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第二部:第二十九章 歩みは止めず
(一)瞳は前を向く①
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(一)
ラーソルバールが昏睡状態より目覚めた朝、エラゼルは一つの科目が終わった頃には登校するつもりでいた。ところが、その予定は大きく崩れ、結果的には午後からの登校するというのが現実的な線、というところまでずれ込んでしまった。
原因は、エラゼルの肩の怪我である。出がけにメサイナに挨拶をした際に、ガーゴイルの攻撃により負った肩の傷が完治していないことを気付かれたためだ。
怪我を負った後に、ディナレスが主体となって治癒を行っており、見た目は傷口も完全に消えている。とはいえ、皆まだ学生の身でもあり、内部までの完全に治癒したかという点までの確認には至っていなかった。
本人も痛みを感じないため、完治していたと思って居たのだが、不完全な治癒が影響し、身体の均衡がやや崩れていたらしい。メサイナに指摘されても、本人は全く意識していなかった程なのだが、今後のためと無理矢理引き留められ、治癒を施される事になってしまった。
その頃、意識が戻った後のラーソルバールの診察も同時に行われており、保護責任者が居れば帰宅および登校を可とする、という診断が下された。言うなれば「エラゼルと共に戻るのなら」という条件付で登校が許されたのは、二人にとっては都合の良い話だった。
二人はクレストと共に手配された馬車に乗り、ミルエルシ家を経由してクレストを降ろすと、騎士学校寮へと帰って来た。
二人は予備の制服に着替えると、食堂で朝食兼昼食を取り、急いで修学院へと向かう支度を整える。
ラーソルバールは旅の際に使用していた鞄を引っ張り出すと、肩にかける。だが、前日に教材はボロボロにされたため、中には筆記具以外は何も入っていない。
寮の入り口で待っていたエラゼルと合流すると、修学院へ向かう。
「走っても大丈夫なのか?」
「うん、何となくまだ自分の身体じゃないようなふわっとした感覚があるけど、大丈夫だと思う。多分治癒にかかった大きな魔力のおかげで、少し魔力酔いしたのかな」
「……それなら無理はさせられぬ。私は見張り役を押し付けられたのでな」
押し付けられたと言いつつも、まんざら嫌そうでもない顔をするエラゼルに、ラーソルバールは「よろしくね」と言って笑って見せた。
照れたようにして視線を逸らすエラゼルの腕を掴むと、ラーソルバールは歩く速度を速めた。
修学院に着いたのは午後の授業が始まる直前だった。
教室に現れたラーソルバールに気付くと、シェラとフォルテシア、エミーナが順に飛びついてきた。さすがに三人の勢いを支えきれずによろけると、隣に居たエラゼルが苦笑しながらそれを支える。
「ラーソル……良かった……」
抱きついたシェラの腕に力が入る。そして三人が流した涙が、ラーソルバールの制服を濡らす。
「ごめんね、心配かけて。……私、そんな大怪我だったのか……」
「今更言う事か?」
隣で冷静を装いながら、エラゼルが答える。
「うーん、そうだね、エラゼルも号泣したくらいだから、死ぬ一歩手前くらい?」
冗談のつもりで言うと、ちらりと視線を横にやる。すると、エラゼルは支えていた手を話し、ラーソルバールの瞳を覗き込んだ。
「……死んだと思った」
その言葉に、三人も黙ったまま、怒ったような表情を浮かべ頷く。
「さ、授業でしょ。私は大丈夫、いつまでも泣いてないで!」
ばつが悪くなったのか、ラーソルバールは三人の頭を順番に撫でると、満面の笑顔を向けて見せた。
その様子を見ながら、ファルデリアナがほっとしたような表情を浮かべている事に気付いたエラゼルは、本人にだけに分かるよう小さく頭を下げた。
ラーソルバールが昏睡状態より目覚めた朝、エラゼルは一つの科目が終わった頃には登校するつもりでいた。ところが、その予定は大きく崩れ、結果的には午後からの登校するというのが現実的な線、というところまでずれ込んでしまった。
原因は、エラゼルの肩の怪我である。出がけにメサイナに挨拶をした際に、ガーゴイルの攻撃により負った肩の傷が完治していないことを気付かれたためだ。
怪我を負った後に、ディナレスが主体となって治癒を行っており、見た目は傷口も完全に消えている。とはいえ、皆まだ学生の身でもあり、内部までの完全に治癒したかという点までの確認には至っていなかった。
本人も痛みを感じないため、完治していたと思って居たのだが、不完全な治癒が影響し、身体の均衡がやや崩れていたらしい。メサイナに指摘されても、本人は全く意識していなかった程なのだが、今後のためと無理矢理引き留められ、治癒を施される事になってしまった。
その頃、意識が戻った後のラーソルバールの診察も同時に行われており、保護責任者が居れば帰宅および登校を可とする、という診断が下された。言うなれば「エラゼルと共に戻るのなら」という条件付で登校が許されたのは、二人にとっては都合の良い話だった。
二人はクレストと共に手配された馬車に乗り、ミルエルシ家を経由してクレストを降ろすと、騎士学校寮へと帰って来た。
二人は予備の制服に着替えると、食堂で朝食兼昼食を取り、急いで修学院へと向かう支度を整える。
ラーソルバールは旅の際に使用していた鞄を引っ張り出すと、肩にかける。だが、前日に教材はボロボロにされたため、中には筆記具以外は何も入っていない。
寮の入り口で待っていたエラゼルと合流すると、修学院へ向かう。
「走っても大丈夫なのか?」
「うん、何となくまだ自分の身体じゃないようなふわっとした感覚があるけど、大丈夫だと思う。多分治癒にかかった大きな魔力のおかげで、少し魔力酔いしたのかな」
「……それなら無理はさせられぬ。私は見張り役を押し付けられたのでな」
押し付けられたと言いつつも、まんざら嫌そうでもない顔をするエラゼルに、ラーソルバールは「よろしくね」と言って笑って見せた。
照れたようにして視線を逸らすエラゼルの腕を掴むと、ラーソルバールは歩く速度を速めた。
修学院に着いたのは午後の授業が始まる直前だった。
教室に現れたラーソルバールに気付くと、シェラとフォルテシア、エミーナが順に飛びついてきた。さすがに三人の勢いを支えきれずによろけると、隣に居たエラゼルが苦笑しながらそれを支える。
「ラーソル……良かった……」
抱きついたシェラの腕に力が入る。そして三人が流した涙が、ラーソルバールの制服を濡らす。
「ごめんね、心配かけて。……私、そんな大怪我だったのか……」
「今更言う事か?」
隣で冷静を装いながら、エラゼルが答える。
「うーん、そうだね、エラゼルも号泣したくらいだから、死ぬ一歩手前くらい?」
冗談のつもりで言うと、ちらりと視線を横にやる。すると、エラゼルは支えていた手を話し、ラーソルバールの瞳を覗き込んだ。
「……死んだと思った」
その言葉に、三人も黙ったまま、怒ったような表情を浮かべ頷く。
「さ、授業でしょ。私は大丈夫、いつまでも泣いてないで!」
ばつが悪くなったのか、ラーソルバールは三人の頭を順番に撫でると、満面の笑顔を向けて見せた。
その様子を見ながら、ファルデリアナがほっとしたような表情を浮かべている事に気付いたエラゼルは、本人にだけに分かるよう小さく頭を下げた。
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