聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

文字の大きさ
368 / 439
第二部:第三十一章 騎士になる者として

(二)仕掛け②

しおりを挟む
 一般的な貴族の令嬢であれば、自らの晴れ舞台とも言える場を汚されることを良しとしない。エラゼルらしいと言ってしまえばそれまでだが、自分の誕生祝の会を罠にするなど、よく考えるものだとラーソルバールは感心する。
 暗殺者を捕らえてどうするつもりなのだろうか。
 エラゼルの言葉通りなら、捕縛してそのまま国家警備隊に引き渡すという事は無い。捕らえた後は、過去の仕事を吐かせて引き渡す、くらいの事はするだろう。
 デラネトゥス公爵が清濁併せ吞む人物であれば、報告の際に伏せるかも知れないが、清廉な人柄として知られるだけにそれは有り得ない。
 公爵にとって一番良い形は、暗殺者をその場で始末してしまうことなのだろうか。

「それで、その決戦のお誘いには誰をお呼びするの?」
 ラーソルバールとしても純粋な興味があった。
 誕生会という名目もありつつ、暗殺者を迎え撃つ仲間という事になる。
「無論、会は会として旅の仲間は呼びたい。父上にはラーソルバール以外に呼べる友が居るのかと馬鹿にされたが……」
「あはは、去年は私だけだったもんね。それも友人枠ではなく、宿敵枠で」
「それを言うな。今でも姉上に言われているのだから」
 気恥ずかしそうに顔を伏せつつ、ラーソルバールの口元に手をやる。その白く美しい手を軽く掴むと、してやったりとばかりにラーソルバールは笑った。
「生死を友にした仲間とはいえ、相手が暗殺者だけにどう出るか分からず、危険は大きいのでな……」
「その言い方……もしかして、ジャハネート様をお呼びした?」
「先日、屋敷に伺った際に『もしかしたら』とお願いしていたのだが、正式にご出席をお願いしている。遅くなったが、皆でブルテイラの礼もしたいし、少々暴れる場所が欲しかろうと思ってな」
 ラーソルバールは思わず失笑した。ジャハネートが暴れる場所が欲しいと言った訳でもあるまい。先だって面会した折に、彼女の鬱屈しているものでも感じ取ったのだろうか。
「はい、じゃあ、その日は動きやすいドレスで参上します」
「無ければ、用意しておくが……」
「貴女の体形だと、私に合わないんですっ!」
「ふむ……そうか?」
 軽口を叩いてはいるが、命のやりとりの話であるだけに、不安が無いはずがない。
 正面をきっての戦いであれば良い。だが相手の数も分からず、あの時のように暗殺者の技能を駆使して立ち回られては、どうなるか分からない。

 話が一旦途切れたところで、エラゼルは机の上で拳を握り締めた。
「ラーソルバール……」
「ん?」
「……付き合わせてすまぬ」
 エラゼルは真剣な表情のまま、静かに頭を下げた。
 そこに友だからという甘えは無い。申し訳なさそうに目を伏せ、拳を震わせる。
「何言ってるの、狙われているのはむしろ私でしょ?」
「いや、例えそうだとしても、姉上の件が発端なのだから……迷惑をかけているのはこちらだ」
 今にも泣き出しそうな顔をするエラゼルの姿が痛々しく見え、ラーソルバールは自らの掌を、そっとエラゼルの拳の上に重ねた。そして瞳を見つめると、優しく微笑んだ。
「気にしないで……。イリアナ様を助けられて良かったと思っているし、不謹慎かもしれないけど……、私はあの時、貴女と一緒に戦えて嬉しかったんだよ」
「な……?」
「真っ白なドレスで、危ないところを格好良く颯爽と助けに来てくれて、近くて遠い存在だった貴女との距離が少し近くなった気がしたの。私の中の大事な一日……」
「よくもそんな恥ずかしい事を真顔で……」
 エラゼルは照れながら、それを隠すように苦笑してみせた。
 仕草が可愛いな、と思いつつも、ラーソルバールは口には出さない。
「……そ、そうだ、今度は母上も参加される予定になっている。まだ紹介していなかったと思うので、是非会って欲しい。いつもはルベーゼ姉様にかこつけたり、具合が悪いと嘘をついて社交界の場には出てこないのだが、今回は逃がさないつもりだ」
 エラゼルが誤魔化すように切り出した話。
 意外にもラーソルバールとしても興味のある話だった。この美人三姉妹の母親とはどんな人物なのだろうか、と。
「うん、楽しみにしてる」
 エラゼルに借りだの申し訳ないだのと思われることは本意では無い。ここは誤魔化しに乗っておこう、ラーソルバールは笑顔で応えた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

【本編完結】転生隠者の転生記録———怠惰?冒険?魔法?全ては、その心の赴くままに……

ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。  そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。 ※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。 ※残酷描写は保険です。 ※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

「不吉な黒」と捨てられた令嬢、漆黒の竜を「痛いの飛んでいけー!」で完治させてしまう

ムラサメ
恋愛
​漆黒の髪と瞳。ただそれだけの理由で「不吉なゴミ」と虐げられてきた公爵令嬢ミア。 死の森に捨てられた彼女が出会ったのは、呪いに侵され、最期を待つ最強の黒竜と、その相棒である隣国の竜騎士ゼノだった。 しかし、ミアが無邪気に放った「おまじない」は、伝説の浄化魔法となって世界を塗り替える。 向こう見ずな天才騎士に拾われたミアは、隣国で「女神」として崇められ、徹底的に甘やかされることに。 一方、浄化の源を失った王国は、みるみるうちに泥沼へと沈んでいき……?

処理中です...