聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

文字の大きさ
259 / 439
第二部:第二十二章 暗き森への誘い

(二)闇に包まれた森②

しおりを挟む
「ねえ、エラゼルは門石のような物の存在って聞いたことある?」
 ベッドに転がる友の顔を覗き込む。
「最新の技術なら知らぬが、似たような話なら聞いた気がしないでもないな」
「実は、歴史書の中に『アヴォレアの民、悪魔より授かりし門の扉を開き、遠方へと渡り歩いた』という一節があるんだけど……それっぽいでしょ?」
「小さな手掛かりから、良くそんなもの諳んじて言えるな。尊敬を通り越して呆れるぞ……」
 エラゼルは間近にあるラーソルバールの顔を見て、少し安心した。多少だが先程までの影が薄れているのが見てとれたからだ。
「結局アヴォレアは、門の存在を恐れた隣国に攻め滅ぼされた、と」
「そんな物があれば、遠隔地にいくらでも兵士を送り込め……先日のあれか!」
 エラゼルは体を起こそうとして、ラーソルバールとぶつかりそうになり、体勢を崩して再び倒れ込む。
「そう、まさにあれを恐れたんだろうね。大人数が可能なら尚更、ね」
 そう言って、ラーソルバールもエラゼルの隣に横向きで転がる。友の横顔が良く見え、同姓でも惹かれそうな美しさに一瞬、続ける言葉を失いそうになる。

「……で、廃墟と化したアヴォレアは常闇の森に呑まれた、と伝えられてる」
「『常闇の森は古代文明が生み出した闇の名残』などではなく、人間の闇そのものではないか……。まさか、そのアヴォレアがこの近くだと?」
「うーん、常闇の森にある遺跡の中で、どれがアヴォレアなのかは未だ正式に分かっていないんだ。森が危険すぎて調査が進まないというのが表向きの理由だけど……。夢のような古代技術欲しさに公表されていない可能性もあるよね」
 楽しそうに笑うラーソルバールは、この時ばかりはただの歴史研究家の顔をしていた。
「なるほど、それを奴が見つけた、と。……思えばガーゴイルなどを隠すには、遺跡が一番という事だな。で、歴史研究家殿は、赤土の中にある遺跡がいくつあるのか知っている訳だ」
「えっへん、遺跡群を纏めて良いならひとつだよ」
 なるほど、と言いそうになった瞬間、ラーソルバールの言葉に疑問を覚えた。
「遺跡……だと? それではいくつあるか分からんではないか!」
「てへ……」
「笑って誤魔化すでない!」
 真横で怒るエラゼルを気にする様子もなく、ラーソルバールは悪戯っ子のような表情を浮かべた。
「うーんと、ルクスフォール領北部から、ガランシャー領南部にかけて。ね、だいぶ狭くなったでしょ?」
「広い!」
「まあ、二十日も有れば何とかなるでしょ。ならなきゃ延長申請すればいいだけだし……」
「仕方ない、やるか」
 エラゼルは苦笑いすると体を起こして、ラーソルバールの頬をつねる。
「いたたた」
「全く、一緒に居ると苦労ばかりさせられる」
 言葉とは違い、楽しそうに笑みを浮かべるエラゼルだった。

 皆が戻ると、慌ただしく早目の昼食、旅支度と動き回る。その甲斐有って、日が高いうちに街を発つことができた。
 この日は森の近くにある、炭焼き小屋が目的地だった。これはエラゼルらが帰った後、アシェルタートの発案で、一時宿泊地にと使用許可を与えられたものである。
 荷物を馬に預けているとはいえ、そこまでの徒歩移動はかなりの疲労を伴ったようで、三刻半程の時間をかけて小屋に到着すると、皆が即座に座り込む始末だった。
「これぐらいで音を上げてたら、明日から持たないな」
 ガイザの言葉に皆が頷くも、さしたる解決策が有る訳でもない。
「門石が私達でも使えればいいんだけどね」
「違いない」
 シェラの言葉で皆が笑った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」

辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~

リーフレット
ファンタジー
​「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」 ​帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。 アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。 ​帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。 死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。 ​「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」

婚約破棄は構いませんが、私が管理していたものは全て引き上げます 〜成金伯爵家令嬢は、もう都合のいい婚約者ではありません〜

藤原遊
ファンタジー
成金と揶揄される伯爵家の令嬢である私は、 名門だが実情はジリ貧な公爵家の令息と婚約していた。 公爵家の財政管理、契約、商会との折衝―― そのすべてを私が担っていたにもかかわらず、 彼は隣国の王女と結ばれることになったと言い出す。 「まあ素敵。では、私たちは円満に婚約解消ですね」 そう思っていたのに、返ってきたのは 「婚約破棄だ。君の不出来が原因だ」という言葉だった。 ……はぁ? 有責で婚約破棄されるのなら、 私が“善意で管理していたもの”を引き上げるのは当然でしょう。 資金も、契約も、人脈も――すべて。 成金伯爵家令嬢は、 もう都合のいい婚約者ではありません。

出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆ 毎日朝7時更新! 「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」 過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。 絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!? 伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!? 追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

転生幼子は生きのびたい

えぞぎんぎつね
ファンタジー
 大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。  だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。  神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。  たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。  一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。 ※ネオページ、カクヨムにも掲載しています

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

処理中です...