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第二部:第二十六章 価値
(三)新入生③
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食事が終わる頃、エラゼルが「校長のところへ行こう」と言い出した。連絡が来るまで休みがどうだと頭を悩ませるよりは、直接行って聞けば早いだろうという判断に他ならない。
寮に戻って制服に着替えると、通い慣れた道を歩き校舎へと向かう。道中、校庭で調練を行う一年生達が見えたが、ちょうど数名の生徒達が教官に叱り付けられているところだった。
生徒達は教官の言葉に耳を貸す様子もなく、にやにやと薄ら笑いを浮かべている様子が見える。
「我々の時も、同じように自尊心の塊のような輩が居た記憶が有る。教官の言う事もろくに聞かず、我流の無様な素振りをしている者も少なく無かったな……」
「そうのへん、エラゼルはちゃんと教官の言う事はちゃんと聞いてそうだよね」
「あ……当たり前ではないか。何処だろうと、生徒にとって教官は目上の存在。人間として間違った行為を行う人物でなければ、従うのは当然であろう?」
公爵家の娘だと権威を振りかざす事をせずに、教官は目上と言い切る辺りがエラゼルの良さだろう。そんなエラゼルをからかうのも、ラーソルバールにとっての日常になりつつある。逆にからかわれる事も少なくないのだが。
「おーい、デラネトゥス、ミルエルシ! ちょっと手伝ってくれ」
足を止めて調練を眺めていたら、男性教官に気付かれ、声をかけられてしまった。
「はい、何でしょうか」
意外に楽しそうに駆け寄るエラゼルの後を、苦笑いを浮かべながらラーソルバールはついていく。
「ああ、休みのところ済まないな。この馬鹿共を、少々懲らしめてやってくれないか?」
「え?」
ちょっと相手をしてやれ、と言われる程度だと思っていたところ、教官の口から出た意外な言葉に、エラゼルは僅かに首を傾げた。
「この綺麗な先輩方が、俺より強いようには見えないな」
生徒の一人が強がる。
「馬鹿! 教官はデラネトゥスって言っただろ、公爵家のご令嬢に対して滅多な事を言うもんじゃない……」
誰かが小さな声で制止するように呟くと、生徒達がざわつく。
「私相手がやりにくいというのであれば、こちらを相手にするということでよろしいか?」
後輩の動揺を察したのか、エラゼルが生贄を差し出した。話を振られて嫌そうな顔をするラーソルバールに笑顔を向けると、やってしまえと言わんばかりに目で合図を送る。
「私がやるの……?」
やや不満げに教官から模擬剣を受け取ると、ひとつため息を漏らす。
「偉そうな口を叩くのは、この先輩に一撃でも入れてからにしろ」
「あん? こんな弱そうな相手でいいんならすぐだ。先輩、防具着けないと危ないぜ?」
教官の思惑など意に介さず、自分が一番だと言わんばかりに一人の生徒が進み出る。それに対して「防具など要らぬ」と言い放ったのは、教官でもラーソルバールでもなく、高みの見物を決め込んだ公爵家の娘。彼女は隣で腕を組み、成り行きを楽しそうに見ていた。
「済まんな。手加減は要らんから」
「はぁ……。教官、後でお菓子の差し入れをして貰いますからね」
教官に文句を言い、隣で笑う相棒をひと睨みすると、ラーソルバールは剣を構えた。
「ラーソルバール・ミルエルシ、お相手しましょう」
結局、その後ラーソルバールは教官に言われるがまま、手加減せずに三人の生徒を叩きのめすことになり、憧憬と恐怖の対象として一年生の記憶に刻まれる事になった。そしてラーソルバールに手も足も出なかった生徒達は、鼻っ柱を折られた事で教官に従順になったのは言うまでも無い。
教官に模擬剣を返却し、菓子差し入れの約束を念押しすると、二人は校長室へ向かう。そして、校長から『軍務省の呼び出しが有った場合を除き、期限までは休暇で良い』という言葉を引き出すと、その場で五人分の休暇証明書にサインを貰い、二人は嬉々として寮へ戻った。
「休みの間に、一度我が家……王都の別邸へ来ぬか?」
お茶と菓子を目の前に、エラゼルが言い出した言葉に「うん」と流れのまま、深く考えずに答えたラーソルバール。
直後にしまった、と思った。公爵家への招待であり、軽々しく行くようなものではない。だが時すでに遅く、ご機嫌に菓子を頬張るエラゼルに、今さら断りを入れる事は出来なかった。
寮に戻って制服に着替えると、通い慣れた道を歩き校舎へと向かう。道中、校庭で調練を行う一年生達が見えたが、ちょうど数名の生徒達が教官に叱り付けられているところだった。
生徒達は教官の言葉に耳を貸す様子もなく、にやにやと薄ら笑いを浮かべている様子が見える。
「我々の時も、同じように自尊心の塊のような輩が居た記憶が有る。教官の言う事もろくに聞かず、我流の無様な素振りをしている者も少なく無かったな……」
「そうのへん、エラゼルはちゃんと教官の言う事はちゃんと聞いてそうだよね」
「あ……当たり前ではないか。何処だろうと、生徒にとって教官は目上の存在。人間として間違った行為を行う人物でなければ、従うのは当然であろう?」
公爵家の娘だと権威を振りかざす事をせずに、教官は目上と言い切る辺りがエラゼルの良さだろう。そんなエラゼルをからかうのも、ラーソルバールにとっての日常になりつつある。逆にからかわれる事も少なくないのだが。
「おーい、デラネトゥス、ミルエルシ! ちょっと手伝ってくれ」
足を止めて調練を眺めていたら、男性教官に気付かれ、声をかけられてしまった。
「はい、何でしょうか」
意外に楽しそうに駆け寄るエラゼルの後を、苦笑いを浮かべながらラーソルバールはついていく。
「ああ、休みのところ済まないな。この馬鹿共を、少々懲らしめてやってくれないか?」
「え?」
ちょっと相手をしてやれ、と言われる程度だと思っていたところ、教官の口から出た意外な言葉に、エラゼルは僅かに首を傾げた。
「この綺麗な先輩方が、俺より強いようには見えないな」
生徒の一人が強がる。
「馬鹿! 教官はデラネトゥスって言っただろ、公爵家のご令嬢に対して滅多な事を言うもんじゃない……」
誰かが小さな声で制止するように呟くと、生徒達がざわつく。
「私相手がやりにくいというのであれば、こちらを相手にするということでよろしいか?」
後輩の動揺を察したのか、エラゼルが生贄を差し出した。話を振られて嫌そうな顔をするラーソルバールに笑顔を向けると、やってしまえと言わんばかりに目で合図を送る。
「私がやるの……?」
やや不満げに教官から模擬剣を受け取ると、ひとつため息を漏らす。
「偉そうな口を叩くのは、この先輩に一撃でも入れてからにしろ」
「あん? こんな弱そうな相手でいいんならすぐだ。先輩、防具着けないと危ないぜ?」
教官の思惑など意に介さず、自分が一番だと言わんばかりに一人の生徒が進み出る。それに対して「防具など要らぬ」と言い放ったのは、教官でもラーソルバールでもなく、高みの見物を決め込んだ公爵家の娘。彼女は隣で腕を組み、成り行きを楽しそうに見ていた。
「済まんな。手加減は要らんから」
「はぁ……。教官、後でお菓子の差し入れをして貰いますからね」
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「ラーソルバール・ミルエルシ、お相手しましょう」
結局、その後ラーソルバールは教官に言われるがまま、手加減せずに三人の生徒を叩きのめすことになり、憧憬と恐怖の対象として一年生の記憶に刻まれる事になった。そしてラーソルバールに手も足も出なかった生徒達は、鼻っ柱を折られた事で教官に従順になったのは言うまでも無い。
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