聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第二部:第三十章 運命と時は流れるままに

(四)合同訓練①

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(四)

 休暇期間を終えると、騎士学校では合同演習が始まった。
 二年生となり、今度は一年生を引率する立場となる。
 幾度が行われるうち、ラーソルバールとエラゼルが同陣営になる事が禁止された。
 少人数で行われる演習であるため、二人が同陣営になった際には圧倒的な勝利を収める事が分かった為である。騎士学校としては、かつて無い異例の措置と言える。
「何でそんな取り決めをする必要があるのだ」
 不満げにエラゼルが口を尖らせる。
 ラーソルバールを相手にしたい反面、共に戦いたいという願望をエラゼルは抱えていた。ところが、この取り決めで、共に戦うという楽しみを一方的に奪われてしまった訳だから納得できないのも無理はない。
「まあまあ、班同士がどこかで相対したら、相手するから」
「む。全員打ち倒して引きずり出せば良いのであろう?」
「いやもう、その時点で勝負決まってるでしょ」
 演習場に向かう馬車の中、二人は冗談とも本気ともつかない会話をする。そんなやりとりを周囲に居る者たちは半分青ざめながら、聞かない振りを続けていた。
 婚約者候補の話を受けてからも、特に二人の関係が変わった様子は無い。むしろ更に距離が縮まったように見えるらしく、事情を知らないシェラは何が有ったのかと不思議そうに首を傾げていた。

「ミルエルシ先輩、今日は同じ陣営です。よろしくお願いします!」
 演習場に到着して間もなく、ひとりの少女が、緊張した面持ちでラーソルバールに声をかけてきた。
 ラーソルバールはその少女に会った覚えが有る。
「リシェル・フロワーズさん、だっけ?」
「私の名前を覚えていて下さったのですか!」
 満面に喜色を漂わせ、リシェルは背筋を伸ばす。
「前に会った時、同じ頃の私みたいに見えたから、印象に残ってて……」
「光栄です! ……という事は噂通りなら、デラネトゥス先輩は敵軍という事ですか」
 噂、とは二人が同陣営になる事が禁止されているという件だろう。
「うん、会ったら逃げないと、怖いよぉ」
「またそういう事を言う。本気にするではないか」
 隣に立っていたエラゼルは少し困ったように苦笑いをする。その背後からひょいと、フォルテシアが顔を出した。
「ん、怖い」
「ぬ……。フォルテシアまでそういう事を言うのか……」
 黒髪の娘の頬を軽くつねりながら、エラゼルは楽しそうに笑って見せた。リシェスはそのやりとりを興味深そうに見つめると、小さく吹き出して笑った。
「ふふ。デラネトゥス先輩ってもっと厳格な方かと思っていました」
「うん、エラゼルはいつもこんな感じ。公爵家、という肩書きがそう感じさせるのかな。真面目だけど優しいし、美人だし、これといった欠点も無いし、完璧に近い凄い人だよ」
「止めぬか、真に受けたらどうする!」
 ラーソルバールの言葉に、照れたような表情を見せつつエラゼルは顔を背けた。その可愛らしい仕草に、ラーソルバールは口元に手を当てて含み笑いをする。
「私は班長の仕事がある。準備があるから行くぞ」
 視線を戻すことなく、エラゼルはフォルテシアを捕まえて去っていった。
「あれ、照れてるんだよ」
「お二人は仲がよろしいのですね」
「うん、大好きだもの」
 屈託の無い笑顔が、陽光で一段と輝いて見えた。
「さ、今日はエラゼルが班長だから、負ける覚悟しておこうか」
「え、ミルエルシ先輩がいるじゃないですか。指揮も凄いと……」
「私はそんなに凄く無いよ。それに今日は一般だから戦略戦術に口出しできないし。逆転狙うなら、彼女を討ち取らないとね」
 束ねた金色の髪が光を反射し、幻想的な世界へ誘う妖精のようにも映る。
 生徒達の間で戦女神と言われ始めているその後姿に、リシェスは何故かその日の勝利を確信した。
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