聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第二部:第十九章 シルネラ共和国へ

(三)順調ならざる日①

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(三)

 二日目の行程も順調だった。昼までは、だが。
 シェラは馬車酔い対策として、薬店で薬を購入しており、その効果も有ってか不調を訴える事も無かった。
 昼食を終えて間もなく、馬車は山の麓に差し掛かる。そこで遭遇したのは、巨大な熊に襲われる隊商だった。
 護衛は既に怪我をしており、馬車を守れる戦力は既に無い。冬眠から目覚めたばかりで腹をすかせているのだろうか、荷馬車から食べるものを探そうとしているようにも見えた。
「でかいな…」
「怪我人も出ているっぽいし、助けに行かなきゃ!」
 ラーソルバールとエラゼルは阿吽の呼吸で馬車から飛び降りると、剣を抜き熊に駆け寄る。その横を炎の玉がすり抜け、立ち上がっていた熊の胸部に直撃した。モルアールの魔法だった。
 距離が離れていたため、大した傷にはならなかったものの、しっかりと注意を引き付ける役目を果たす。熊は駆け寄る二人に視線を移すと、ラーソルバールの身長の倍ほどもある体躯を揺らし、突進を始めた。
「凄い迫力!」
 ラーソルバールは驚きの声を上げたが、怯まなかった。
 剣を構え、体勢を低くする。そして並んで走っていた二人は、熊の直前で左右に別れ、すれ違い様に前肢を切りつけた。
「うわ!」
 驚いたのはラーソルバールだった。初めて使った剣の切れ味が、予想を遥かに上回るものだったからだ。
 両前肢を切りつけられた熊は体躯を支えられず、勢いのままにのめるように倒れ込む。それでも次の瞬間には、立ち上がろうと前肢を動かし、もがき始める。
 止めを刺す事を躊躇した二人だったが、遅れて飛び出したガイザが追い付き、伏したまま暴れる熊の頭部に剣を突き立て、絶命させた。

「あの二人、示し会わせてるのか?」
 モルアールが近くにいたシェラに尋ねた。
「多分、それぞれの判断だと思う」
「何であんなに、息を合わせたように上手く動けるんだよ」
 半ば呆れたように、離れた場所に居る二人を見やる。
「ねー、ちょっぴり嫉妬しちゃうわ」
 連携の手際のよさは、二人の相性の良さなのだろうか、と考える。
「シェラはラーソルが好き」
 フォルテシアがぼそりと言ったのを、ディナレスは聞き逃さなかった。
「ほほー、そういう事ですか」
 まるで前日の続きのような話に食い付き、嬉しそうにシェラを見る。
「こらフォルテシア、また何か余計な事言ったな」
「ふふ……、嘘は言ってない」
 シェラは何を言われたのか聞こえなかったが、にんまりとしているフォルテシアを睨んだ。

 この後、退治した熊の処分と権利を、まること隊商に渡して先を急ぐ事になるのだが、順調だった前日とは一転して、一行は再び緊急事態に巻き込まれる事になる。
 熊の処理は迅速に行ったため、大した遅れは出なかったが、次に遭遇した事態はそうはいかないということが即座に分かるものだった。

「右手前方に火の手が上がっているように見えるが…」
 地図上には一行が進む街道の脇に、村の名が記されている。
「御者さん、少し急いで貰って良いですか?」
 無理を承知で、馬車の速度を上げて貰う。すると、嫌な予感は間もなく現実のものとなって視界に入って来た。
「村が襲われている!」
「襲っているのは兵士か? ……いや、あれは賊か?」
 馬車を木陰に隠すよう指示した後、一同は急いで馬車から飛び降り、駆け出した。
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