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第二部: 第二十四章 胸の内にあるもの
(三)小さな晩餐会①
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(三)
夕食の時間になると、皆が一室に集められた。広い部屋には大きなテーブルがあり、全員分の食器の用意が既になされていた。
ラーソルバールは、入室してきたエラゼルの白いドレスを見て、やはり、とばかりに苦笑いをする。その様子に気付いたエラゼルだったが、考えている事までは理解出来なかったようで、不思議そうに小首を傾げた。
部屋にはアシェルタートが既に居り、全員に着座を促す。隣に居たボルリッツは、正装した皆の姿を楽しそうに眺めている。
「済まないね、本来なら着座の時にはエスコートしなければならないのだが、もう一ヶ所の用意をしなければならないので、人手が足りないんだ」
もう一ヶ所とは、遺跡から連れ帰った人々の事だろう。ラーソルバールとしても、色々と迷惑をかけ、申し訳ないという気持ちになる。
お辞儀をしたあと視線を上げると、アシェルタートと目が合ってしまい、慌てて視線を外す。
直後に後ろの扉が開き、四十才前後の女性がエシェスを連れ添って現れた。アシェルタートやエシェスによく似たその姿から、二人の母、ルクスフォール夫人だとすぐに分かる。
「皆様、この度は有り難うございました。病に臥せっているため、顔を出すこと叶わぬ当主に成り代わり、御礼を申し上げます。私はオースティア。ルクスフォール当主の妻であり、この二人の母です。何も無い所ですが、しばらく我が家でゆっくりしていって下さい」
そう言うと、ちらりとラーソルバールの顔を見る。エシェスに何か吹き込まれたのだろう。夫人から「しばらく我が家で」等と言われれば、断りにくい事を分かっていてあえて言っているのだろう。
可愛い顔をした小悪魔め、とエシェスの顔を見ると、にんまりと笑って返された。
「さあさ、ご挨拶は席に座ってからで結構です。食事を始めましょう」
夫人の言葉に合わせ、料理が運び込まれてきた。
食事をしながら自己紹介を行うという、およそ貴族の食卓らしくないものだったが、夫人は終始笑顔を絶やさなかった。
そうしている間に、庭園からは歓声と賑やかな話し声が聞こえてくる。
ラーソルバールが外に視線をやると、それに気付いたアシェルタートが食事の手を止めた。
「ああ、盗賊の所から連れ戻した方々用に、庭で網焼きの料理を提供している。少々肌寒いかもしれないけれど、火があるから大丈夫だと思う」
「なるほど、そういう事でしたか。お手数をお掛けして申し訳ありません」
「いや、気にしなくていい。報告を聞くと、あの人達の中に、うちの領民も含まれているようだしね。それに明日には皆、家に帰って貰う予定になっている。少しでも楽しんで悪いことは忘れて貰わないとね」
アシェルタートは穏やかな笑顔を浮かべる。
この人の事だから、無一文で放り出すことは有るまい。自腹を切らずとも、回収した略奪品からでも路銀と少なくない生活費を渡すに違いない。庭園から聞こえる楽しそうな声が、ラーソルバールにそう確信させた。
ここで出された食事は豪華と言える程のものではなかったが、どれも手が込んでおり、客を疎かにするような物では無かった。家主達も同じ物を食べていただけに、むしろ歓迎されていると言って良いだろう。
「ただの冒険者である私達に、ここまでして頂き恐縮してしまいます」
ラーソルバールは、優雅に微笑むと、料理に触れぬよう軽く頭を下げる。
「誰であれ、我が家の大事なお客様で有ることは間違いないからね」
アシェルタートの言葉に夫人は笑顔のまま無言で頷く。その意味ありげな笑顔の裏側で、何を考えているのだろうか。ラーソルバールは少し気になった。
夕食の時間になると、皆が一室に集められた。広い部屋には大きなテーブルがあり、全員分の食器の用意が既になされていた。
ラーソルバールは、入室してきたエラゼルの白いドレスを見て、やはり、とばかりに苦笑いをする。その様子に気付いたエラゼルだったが、考えている事までは理解出来なかったようで、不思議そうに小首を傾げた。
部屋にはアシェルタートが既に居り、全員に着座を促す。隣に居たボルリッツは、正装した皆の姿を楽しそうに眺めている。
「済まないね、本来なら着座の時にはエスコートしなければならないのだが、もう一ヶ所の用意をしなければならないので、人手が足りないんだ」
もう一ヶ所とは、遺跡から連れ帰った人々の事だろう。ラーソルバールとしても、色々と迷惑をかけ、申し訳ないという気持ちになる。
お辞儀をしたあと視線を上げると、アシェルタートと目が合ってしまい、慌てて視線を外す。
直後に後ろの扉が開き、四十才前後の女性がエシェスを連れ添って現れた。アシェルタートやエシェスによく似たその姿から、二人の母、ルクスフォール夫人だとすぐに分かる。
「皆様、この度は有り難うございました。病に臥せっているため、顔を出すこと叶わぬ当主に成り代わり、御礼を申し上げます。私はオースティア。ルクスフォール当主の妻であり、この二人の母です。何も無い所ですが、しばらく我が家でゆっくりしていって下さい」
そう言うと、ちらりとラーソルバールの顔を見る。エシェスに何か吹き込まれたのだろう。夫人から「しばらく我が家で」等と言われれば、断りにくい事を分かっていてあえて言っているのだろう。
可愛い顔をした小悪魔め、とエシェスの顔を見ると、にんまりと笑って返された。
「さあさ、ご挨拶は席に座ってからで結構です。食事を始めましょう」
夫人の言葉に合わせ、料理が運び込まれてきた。
食事をしながら自己紹介を行うという、およそ貴族の食卓らしくないものだったが、夫人は終始笑顔を絶やさなかった。
そうしている間に、庭園からは歓声と賑やかな話し声が聞こえてくる。
ラーソルバールが外に視線をやると、それに気付いたアシェルタートが食事の手を止めた。
「ああ、盗賊の所から連れ戻した方々用に、庭で網焼きの料理を提供している。少々肌寒いかもしれないけれど、火があるから大丈夫だと思う」
「なるほど、そういう事でしたか。お手数をお掛けして申し訳ありません」
「いや、気にしなくていい。報告を聞くと、あの人達の中に、うちの領民も含まれているようだしね。それに明日には皆、家に帰って貰う予定になっている。少しでも楽しんで悪いことは忘れて貰わないとね」
アシェルタートは穏やかな笑顔を浮かべる。
この人の事だから、無一文で放り出すことは有るまい。自腹を切らずとも、回収した略奪品からでも路銀と少なくない生活費を渡すに違いない。庭園から聞こえる楽しそうな声が、ラーソルバールにそう確信させた。
ここで出された食事は豪華と言える程のものではなかったが、どれも手が込んでおり、客を疎かにするような物では無かった。家主達も同じ物を食べていただけに、むしろ歓迎されていると言って良いだろう。
「ただの冒険者である私達に、ここまでして頂き恐縮してしまいます」
ラーソルバールは、優雅に微笑むと、料理に触れぬよう軽く頭を下げる。
「誰であれ、我が家の大事なお客様で有ることは間違いないからね」
アシェルタートの言葉に夫人は笑顔のまま無言で頷く。その意味ありげな笑顔の裏側で、何を考えているのだろうか。ラーソルバールは少し気になった。
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