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第二部:第三十一章 騎士になる者として
(四)剣は踊る①
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(四)
エラゼルの登場により会は華やかな時間を迎えた。
美しいドレスやスーツに身を包んだ者達、デラネトゥス家と血縁関係のある家の者達だけでも、それなりの人数になる。とはいえ、前年のように豪華な会を催すこともできる部屋だけに、今年の人数では閑散として見えるのも無理は無い。
それでも無事に会を進行させるため、警備の兵は壁際に目立たぬように配置され、使用人たちも忙しそうに動き回っていた。
料理と歓談の時間であるため、楽器による演奏の音も抑えられている。
ラーソルバールも友人達と合流し、バルコニー近くから華やかな会を遠巻きに眺める。それでも白いドレスが一際目立つエラゼルは、すぐに居場所が分かった。
彼女が丁寧に出席者への挨拶回りをしている姿を見て、自分には同じ事はできないだろうなと自嘲気味にため息をつく。
「ちょっとお料理貰ってくるね」
各所に置かれている料理を恨めしげに見ていたディナレスだったが、意を決して足を踏み出す。
「ああ、じゃあ、私も行く。ほら、フォルテシアも行こう!」
シェラはフォルテシアの手を掴んで小走りで後を追う。
「シェラ、ドレスなのにはしたない……」
苦笑しながらも抵抗せずにフォルテシアは連れて行かれた。
「俺も行きたいが、武器の管理が……」
ガイザが誰にとは無く愚痴ろうとした時だ。モルアールが手に持っていた鈴が小さく鳴った。
「来た!」
緊迫した声だが、周囲に聞こえる程度の声でモルアールが告げる。
庭園内に、侵入者感知用の魔法を巡らせていたので、何者かがその警戒線を抜けた事を鈴が魔法と連動して知らせてくれたのである。
急いでラーソルバールとガイザは箱の中から剣を取り出す。その様子を見ていたジャハネートはにやりと笑った。
「お祭りの時間だね!」
バルコニーに出たラーソルバールは剣を抜き、刀身を返すと即座に虚空を一閃する。暗闇に青白い光が尾を引いて弧を描き、闇に紛れた獲物を捕らえた。
「ガッ!」
バキッという音の後、黒い服を纏った男がうめき声を上げ、姿を現す。
ラーソルバールに剣の背で首筋を殴られ、男はバランスを崩して抗う事も出来ずに足元に転がった。
「そん……な……」
男は地から手を伸ばそうとし、そのまま気絶する。
モルアールは突然の出来事に、「見えたか?」と言わんばかりの視線をガイザに送る。が、ガイザも驚いたように首を振って答えた。
「まだ!」
ラーソルバールは声を上げ、更に自らの背後に剣を躍らせる。直後に金属音が響くと、剣を持った男の姿がゆらりと現れた。
左横に気配を感じ、剣を戻して斜めに切り下ろしたが、一瞬何かをかすめた感触は有ったものの、獲物を捕らえるには至らない。
剣を交えた男は、自らへの注意がそれた一瞬で、再び闇に消えようと試みる。空間が揺らぎ、闇と黒衣の境が消えかかった瞬間だった。
「逃がさねぇよ!」
ガイザの剣が男の脇腹を裂く。不意を突かれた男は痛みに悶絶し、声も上げられずに倒れ伏した。
「エラゼル、ほら、余興が始まっちゃってるわよ。お友達を待たせないようにね」
イリアナは、純白のドレスを纏った妹に持ってきた剣を手渡すと、瞬時に駆け出していった妹の背を見ながら小さく微笑んだ。
イリアナ自身も標的であるという自覚はある。それでも気丈に振舞うのは、妹達を信頼しているからなのだろう。
「殿下の婚約者候補二人を戦わせて、私はどんなご身分なんでしょうね」
誰にも聞こえぬよう、小さな声でイリアナは自嘲した。
バルコニーで行われている戦闘を見ながら、ジャハネートは動かず、楽しそうに眺めている。
「暗殺者を手玉に取るって、どんな騎士になるつもりだい、あの娘……」
呆れ気味につぶやき、自らも剣を手しようとしたが、駆け寄る白いドレスの娘を視界に捕らえると、手を止めた。
「ああ、もう一人のお姫様がもう出るのかい。アタシの出番は無さそうだねぇ」
ジャハネートは苦笑した。
エラゼルの登場により会は華やかな時間を迎えた。
美しいドレスやスーツに身を包んだ者達、デラネトゥス家と血縁関係のある家の者達だけでも、それなりの人数になる。とはいえ、前年のように豪華な会を催すこともできる部屋だけに、今年の人数では閑散として見えるのも無理は無い。
それでも無事に会を進行させるため、警備の兵は壁際に目立たぬように配置され、使用人たちも忙しそうに動き回っていた。
料理と歓談の時間であるため、楽器による演奏の音も抑えられている。
ラーソルバールも友人達と合流し、バルコニー近くから華やかな会を遠巻きに眺める。それでも白いドレスが一際目立つエラゼルは、すぐに居場所が分かった。
彼女が丁寧に出席者への挨拶回りをしている姿を見て、自分には同じ事はできないだろうなと自嘲気味にため息をつく。
「ちょっとお料理貰ってくるね」
各所に置かれている料理を恨めしげに見ていたディナレスだったが、意を決して足を踏み出す。
「ああ、じゃあ、私も行く。ほら、フォルテシアも行こう!」
シェラはフォルテシアの手を掴んで小走りで後を追う。
「シェラ、ドレスなのにはしたない……」
苦笑しながらも抵抗せずにフォルテシアは連れて行かれた。
「俺も行きたいが、武器の管理が……」
ガイザが誰にとは無く愚痴ろうとした時だ。モルアールが手に持っていた鈴が小さく鳴った。
「来た!」
緊迫した声だが、周囲に聞こえる程度の声でモルアールが告げる。
庭園内に、侵入者感知用の魔法を巡らせていたので、何者かがその警戒線を抜けた事を鈴が魔法と連動して知らせてくれたのである。
急いでラーソルバールとガイザは箱の中から剣を取り出す。その様子を見ていたジャハネートはにやりと笑った。
「お祭りの時間だね!」
バルコニーに出たラーソルバールは剣を抜き、刀身を返すと即座に虚空を一閃する。暗闇に青白い光が尾を引いて弧を描き、闇に紛れた獲物を捕らえた。
「ガッ!」
バキッという音の後、黒い服を纏った男がうめき声を上げ、姿を現す。
ラーソルバールに剣の背で首筋を殴られ、男はバランスを崩して抗う事も出来ずに足元に転がった。
「そん……な……」
男は地から手を伸ばそうとし、そのまま気絶する。
モルアールは突然の出来事に、「見えたか?」と言わんばかりの視線をガイザに送る。が、ガイザも驚いたように首を振って答えた。
「まだ!」
ラーソルバールは声を上げ、更に自らの背後に剣を躍らせる。直後に金属音が響くと、剣を持った男の姿がゆらりと現れた。
左横に気配を感じ、剣を戻して斜めに切り下ろしたが、一瞬何かをかすめた感触は有ったものの、獲物を捕らえるには至らない。
剣を交えた男は、自らへの注意がそれた一瞬で、再び闇に消えようと試みる。空間が揺らぎ、闇と黒衣の境が消えかかった瞬間だった。
「逃がさねぇよ!」
ガイザの剣が男の脇腹を裂く。不意を突かれた男は痛みに悶絶し、声も上げられずに倒れ伏した。
「エラゼル、ほら、余興が始まっちゃってるわよ。お友達を待たせないようにね」
イリアナは、純白のドレスを纏った妹に持ってきた剣を手渡すと、瞬時に駆け出していった妹の背を見ながら小さく微笑んだ。
イリアナ自身も標的であるという自覚はある。それでも気丈に振舞うのは、妹達を信頼しているからなのだろう。
「殿下の婚約者候補二人を戦わせて、私はどんなご身分なんでしょうね」
誰にも聞こえぬよう、小さな声でイリアナは自嘲した。
バルコニーで行われている戦闘を見ながら、ジャハネートは動かず、楽しそうに眺めている。
「暗殺者を手玉に取るって、どんな騎士になるつもりだい、あの娘……」
呆れ気味につぶやき、自らも剣を手しようとしたが、駆け寄る白いドレスの娘を視界に捕らえると、手を止めた。
「ああ、もう一人のお姫様がもう出るのかい。アタシの出番は無さそうだねぇ」
ジャハネートは苦笑した。
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