聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第二部: 第二十四章 胸の内にあるもの

(四)自分の言葉で①

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(四)

 湯浴みをともにしたエシェスとラーソルバールだったが、湯に浸かっている間、エシェスの話は止まらなかった。
「ルシェ姉様はどんな方がお好みなのですか?」から始まり「では、お兄様はそれにあてはまりますか?」「お兄様はですね……」と、兄を薦めたいのか、兄が大好きだという事を語りたいのか良く分からなくなる程に。ただ、兄が好きだから独占したいのではなく、兄が好きだからこそ幸せになって欲しい、という想いを持っている事は理解できた。
 とにかく、あまりに長い語りに、ラーソルバールは湯でのぼせてしまうかと思った程だ。
 耐えられず、逃げるように先に出てきたものの、着替え終わった後も足元がおぼつかず、ふらふらと歩いているうちに方向を失い、気付くと外への扉を開けてしまっていた。
 流れ込む涼しい風に誘われ外へ出ると、庭園へと繋がる通路だったようで、そのまま涼みつつ歩いていると、庭の端に腰掛けられそうな岩を見つけた。
 ゆっくりと岩に腰を下ろすと、空を見上げる。
「綺麗な月だなぁ。森の中うはもっと綺麗に見えたはずなのに、精神的にゆとりがあるおかげかな?」
 ラーソルバールは、ひとり呟く。
 ようやく終わった、という実感がある。王都に戻らなければ完全に終わったとは言えないかもしれないが、任務の目的は達成した。今はそれだけで十分だった。

「父上はどうしてるかなぁ」
 父も同じ月を見ているだろうか。
 今日は雲も無く、星がちりばめられた空に大小の満月が親子のように並んで見える。
 この空はずっと繋がっているのに、何処の国でも見えるのに、何故人間の国は分かれているのか。国がひとつだったら争いも起きないのだろうか。否、きっと人間は争いを起こす。そして国は分断され、人々は混乱する。そうやって人間は歴史を紡いできたではないか。数多の歴史書に記された事実がそれを物語っている。
 そう思えば、夫人の言葉は正しいのかもしれない。
「先の事を気にしていたら何もできない……か。……んん……くしゅん!」
 ひとつ大きなくしゃみをすると、身震いする。
「湯冷めしちゃうかな」
 少し長く考え事をしてしまっただろうか。エラゼルに怒られそうだ、と思った時、背後からの足音と共に人の気配を感じた。
 振り返ると、そこに居たのはアシェルタートだった。
「アシェルタート様……」
「様なんていらない。アシェルでいいよ」
 月の明かりに照らされ、アシェルタートの笑顔が良く見える。
 ラーソルバールが言葉を失っている間に、アシェルタートは手に持っていたコートを、ラーソルバールの肩に優しくかけた。
「ありがとうございます……。わざわざこれを?」
「うん、書斎に居たら、庭を歩く人影が気になってね。部屋の明かりで美しい金色の髪が見えたから、きっと君だろうと思って来てみた。案の定、寒そうな格好をしていたから……」
 そう言われてラーソルバールは、はっとした。
 すぐに部屋に戻るつもりでいたので、部屋着のままでうろついて居た事に気付いたからだ。あまりの恥ずかしさに、赤くなって縮こまる。
「お恥ずかしい格好で……」
 コートを掴み、服を隠す。
 恥ずかしそうにするラーソルバールの様子に、アシェルタートも焦って視線を外す。
「ああ、暗くて見えてないから……」
「大丈夫です。ですが……少しの間、このコートをお借りしますね」
「あ、ああ」
 アシェルタートは照れ臭そうに、ラーソルバールの座っている岩の横まで動くと、腰を下ろした。
「それと、勝手にうろうろしてすみませんでした」
「ああ、気にしなくていいよ。で……、さっきまで妹と?」
 頭を下げるラーソルバールを制するように、アシェルタートは言葉を続ける。
「ええ……、お湯に浸かったままエシェス様の話をずっと聞いていたら、のぼせてしまって、ふらふら歩いていたらいつの間にかここに……」
「うわ、妹が迷惑をかけたみたいだな。あいつ何か、変な事を口走ってなかったかい?」
「いいえ、お兄様大好き、でしたよ」
 ラーソルバールは嬉しそうに笑う。会話そのものはとても楽しかったし、エシェスも可愛かった。こんな妹がいたらいいな、と思った程だ。
「それと……」
 言いかけて、ラーソルバールは一瞬言葉を止めた。
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