聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第二部:第十九章 シルネラ共和国へ

(四)国境を越えて②

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 宿に荷物を置き、前日と同様に食事に向かうが、この日は黙々と食べるだけの時間となった。それだけ精神、身体両面で披露があった一日だったという事になる。
 食事後すぐに部屋に戻って、浴場でさっさと体を流すと一緒に着替えを洗う。
 洗濯した物は朝まで乾かし、翌日は馬車の後部に吊るすようにしている。肌着や下着はさすがに男性も居るので同様に乾かす事が出来ない。宿の暖炉である程度乾かし、寝るときには風通しの良い場所に干す。
 疲れが先行しているが、我慢しながらそこまで終えると、待ちに待ったベッドに倒れ込む。
「凹んでいる余裕もないよ」
 ラーソルバールは苦笑しつつ、隣に寝転がったエラゼルの顔を見る。
「おお、それは良かった」
 エラゼルは笑うと、ランタンの火を吹き消す。同時に夜の闇が部屋を包み込み、次の瞬間には二人とも眠りに落ちていた。

 翌日、馬車は予想以上に軽快に進み、夕暮れを待たずに国境に到着した。
 検問で手間取るのではないかと想定していたが、本物の身分証明を提示したうえで、騎士学校の課題だと告げると、ヴァストール王国の出国審査ばかりか、シルネラ共和国の入国審査も友好国の言葉に偽り無く、すんなりと終了した。
 実は、ラーソルバールの現在の身分証明には、しっかりと「準男爵」と記載されている。この記載こそが出入国の審査を楽にした一因なのだが、本人は気付いていない。他にもエラゼルのように公爵家の娘だったり、シェラやガイザのような貴族の子女といった身元がはっきりした者ばかりで、騎士学校の発行した書状まで所持したため、疑われる余地が何も無かったのが大きい。

 国境から僅かに東に進んだ辺りに、この日の宿泊地である街リオラーナは有る。国境が近いため、ヴァストール王国との交易で潤っている他、国境を往来する人々の宿泊地としても栄えている。言語は共用語を主としているため、同じく共用語を用いるヴァストール王国国民には親しみやすい。
 出入国の審査が早く済んだため、予定よりも随分早くリオラーナに到着することになった。
「これだけ明るいと店巡りも出来そうだね」
 天気も悪くなく、日暮れまでにはまだ時間が有りそうなだけに、シェラの声も弾む。
「そうだな、魔法触媒や消耗品の買い足しもしておきたいし、丁度良かった」
「交易も盛んだから、シルネラの良いものが有るかも知れないしな」
 男二人も意外に乗り気だった。王都を発ってから馬車で暇をもて余して居たのだから無理もない。羽を伸ばしたい所なのだろう。
「じゃあ、さっさと宿を決めてしまおう」
 ラーソルバールは周囲に合わせて元気よく言ったが、それが空元気だと言うことは誰もが分かっている。平静を装っていたが、時折塞ぎ込みそうになるのをシェラは気にしていた。
「宿を決めたら、美味しいものを食べに行こう。それから、明日のお菓子も買って……」
「菓子とな!」
 菓子という言葉に反応したのはエラゼルだった。道中、文句を言わずに居るが、馬車の中での楽しみの一つも欲しいところなのかもしれない。
「異国の地で、見たことも無い菓子を探すのも良いな」
 こういう時は普段見せないような、にやけ顔をする。顔立ちの整った彼女だけに、不思議とだらしなくは見えない。

 宿探しを始めたが、さすがに賑わう街だけあって、丁度良い空き部屋を見つける事が出来たのは三軒巡った頃、危機感を覚えた直後だった。部屋の質が良いとはいえ、若干相場より高めだったのが空部屋があった理由だと思われる。
 ほっとしたのも束の間、一行は前日と同様三部屋を借りて部屋割りも同じと決め、荷物を置くとさっさと街へと繰り出すことになった。
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