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第二部:第二十九章 歩みは止めず
(二)騎士学校と修学院②
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エミーナが語ったのは、収穫した野菜を使っての屋外調理実習。
騎士学校の生徒は野営の訓練でお手の物だし、屋外実習の一環とすれば、教師からの反発も出にくいだろう、ということだった。
「なるほど。私達があの野菜を調理する、という理由付けできるわけだな」
「うん、その前に、エラゼルはもう少し料理上手くなろうね」
無言で頷くシェラとフォルテシア。
「な……」
言い返す事も出来ずに、エラゼルの手が宙を泳いだ。
「色々と協力することで、修学院の生徒との関係が改善できればいいんだけどね」
ラーソルバール襲撃事件があってから、やや精神をすり減らしつつ周囲を監視していたシェラとしても、両者の軋轢が解消されれば、少しは気が楽になるだろうという期待がある。
フォルテシアとガイザに協力を依頼して、本人に気付かれぬよう、護衛のような状態を続けているのだ。
「うまくいけば良いが、嫌な予感しかせんぞ」
「何言ってるの。そこを取り纏めるのが公爵令嬢のお仕事でしょ」
報告を聞いて、不安そうな顔をするエラゼルの尻を叩くラーソルバール。
「いや、クラス毎に個別でやるものだと思っていたのだが……」
「そう決まっちゃったものはしょうがないでしょ。確かにエラゼルとファルデリアナ様の二人がいるこのクラスなら、何とかなるでしょうけど……」
エラゼルの浮かない表情に、ラーソルバールは言葉を止めた。
「前から思っていたのだが、何故ファルデリアナにだけ敬称をつける?」
その言葉に、ラーソルバールは思わず吹き出して笑い始める。
「ふふっ……そこ気にしてたの? だって、あまり親しい訳でもないし、やっぱり身分的にはあちらの方が上でしょうから……。んー、じゃあ……エラゼル様」
「それはやめてくれ……」
やや顔を赤らめ、自分の言葉に後悔する様子を見せた。
翌日、エミーナの提案を修学院の教師は快く承諾してくれた。
教師としても、殺伐とした環境での授業は嫌だったのだろう。即座に調整され、交流対象の全クラス合同で二日後の実施の運びとなった。
そして屋外調理実習。
収穫した野菜だけでは食材は足りないため、他の物も調達して調理を行う事になった。
修学院の生徒は、屋外で行う調理準備などの経験を持つ者が少ない。逆に、騎士学校の生徒よりも、修学院の生徒のほうが調理技術に長けている者が多かった。
そうした一長一短ある者達が組み合わさり、いがみ合いながらも助力しあうことで、何とか料理を作り上げる事ができた。
今回、ラーソルバールは極力目立たぬように細心の注意を払い、あくまでもエラゼルの指示の下で動いて見せた。友人関係にあってもこういった場面では、身分制度の中での上下関係を重んじる、という姿勢を見せる必要があったからだ。
その上下関係の中にはファルデリアナも含まれる。ファルデリアナ自身も事件の発端は自身にあるという負い目から、ラーソルバールらに無理な注文はせず、あくまでも穏便に済ませようという配慮が有ったのは言うまでも無い。
この国の騎士団は身分よりも階級を重んじるところがあるため、その育成機関である騎士学校には、身分による差別のようなものはあまり出ない。だが、修学院はただの高等教育機関であり、将来の就職先は限定されないことから、身分の上下が反映されやすい。
今回は、騎士学校が修学院に合わせる形で、融和を図った訳である。
ただ、あまりにもあからさまな差別が行われずに済んだのは、エラゼルとファルデリアナの二人が「今回に限って」という約束のもと、裏で調整を行った結果でもある。
終わってみれば、思ったよりも順調だった、というのが生徒達の意見である。
満点解答とまではいかないが、軋轢を減らす多少の効果はあったのではないか、というのが大方の評価となった。
騎士学校の生徒は野営の訓練でお手の物だし、屋外実習の一環とすれば、教師からの反発も出にくいだろう、ということだった。
「なるほど。私達があの野菜を調理する、という理由付けできるわけだな」
「うん、その前に、エラゼルはもう少し料理上手くなろうね」
無言で頷くシェラとフォルテシア。
「な……」
言い返す事も出来ずに、エラゼルの手が宙を泳いだ。
「色々と協力することで、修学院の生徒との関係が改善できればいいんだけどね」
ラーソルバール襲撃事件があってから、やや精神をすり減らしつつ周囲を監視していたシェラとしても、両者の軋轢が解消されれば、少しは気が楽になるだろうという期待がある。
フォルテシアとガイザに協力を依頼して、本人に気付かれぬよう、護衛のような状態を続けているのだ。
「うまくいけば良いが、嫌な予感しかせんぞ」
「何言ってるの。そこを取り纏めるのが公爵令嬢のお仕事でしょ」
報告を聞いて、不安そうな顔をするエラゼルの尻を叩くラーソルバール。
「いや、クラス毎に個別でやるものだと思っていたのだが……」
「そう決まっちゃったものはしょうがないでしょ。確かにエラゼルとファルデリアナ様の二人がいるこのクラスなら、何とかなるでしょうけど……」
エラゼルの浮かない表情に、ラーソルバールは言葉を止めた。
「前から思っていたのだが、何故ファルデリアナにだけ敬称をつける?」
その言葉に、ラーソルバールは思わず吹き出して笑い始める。
「ふふっ……そこ気にしてたの? だって、あまり親しい訳でもないし、やっぱり身分的にはあちらの方が上でしょうから……。んー、じゃあ……エラゼル様」
「それはやめてくれ……」
やや顔を赤らめ、自分の言葉に後悔する様子を見せた。
翌日、エミーナの提案を修学院の教師は快く承諾してくれた。
教師としても、殺伐とした環境での授業は嫌だったのだろう。即座に調整され、交流対象の全クラス合同で二日後の実施の運びとなった。
そして屋外調理実習。
収穫した野菜だけでは食材は足りないため、他の物も調達して調理を行う事になった。
修学院の生徒は、屋外で行う調理準備などの経験を持つ者が少ない。逆に、騎士学校の生徒よりも、修学院の生徒のほうが調理技術に長けている者が多かった。
そうした一長一短ある者達が組み合わさり、いがみ合いながらも助力しあうことで、何とか料理を作り上げる事ができた。
今回、ラーソルバールは極力目立たぬように細心の注意を払い、あくまでもエラゼルの指示の下で動いて見せた。友人関係にあってもこういった場面では、身分制度の中での上下関係を重んじる、という姿勢を見せる必要があったからだ。
その上下関係の中にはファルデリアナも含まれる。ファルデリアナ自身も事件の発端は自身にあるという負い目から、ラーソルバールらに無理な注文はせず、あくまでも穏便に済ませようという配慮が有ったのは言うまでも無い。
この国の騎士団は身分よりも階級を重んじるところがあるため、その育成機関である騎士学校には、身分による差別のようなものはあまり出ない。だが、修学院はただの高等教育機関であり、将来の就職先は限定されないことから、身分の上下が反映されやすい。
今回は、騎士学校が修学院に合わせる形で、融和を図った訳である。
ただ、あまりにもあからさまな差別が行われずに済んだのは、エラゼルとファルデリアナの二人が「今回に限って」という約束のもと、裏で調整を行った結果でもある。
終わってみれば、思ったよりも順調だった、というのが生徒達の意見である。
満点解答とまではいかないが、軋轢を減らす多少の効果はあったのではないか、というのが大方の評価となった。
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