385 / 439
第二部:第三十二章 積み重ねたもの
(四)憂鬱な年末①
しおりを挟む
(四)
この年の学校行事および授業は終わり、例年通り騎士学校は冬季の休暇に入った。
王都に実家の無いフォルテシアは、前日までに荷物をまとめており、朝一番に寮を出ることになっていた。
いそいそと急ぐ様子を見たシェラが理由を尋ねると、少し嬉しそうな表情を浮かべながらフォルテシアは答えた。
「今年は父が休暇が貰えたらしいから」
実家への期待を滲ませながらも、見送る者達との一時の別れを惜しむ。
「お父様にはその節は大変お世話になりました。感謝しておりますと、伝えてね」
ブルテイラ事件ではその存在が無ければ、皆どうなっていたか分からない。ラーソルバールの言葉にシェラも、エラゼルも微笑みながらうなずいた。
「分かった、伝えておく」
口数の少なさは相変わらずだが、入学当初は無愛想に見えたフォルテシアも、豊かな表情を見せるようになっており、エラゼルには「誰かの悪い影響を受けたせいだ」とからかわれた事もある。その時「貴女も同じ」とフォルテシアがつぶやくように返した言葉は、エラゼルには聞こえていなかったに違いない。
「じゃあ、馬車の時間があるから」
三人に門まで見送られ、フォルテシアは手を振りながら走って去っていった。
「さて、誰かさんに部屋に寄生されないうちに、私も家に帰ろうかな」
「ん? 誰のことだ?」
ラーソルバールとエラゼルのやり取りを聞きながら、シェラは笑いをこらえる。
「まあ、ラーソルも起こしてくれた人に良くそういう事が言えるよね」
「はて?」
とぼけるように背を向けて、さっさと寮へと足を向ける。
「家で年越しの支度もしないといけないから……」
「王宮の新年会もあるしね……憂鬱だわ……」
「待て待て、誰が寄生すると?」
三者三様の言葉を漏らしつつ、三人は寮に戻った。
王太子の婚約者候補になった以上は、王宮の新年会の参加はほぼ必須となる。であるにも関わらず、国からの支度金等や援助は一切ない。会に出席しなくても良いという意味ではなく、着飾って来なくても良いと受け取るべきだろう。会への向き合い方や、そこでの振舞いが評価されるのは間違いない。
ラーソルバール自身、婚約者に選ばれようという気は一切無いのだが、爵位を授けられたうえ、英雄だの聖女だのと有り難くもない名で呼ばれる以上は、無様な姿を晒す訳にはいかない。
社交界に出て二年目でもあるし、どういうものかも味わった。前回は目立たないように隠れていられたが、今年は立場を考えれば同じよう済ませる訳にはいかないだろう。
荷物を纏めながら、ため息をつく。
「何を、憂鬱そうな顔をしている」
優雅に茶を飲みながら、黙って様子を眺めていたエラゼルが口を開いた。
「んー……。王宮の新年会に行きたくない」
「無理だ」
即答され、ラーソルバールはあからさまに嫌な顔をする。
「叙爵されてから初の王宮の催しに出席しないなど、不敬にも程があるだろう」
エラゼル自身も面倒事が嫌いなくせに、自分の嫌がる姿を見て楽しんでいるのだとラーソルバールはすぐに理解した。
「けど、会に出れば年齢も年齢だし、言い寄ってくる男性も増えるだろうしねぇ」
他人事のように茶を飲む相手に、ちくりと言い返す。動揺してティーカップを揺らしたが、落下させたり、こぼしたりするまでには至らなかった。
「わ……我々は、言い寄って来られても、候補者選定が終わるまで受けるわけにはいかないだろう?」
「そんなの分かってるよ。ただその事は公言できないし、向こうも事情を知らないから、あしらうのも大変だよ、きっと」
「……そうだな」
エラゼルは自らの置かれている状況を理解すると、先程までの余裕はすっかり消え、肩を落としてうな垂れた。ラーソルバールはともかく、エラゼルのような公爵家の娘に近付くのは、それなりに格のある家の出身に限られるだろう。数は気に病む程ではないが、断り方が問題になりそうだ。そこまで想像して、ラーソルバールは友を思い、苦笑した。
「さあ、私の部屋で考えてても仕方ないから、自分の部屋に戻ってください。それ洗ったら、私は実家に帰るから」
「邪魔者扱いして……」
「はいはい、新年会で会いましょう!」
厄介者を追い出すが如く、エラゼルの尻を軽く叩く。そんなエラゼルがふてくされたような顔をしたところで、入り口から声がした。
「ラーソル、私は先に帰るね……って、……結局、寄生してたのね」
シェラが部屋を覗き込み、エラゼルの顔を見るなり笑った。
「うん、寄生されてた」
「な……。人を厄介な虫のように……」
シェラが吹き出して笑い出すと、そのまま二人もつられたように笑い出した。
この年の学校行事および授業は終わり、例年通り騎士学校は冬季の休暇に入った。
王都に実家の無いフォルテシアは、前日までに荷物をまとめており、朝一番に寮を出ることになっていた。
いそいそと急ぐ様子を見たシェラが理由を尋ねると、少し嬉しそうな表情を浮かべながらフォルテシアは答えた。
「今年は父が休暇が貰えたらしいから」
実家への期待を滲ませながらも、見送る者達との一時の別れを惜しむ。
「お父様にはその節は大変お世話になりました。感謝しておりますと、伝えてね」
ブルテイラ事件ではその存在が無ければ、皆どうなっていたか分からない。ラーソルバールの言葉にシェラも、エラゼルも微笑みながらうなずいた。
「分かった、伝えておく」
口数の少なさは相変わらずだが、入学当初は無愛想に見えたフォルテシアも、豊かな表情を見せるようになっており、エラゼルには「誰かの悪い影響を受けたせいだ」とからかわれた事もある。その時「貴女も同じ」とフォルテシアがつぶやくように返した言葉は、エラゼルには聞こえていなかったに違いない。
「じゃあ、馬車の時間があるから」
三人に門まで見送られ、フォルテシアは手を振りながら走って去っていった。
「さて、誰かさんに部屋に寄生されないうちに、私も家に帰ろうかな」
「ん? 誰のことだ?」
ラーソルバールとエラゼルのやり取りを聞きながら、シェラは笑いをこらえる。
「まあ、ラーソルも起こしてくれた人に良くそういう事が言えるよね」
「はて?」
とぼけるように背を向けて、さっさと寮へと足を向ける。
「家で年越しの支度もしないといけないから……」
「王宮の新年会もあるしね……憂鬱だわ……」
「待て待て、誰が寄生すると?」
三者三様の言葉を漏らしつつ、三人は寮に戻った。
王太子の婚約者候補になった以上は、王宮の新年会の参加はほぼ必須となる。であるにも関わらず、国からの支度金等や援助は一切ない。会に出席しなくても良いという意味ではなく、着飾って来なくても良いと受け取るべきだろう。会への向き合い方や、そこでの振舞いが評価されるのは間違いない。
ラーソルバール自身、婚約者に選ばれようという気は一切無いのだが、爵位を授けられたうえ、英雄だの聖女だのと有り難くもない名で呼ばれる以上は、無様な姿を晒す訳にはいかない。
社交界に出て二年目でもあるし、どういうものかも味わった。前回は目立たないように隠れていられたが、今年は立場を考えれば同じよう済ませる訳にはいかないだろう。
荷物を纏めながら、ため息をつく。
「何を、憂鬱そうな顔をしている」
優雅に茶を飲みながら、黙って様子を眺めていたエラゼルが口を開いた。
「んー……。王宮の新年会に行きたくない」
「無理だ」
即答され、ラーソルバールはあからさまに嫌な顔をする。
「叙爵されてから初の王宮の催しに出席しないなど、不敬にも程があるだろう」
エラゼル自身も面倒事が嫌いなくせに、自分の嫌がる姿を見て楽しんでいるのだとラーソルバールはすぐに理解した。
「けど、会に出れば年齢も年齢だし、言い寄ってくる男性も増えるだろうしねぇ」
他人事のように茶を飲む相手に、ちくりと言い返す。動揺してティーカップを揺らしたが、落下させたり、こぼしたりするまでには至らなかった。
「わ……我々は、言い寄って来られても、候補者選定が終わるまで受けるわけにはいかないだろう?」
「そんなの分かってるよ。ただその事は公言できないし、向こうも事情を知らないから、あしらうのも大変だよ、きっと」
「……そうだな」
エラゼルは自らの置かれている状況を理解すると、先程までの余裕はすっかり消え、肩を落としてうな垂れた。ラーソルバールはともかく、エラゼルのような公爵家の娘に近付くのは、それなりに格のある家の出身に限られるだろう。数は気に病む程ではないが、断り方が問題になりそうだ。そこまで想像して、ラーソルバールは友を思い、苦笑した。
「さあ、私の部屋で考えてても仕方ないから、自分の部屋に戻ってください。それ洗ったら、私は実家に帰るから」
「邪魔者扱いして……」
「はいはい、新年会で会いましょう!」
厄介者を追い出すが如く、エラゼルの尻を軽く叩く。そんなエラゼルがふてくされたような顔をしたところで、入り口から声がした。
「ラーソル、私は先に帰るね……って、……結局、寄生してたのね」
シェラが部屋を覗き込み、エラゼルの顔を見るなり笑った。
「うん、寄生されてた」
「な……。人を厄介な虫のように……」
シェラが吹き出して笑い出すと、そのまま二人もつられたように笑い出した。
0
あなたにおすすめの小説
まず、後宮に入れませんっ! ~悪役令嬢として他の国に嫁がされましたが、何故か荷物から勇者の剣が出てきたので、魔王を倒しに行くことになりました
菱沼あゆ
ファンタジー
妹の婚約者を狙う悪女だと罵られ、国を追い出された王女フェリシア。
残忍で好色だと評判のトレラント王のもとに嫁ぐことになるが。
何故か、輿入れの荷物の中には、勇者の剣が入っていた。
後宮にも入れず、魔王を倒しに行くことになったフェリシアは――。
(小説家になろうでも掲載しています)
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる