343 / 439
第二部:第二十九章 歩みは止めず
(二)騎士学校と修学院①
しおりを挟む
(二)
交流期間中、ラーソルバールは何度男子生徒から言い寄られ、断ったか分からない。半分以上は、断ったというよりは逃げたと言った方が良い。
片やエラゼルはというと、公爵家という肩書きからか、そういう機会は数える程だった。
「ラーソルバールは男子に人気があるのだな」
無自覚な公爵令嬢は、男子生徒の告白から逃げ切った直後のラーソルバールに対し、そう言って笑った。
「貴女の場合は、みんな肩書きに二の足を踏むんです! 貴女が公爵家の娘じゃなかったら、私なんか比べ物にならない程に寄って来ると思うよ」
「ふむ。寄ってきたのは子爵家以上の者達だったな」
とぼけたように言うが、本人は意識して言っている訳ではなさそうだった。
うん、身元のしっかりした人ばかりだね。ラーソルバールは口に出さず、苦笑いをする。隣に居たシェラも、エラゼルを見ながら似たような顔をしていた。
「シェラや、フォルテシア、エミーナはどうなのだ?」
「貴女がた二人と一緒に居て、あえて私の所に来る奇特な人が居ると思う?」
エミーナが眉間にしわを寄せて抗議する姿勢を見せる。
「私は……ひとり。断ったけど」
「うん、私は二人。同じく断った」
フォルテシアとシェラの歩調を合わせぬ言葉に、エミーナは固まった。
「シェラが断るのは分かる……。好きなのはガ……」
恐ろしい形相を浮かべ、シェラがフォルテシアの口を手で塞ぐ。
「最近ね、私……刺繍が上手くなったんだよ。フォルテシア、ちょっと試し縫いしてみようか」
息が出来ずに苦しみながら、フォルテシアは首を横に振る。
「仲がいいな、二人は」
やり取りの意味を知ってか知らずか、エラゼルは笑う。
「まあ、でも交流期間ももうすぐ終わりだし、また平穏な日々に戻るよ」
自身も余計な話を続けたくないとばかりに、ラーソルバールは話を切り替えようとする。だが、返って来たのはただの同意では無かった。
「そうだね。交流期間が終われば休暇だし、ガラルドシアに行って、愛しの人に会えるもんね!」
フォルテシアを解放したシェラが、からかうように言って笑う。
「うほ、そんな話があるんですか!」
嬉しそうにエミーナが首を突っ込もうとするが、させじとばかりにラーソルバールは余計な事を口走る友の鼻をつまんで牽制する。
「ふふふ……シェラ、私も最近、刺繍の練習してるの」
「あう……」
シェラはその圧力に負け、口を閉ざさるを得なかった。鈍い公爵令嬢も何かを言おうとしたようだが、流石に理解したらしく、開きかけた口をゆっくりと閉じた。
「嫌な事も多かった交流期間も、終わると思うと何だか少し寂しいですね」
思うところがあるのか、エミーナがしみじみと言う。
ラーソルバールにしてみても、死線を彷徨うような事件があった事を含め、良い事も悪い事もあった。人間関係も順調とは程遠いもので、交流対象外の学年である三年生や、一年生との軋轢もあり、今まで良く大事にならなかったものだと関心せざるを得ない。
今年はラーソルバール自身やエラゼルといった、注目を集めやすい人物が居たとはいえ、過去の交流では問題が起きなかったのだろうかと疑問に思う程だ。
ファルデリアナとの関係は改善したとはいえ、取り巻きの令嬢達は、関係改善には面従腹背といった姿勢を保っている。他クラスの生徒に至っては、未だに険悪な雰囲気を醸し出す事が多い。
基本的に修学院と騎士学校では折り合いが悪いのだろう、他クラスと交流している生徒達から聞こえて来る話も大差が無い。むしろ、両者の関係性で言えば、ラーソルバール達のクラスが一番良いほどだ。
「最終日までには、全体的にもう少し関係を改善できたらいいんだけどね」
「んん、何かいい案でもあるのか?」
エラゼルが尋ねる。彼女も少なからず両者の関係を気にしていた、という事だろう。
「んー……」
「では、こういうのはどうでしょう?」
頭を悩ますラーソルバールに救いの手を差し伸べたのは、エミーナだった。
交流期間中、ラーソルバールは何度男子生徒から言い寄られ、断ったか分からない。半分以上は、断ったというよりは逃げたと言った方が良い。
片やエラゼルはというと、公爵家という肩書きからか、そういう機会は数える程だった。
「ラーソルバールは男子に人気があるのだな」
無自覚な公爵令嬢は、男子生徒の告白から逃げ切った直後のラーソルバールに対し、そう言って笑った。
「貴女の場合は、みんな肩書きに二の足を踏むんです! 貴女が公爵家の娘じゃなかったら、私なんか比べ物にならない程に寄って来ると思うよ」
「ふむ。寄ってきたのは子爵家以上の者達だったな」
とぼけたように言うが、本人は意識して言っている訳ではなさそうだった。
うん、身元のしっかりした人ばかりだね。ラーソルバールは口に出さず、苦笑いをする。隣に居たシェラも、エラゼルを見ながら似たような顔をしていた。
「シェラや、フォルテシア、エミーナはどうなのだ?」
「貴女がた二人と一緒に居て、あえて私の所に来る奇特な人が居ると思う?」
エミーナが眉間にしわを寄せて抗議する姿勢を見せる。
「私は……ひとり。断ったけど」
「うん、私は二人。同じく断った」
フォルテシアとシェラの歩調を合わせぬ言葉に、エミーナは固まった。
「シェラが断るのは分かる……。好きなのはガ……」
恐ろしい形相を浮かべ、シェラがフォルテシアの口を手で塞ぐ。
「最近ね、私……刺繍が上手くなったんだよ。フォルテシア、ちょっと試し縫いしてみようか」
息が出来ずに苦しみながら、フォルテシアは首を横に振る。
「仲がいいな、二人は」
やり取りの意味を知ってか知らずか、エラゼルは笑う。
「まあ、でも交流期間ももうすぐ終わりだし、また平穏な日々に戻るよ」
自身も余計な話を続けたくないとばかりに、ラーソルバールは話を切り替えようとする。だが、返って来たのはただの同意では無かった。
「そうだね。交流期間が終われば休暇だし、ガラルドシアに行って、愛しの人に会えるもんね!」
フォルテシアを解放したシェラが、からかうように言って笑う。
「うほ、そんな話があるんですか!」
嬉しそうにエミーナが首を突っ込もうとするが、させじとばかりにラーソルバールは余計な事を口走る友の鼻をつまんで牽制する。
「ふふふ……シェラ、私も最近、刺繍の練習してるの」
「あう……」
シェラはその圧力に負け、口を閉ざさるを得なかった。鈍い公爵令嬢も何かを言おうとしたようだが、流石に理解したらしく、開きかけた口をゆっくりと閉じた。
「嫌な事も多かった交流期間も、終わると思うと何だか少し寂しいですね」
思うところがあるのか、エミーナがしみじみと言う。
ラーソルバールにしてみても、死線を彷徨うような事件があった事を含め、良い事も悪い事もあった。人間関係も順調とは程遠いもので、交流対象外の学年である三年生や、一年生との軋轢もあり、今まで良く大事にならなかったものだと関心せざるを得ない。
今年はラーソルバール自身やエラゼルといった、注目を集めやすい人物が居たとはいえ、過去の交流では問題が起きなかったのだろうかと疑問に思う程だ。
ファルデリアナとの関係は改善したとはいえ、取り巻きの令嬢達は、関係改善には面従腹背といった姿勢を保っている。他クラスの生徒に至っては、未だに険悪な雰囲気を醸し出す事が多い。
基本的に修学院と騎士学校では折り合いが悪いのだろう、他クラスと交流している生徒達から聞こえて来る話も大差が無い。むしろ、両者の関係性で言えば、ラーソルバール達のクラスが一番良いほどだ。
「最終日までには、全体的にもう少し関係を改善できたらいいんだけどね」
「んん、何かいい案でもあるのか?」
エラゼルが尋ねる。彼女も少なからず両者の関係を気にしていた、という事だろう。
「んー……」
「では、こういうのはどうでしょう?」
頭を悩ますラーソルバールに救いの手を差し伸べたのは、エミーナだった。
0
あなたにおすすめの小説
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
ボンクラ王子の側近を任されました
里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」
王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。
人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。
そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。
義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。
王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした
ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。
しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義!
そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。
「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」
悪役令嬢ですが、二度目は無能で通します……なので執事は黙っててください
放浪人
恋愛
社交界で“悪女”と呼ばれ、無実の罪で断罪された公爵令嬢リディア。
処刑の刃が落ちた瞬間、彼女は断罪される半年前の朝に時を遡っていた。
「二度目も殺されるなんて御免だわ。私は、何もできない無能な令嬢になって生き延びる!」
有能さが仇になったと悟ったリディアは、プライドも実績も捨てて「無能」を装い、北の辺境・白夜領へ引きこもる計画を立てる。
これで平和なスローライフが送れる……はずだった。
けれど、幼い頃から仕える専属執事・レージだけは誤魔化せない。
彼はリディアの嘘を最初から見抜いているくせに、涼しい顔で「無能な主人」を完璧に演じさせてくれないのだ。
「黙っててと言いましたよね?」
「ええ。ですから黙って、あなたが快適に過ごせるよう裏ですべて処理しておきました」
過保護すぎる執事に管理され、逃げ道を塞がれながらも、リディアは持ち前の正義感で領地の危機を次々と救ってしまう。
隠したいのに、有能さがダダ漏れ。
そうこうするうちに王都からは聖女と王太子の魔の手が迫り――?
「守られるだけはもう終わり。……レージ、私に力を貸しなさい」
これは、一度死んだ令嬢が「言葉」と「誇り」を取り戻し、過保護な執事の手を振りほどいて、対等なパートナーとして共に幸せを掴み取るまでの物語。
華やかな異世界公爵令嬢?――と思ったら地味で前世と変わらないブラックでした。 ~忠誠より確かな契約で異世界働き方改革ですわ~』
ふわふわ
恋愛
華やかなドレス。きらびやかな舞踏会。
公爵令嬢として転生した私は、ようやく優雅な人生を手に入れた――
……はずでしたのに。
実態は、書類の山、曖昧な命令、責任の押し付け合い。
忠誠の名のもとに搾取される領地運営。
前世のブラック企業と、何も変わりませんでしたわ。
ならば。
忠誠ではなく契約を。
曖昧な命令ではなく明文化を。
感情論ではなく、再評価条項を。
「お父様、お手伝いするにあたり契約を結びましょう」
公爵家との契約から始まった小さな改革は、やがて王家を巻き込み、地方貴族を動かし、王国全体の制度を揺るがしていく――。
透明化。共有化。成果の可視化。
忠誠より確かな契約で、異世界働き方改革ですわ。
これは、玉座を奪う物語ではありません。
国家を“回る構造”に変える、公爵令嬢の改革譚。
そして最後に選ばれるのは――契約ではなく、覚悟。
---
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
森聖女エレナ〜追放先の隣国を発展させたら元婚約者が泣きついてきたので処刑します〜
けんゆう
恋愛
緑豊かなグリンタフ帝国の森聖女だったエレナは、大自然の調和を守る大魔道機関を管理し、帝国の繁栄を地道に支える存在だった。だが、「無能」と罵られ、婚約破棄され、国から追放される。
「お前など不要だ」 と嘲笑う皇太子デュボワと森聖女助手のレイカは彼女を見下し、「いなくなっても帝国は繁栄する」 と豪語した。
しかし、大魔道機関の管理を失った帝国は、作物が枯れ、国は衰退の一途を辿る。
一方、エレナは隣国のセリスタン共和国へ流れ着き、自分の持つ「森聖力」の真価 に気づく……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる