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第二部:第三十三章 その手に掴むのは
(二)エラゼルの決意①
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(二)
王宮の新年会。ラーソルバール達が他の参加者の対応に疲れてきた頃だった。
目の前にやってきたのは、ウォルスター・ヴァストール第二王子。
「お久し振りで御座います、殿下」
恭しくエラゼルが頭を下げ、合わせるように二人も続く。
「他の者ならともかく、私なら兄上に遠慮せず相手をしてくれるのだろう?」
悪戯っぽい笑みを浮かべたが、端整な顔立ちのおかげで嫌味を感じさせない。
さすがに王太子の婚約者候補の話を知っているようで、冗談交じりに言った言葉には少々棘があった。
「誰が殿下を邪険に扱うような事をしましょうか」
額面通りには受け取らず、あくまでも王家に対する節度を失わない。エラゼルらしい受け答えだった。
「……んー。今し方、ファルデリアナに邪魔者のように、追い払われてきた所なんだが」
「ぷっ……」
想定外の言葉に、思わずラーソルバールは吹き出してしまった。
王族に対してさすがに不敬だと思って、慌てて口元を隠したが既に遅く、ウォルスターはラーソルバールへと視線を向けた。
「なあ、ラーソルバール嬢も酷いと思うだろう? イリアナやルベーゼにも逃げられたんだぞ」
不敬に対するお叱りがくるものと思っていたところに、子供のように無邪気な顔で言われると、どう反応して良いやら分からない。更に笑いそうになる所でエラゼルが頭を下げた。
「姉達が失礼を致しまして、誠に申し訳ありません」
そう言ったエラゼルも、必死に笑いをこらえているのが分かる。
「いや、それは良いのだが……。ふむ、エラゼルもそういう顔をするようになったのだな」
「殿下もお人が悪い……」
嬉しそうに笑うウォルスターから、恥ずかしげに顔を背けるとエラゼルは頬を染める。そんな様子を見て、ラーソルバールは助け舟を出すことにした。
「殿下はお話し相手をご所望なのですか?」
「ああ。話し相手も欲しかったのだが、出来ればダンスの相手をくれる女性を探していたのだが……生憎と、それ程知り合いも多く無いのでな」
ウォルスターは、ばつが悪そうに頭を掻く。話し相手はともかく、兄の婚約者候補と踊るわけにはいかないのだろう。
「以前、私にお声掛け下さった時のように、どなたかをお誘いになればよろしいのではないですか?」
「いやあの時は、エラゼルの友人が珍しかったから、興味が優先したのだ。本来ああいうのは苦手なものでな……」
王子と踊りたいと考える者は少なく無いだろうが、自ら申し出るのは不敬にあたる。そうした事情を考えれば、名乗り出る者が居るはずも無く、相手を探すのに苦労しているというのも理解できる。
照れくさそうにしている姿を見て、何とかしたいという気持ちが生まれた。
「殿下、そうしましたら、こちらの娘と踊っていただけませんか。去年もお会いしておりますが、ファーラトス子爵家の次女で、シェラと申します」
「はっ?」
突然、話を振られたシェラは驚いて声が裏返った。
「ああ、それは良い。私と踊ってくれるか、シェラ嬢?」
「は……はい!」
差し出された手を拒絶する事もできず、生贄の羊はウォルスターに連れられていった。
二人は手を振って見送ると、顔を合わせて苦笑いする。
シェラに少し悪い事をしたかな、と思わなくもないが、これだけ大きな会で王族と踊るのだから名誉な事なのは間違いない。ラーソルバールは、自分の中でそう言い訳をした。
二人になって、飲み物を手にひと息つこうとした時だった。
「エラゼル様、お久し振りです」
呼ばれて振り返ると、エイルディア修学院に通う令嬢達がそこにいた。エラゼルは飲み物を近くのテーブルに戻すと、優雅にお辞儀をして彼女達を迎える。
「お久し振りです。交流期間以来ですね」
公爵令嬢らしい凛とした姿になると、周囲の雰囲気までもが変わったように感じられる。ラーソルバールは脇に立ったまま、一言も発することなくやりとりを見ていた。
そして暫しの時間を歓談してから令嬢達が去っていくと、エラゼルは大きくため息をついた。
「疲れるな……」
疲れた様子を見せながら、エラゼルは苦笑する。
「そう? やっぱり公爵家の令嬢なんだなって思えて素敵だったよ。私なんかとは全然身分が違うんだと感じたし、本来は隣に……」
「何を言うか、身分の貴賎で友を選ぶつもりはない。ラーソルバールはラーソルバールだ」
ラーソルバールの言葉を遮るように、ぴしゃりと言い放つ。そこにエラゼルの意志の強さが感じ取れた。
「……うん、余計な事言った。ごめんね」
意図せず、傷つけるような事を言ってしまった事を後悔しつつ、素直に謝罪する。それを受け入れるようにエラゼルが微笑んだところに、丁度ダンスを終えたシェラが戻ってきた。
王宮の新年会。ラーソルバール達が他の参加者の対応に疲れてきた頃だった。
目の前にやってきたのは、ウォルスター・ヴァストール第二王子。
「お久し振りで御座います、殿下」
恭しくエラゼルが頭を下げ、合わせるように二人も続く。
「他の者ならともかく、私なら兄上に遠慮せず相手をしてくれるのだろう?」
悪戯っぽい笑みを浮かべたが、端整な顔立ちのおかげで嫌味を感じさせない。
さすがに王太子の婚約者候補の話を知っているようで、冗談交じりに言った言葉には少々棘があった。
「誰が殿下を邪険に扱うような事をしましょうか」
額面通りには受け取らず、あくまでも王家に対する節度を失わない。エラゼルらしい受け答えだった。
「……んー。今し方、ファルデリアナに邪魔者のように、追い払われてきた所なんだが」
「ぷっ……」
想定外の言葉に、思わずラーソルバールは吹き出してしまった。
王族に対してさすがに不敬だと思って、慌てて口元を隠したが既に遅く、ウォルスターはラーソルバールへと視線を向けた。
「なあ、ラーソルバール嬢も酷いと思うだろう? イリアナやルベーゼにも逃げられたんだぞ」
不敬に対するお叱りがくるものと思っていたところに、子供のように無邪気な顔で言われると、どう反応して良いやら分からない。更に笑いそうになる所でエラゼルが頭を下げた。
「姉達が失礼を致しまして、誠に申し訳ありません」
そう言ったエラゼルも、必死に笑いをこらえているのが分かる。
「いや、それは良いのだが……。ふむ、エラゼルもそういう顔をするようになったのだな」
「殿下もお人が悪い……」
嬉しそうに笑うウォルスターから、恥ずかしげに顔を背けるとエラゼルは頬を染める。そんな様子を見て、ラーソルバールは助け舟を出すことにした。
「殿下はお話し相手をご所望なのですか?」
「ああ。話し相手も欲しかったのだが、出来ればダンスの相手をくれる女性を探していたのだが……生憎と、それ程知り合いも多く無いのでな」
ウォルスターは、ばつが悪そうに頭を掻く。話し相手はともかく、兄の婚約者候補と踊るわけにはいかないのだろう。
「以前、私にお声掛け下さった時のように、どなたかをお誘いになればよろしいのではないですか?」
「いやあの時は、エラゼルの友人が珍しかったから、興味が優先したのだ。本来ああいうのは苦手なものでな……」
王子と踊りたいと考える者は少なく無いだろうが、自ら申し出るのは不敬にあたる。そうした事情を考えれば、名乗り出る者が居るはずも無く、相手を探すのに苦労しているというのも理解できる。
照れくさそうにしている姿を見て、何とかしたいという気持ちが生まれた。
「殿下、そうしましたら、こちらの娘と踊っていただけませんか。去年もお会いしておりますが、ファーラトス子爵家の次女で、シェラと申します」
「はっ?」
突然、話を振られたシェラは驚いて声が裏返った。
「ああ、それは良い。私と踊ってくれるか、シェラ嬢?」
「は……はい!」
差し出された手を拒絶する事もできず、生贄の羊はウォルスターに連れられていった。
二人は手を振って見送ると、顔を合わせて苦笑いする。
シェラに少し悪い事をしたかな、と思わなくもないが、これだけ大きな会で王族と踊るのだから名誉な事なのは間違いない。ラーソルバールは、自分の中でそう言い訳をした。
二人になって、飲み物を手にひと息つこうとした時だった。
「エラゼル様、お久し振りです」
呼ばれて振り返ると、エイルディア修学院に通う令嬢達がそこにいた。エラゼルは飲み物を近くのテーブルに戻すと、優雅にお辞儀をして彼女達を迎える。
「お久し振りです。交流期間以来ですね」
公爵令嬢らしい凛とした姿になると、周囲の雰囲気までもが変わったように感じられる。ラーソルバールは脇に立ったまま、一言も発することなくやりとりを見ていた。
そして暫しの時間を歓談してから令嬢達が去っていくと、エラゼルは大きくため息をついた。
「疲れるな……」
疲れた様子を見せながら、エラゼルは苦笑する。
「そう? やっぱり公爵家の令嬢なんだなって思えて素敵だったよ。私なんかとは全然身分が違うんだと感じたし、本来は隣に……」
「何を言うか、身分の貴賎で友を選ぶつもりはない。ラーソルバールはラーソルバールだ」
ラーソルバールの言葉を遮るように、ぴしゃりと言い放つ。そこにエラゼルの意志の強さが感じ取れた。
「……うん、余計な事言った。ごめんね」
意図せず、傷つけるような事を言ってしまった事を後悔しつつ、素直に謝罪する。それを受け入れるようにエラゼルが微笑んだところに、丁度ダンスを終えたシェラが戻ってきた。
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