聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第二部:第二十五章 任務の終わりと成果

(一)明日のために①

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(一)

 遺跡から連れ戻した人々は、予定通り全員が帰宅の途についた。
 去り際に路銀入りの小さな荷物を渡され、口々に礼を述べて次々と門から出て行ったが、それを目にした街の人々も特段騒ぐ事は無かった。ラーソルバールの提案通り、帰宅に先だって盗賊退治の情報を街に公表してあったため、その効果が有ったと言える。
 これでルクスフォール家の評判が上がった事は言うまでもない。また盗賊を退治したという噂の冒険者達を一目見ようと、敷地内を覗こうとする人々が現れたが、これは予想の範囲内だった。

 ラーソルバール達は、その後二日間をルクスフォール家で過ごしたが、七人はいよいよ帰国の相談を始めた。
 何の不満があった訳でもない。自由に街に買い物にも出掛けることが出来たし、食事を含めた待遇も悪いものではなかった。特に、夫人には真顔で「もっと居なさい」と言われた程である。
「ラーソルバールがもう少し居る、というならそれでも構わんのだが」
 街で買ってきた菓子をつまみながら、エラゼルが言った。
 ふんふん、とフォルテシアも横で頷く。彼女も自分の中で消化できたのか、あの夜以降は弱音を吐く事も無く、普段通り過ごしている。
「そんなに滞在を延ばしてもご迷惑になるから……。国の事も気になるし、早く報告もしないと」
 強がるラーソルバールに「きっと御曹司は居て欲しいと思っている」と言い掛けたエラゼルだったが、言えばラーソルバールを苦しめるだけだと思い、その言葉を飲み込んだ。
「じゃあ、予定通り明日でいいな」
 ガイザとしては、ボルリッツとの訓練が気に入っていたようだが、居候の引け目もあり、帰国には乗り気だった。特に反対する者も無く、話はすぐに纏まる。
「じゃあ、皆さんに伝えにいかないとね」
 ラーソルバールは少し寂しげに笑った。

 アシェルタートは帰国にすぐに理解を示したものの、ほんの一瞬だけ目を背けて哀しそうな表情を浮かべた。そこに本心があるのだろう。
 ラーソルバールはその変化を見逃さなかったが、かえってそれが自身が抱える想いを再認識することになってしまい、胸が苦しくなるのを感じながら黙って頭を下げた。
 次に、エシェスに伝えた時には、「嫌だ!」と叫んでラーソルバールに飛びついて泣き、家人を含め皆がなだめるのに大いに苦労する事になった。
 そしてこの日は伯爵の体調がやや良かったこともあり、僅かな時間であったが夫人同席のもと面会が可能となり、滞在の礼を言う事ができた。この際にも、エシェスがラーソルバールにしがみついたまま離れることがなかったため、伯爵も終始笑顔で話を聞いていた。

 午後からは、帰国前にとアシェルタートとエシェスに連れられる形で、全員で川に遊びに出掛けることになった。
 男達は釣りを楽しみ、女達は釣りの傍ら薬草や春の木の実を取る事にいそしむ。ゆったりとした時間の流れる有意義な時間を過ごすことができた。
 何でもこなすエラゼルだったが、さすがに公爵家の令嬢だけあって野山で遊ぶ事には慣れていなかったようで、時折小さな失敗をしながらも新鮮な経験を十分に楽しんでいるようだった。
「良いのか? 御曹司と話をしていれば良いのに」
 エラゼルは春の果実をつまみ食いしながら、ラーソルバールを気遣うように耳打ちをする。
「ううん、別れが惜しくなるからいい」
 ラーソルバールの視線の先には、釣りをしながら楽しそうに話すガイザとアシェルタートの姿があった。二人は気が合ったのだろう、釣果を見せ合いながら笑い合っていた。
 エラゼルは良く熟れた小さな果実を、ラーソルバールの口に無理矢理押し込むと、その額をこつんと叩いて、自分も果実を頬張る。
「後悔しないようにな」
 エラゼルは友を想い、苦笑いした。
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