ジャハネートが体を捻って力を横に逃がすと、大男はよろけて前のめりになる。
 その瞬間、ジャハネートは一回転して、後頭部を目掛け、恐ろしい速度で振り下ろした。
 ガンという激しい音がした直後、男はそのまま力無くゆっくりと倒れ込んだ。
「アンタが戦場で会った敵国兵なら、その首落としてるところだよ」
 ジャハネートも、相手が国内の反乱分子だと分かっている様子だった。憐れむような視線を落とした後、不機嫌そうに手にした剣を見る。
「ち、剣が曲がっちまったよ。これだから重いばかりで出来の悪い剣は嫌だね」
 ジャハネートは剣を投げ捨てると、たった今倒した男の手から剣を奪い取る。

「複数でかかれ!」
 期待した兵士があっさりと倒された事に慌てた男は、生徒達には目もくれずに標的を指差した。
「正念場ですか?」
「いやぁ、まだ足りないねぇ」
 不敵に笑うジャハネートを見ていると、焦りが消える。
 これが騎士団長の存在感というものか。ラーソルバールはそれを肌で感じた。
 一斉に襲い掛かる兵士を相手に、ラーソルバールも少々苦戦する。
 それでも確実にひとりずつ倒し、宰相に近寄らせない。

「ラーソルバール! 無事か?」
 兵士達の後方からエラゼルの声が聞こえる。
「何とかね! そっちは大丈夫? 避難は終わった?」
「皆で抑えている。あとは負傷者の搬送だけだ!」
 敵を前に余裕とも思える会話をする。
(アル兄、エフィ姉どうしてるんだろ……)
 考えながらも、手も体も止める訳にはいかない。
 いつの間にか、軍務大臣ナスターク侯爵が剣を持って戦っているのが見えた。さすがは元騎士といった剣捌きで、相手の兵士達を翻弄している。
 そしてファンハウゼンは宰相を守るように、警戒しながら前に立っている。
 少人数の割には奮戦し、押し止めていると言えた。
 何とかなる、そう思った瞬間だった。
「グ…!」
 うめき声と共に、鮮血が飛ぶ。
 ラーソルバールの視界の端で、軍務大臣が肩を押さえる姿が見えた。
「軍務大臣!」
 ラーソルバールは叫んだ。
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