50 / 91
第50話 魔法色
しおりを挟む
「そうだ! アイシス」
ケルベに噛まれたキドナの腕を治療し、キドナたち3人を並べて寝かせたところで、リディはアイシスのことを思い出した。離れたところへ行っておくよう伝えた時に、アイシスが向かった方向を見てみると、木の陰からこちらを伺っているアイシスが見えた。
リディが大きい声でアイシスを呼ぶと、トコトコという擬音がつきそうな足取りでアイシスがリディたちの下へと向かってくる。少し怖がっているように見えるのは、ケルベたちがリディたちの側にいるからだろう。
「ふたりとも、よかった無事で」
リディたちの下へとやってきたアイシスは、リディとニケの無事な様子を確認するとほっと胸をなでおろした。
「リディよくこの場所がわかったわね」
「あぁ、ニケが場所を教えてくれたからな」
「えっ? ニケ君は馬車の中でも、ここへ来てからも、それらしいことはしていなかったけど」
アイシスの言う通り、ニケは大声でリディを呼んだり、馬車からリディが辿れる目印を落としていったりということはしていない。
「見た目ではわからないだろうな」
「じゃあ、どうやって呼んだの?」
「ニケはケルベたち……この大きい友達らのことだが、彼らに魔法で簡単な言葉を伝えることができるんだ」
それはニケが街に入るときなどにケルベたちと別れ、再び集まる時によく使っている魔法だ。以前リディも見せてもらい、その時にケルベたちだけでなくリディにも声を伝えることができるかを試していた。
「前に試したときには私はなんにも感じなかったのだが……」
それは、リディがポリムと話していた時だった。突然ニケの声がリディの頭の中に響いた。その声を聞いたリディはすぐに憲兵の詰所を飛び出し、声のする方へと全力で向かった。
そして、声のする方へと向かって街を出て森に差し掛かった辺りで、グリフに見つかり緊急時だったので一緒に乗せてきてもらったという訳だった。
アイシスが馬車の中で感じた『ぞわっ』とする何かが通り過ぎる感覚は、ニケがリディたちに向けて魔力を飛ばした影響を受けたものだった。
「ニケは私に声が伝わるって知っていたのか?」
「ん、たぶん……だったけど、前に魔法の色を見せてもらったから……」
「魔法の色?」
魔法の色という言葉はリディも初めて聞く言葉だった。魔法は使う人によって、色あるいは、波紋と言うべきような個性がある。双子など特異な例を除き、完全に同じ色の魔法色を持つものは極稀だ。普通の人はこれを見ることは出来ないが、ニケは術者が魔法を使う時に放出される魔力を色として知覚することが出来た。
「ちなみに私は何色をしているんだ?」
「リディは白」
「アイシスは?」
「青」
「ニケは?」
「自分のは……わかんない」
火の魔法が得意なものは赤色、水の魔法が得意なものは青色といった具合に、魔法色にはその人が得意とする魔法の特色が表れる。色はその人自体が持つもので、発動する魔法の影響は受けない。例えばアイシスが火の魔法を使ったとしてもその時に表れる魔法の色は青のままだ。
リディの白は珍しい色だった。何色にも染まらないニュートラルな色、逆に何色にも染めることができる。リディが器用に様々な魔法を使うことができるのは、この魔法色であるが故だ。
ニケができるのは魔法色を視ることだけではない。ニケは自身のこの魔法色を変化させることで、他の人の魔法に干渉することもできる。リディにこの場所を伝えることが出来たのもその力によるものだ。ヒジカ退治のあとで観察させてもらったリディの魔法色を自身の魔力で再現し、その状態で魔法を飛ばす。すると飛ばした魔力がリディの魔力に干渉し、簡単な言葉を伝えることができるのだ。
そしてニケは同様にしてキドナの魔法にも干渉していた。キドナの火球がニケに当たらなかったのは、キドナの魔力にニケが干渉し、火球のコントロールを乱していたからだ。
「う、うぅ……」
3人が魔法色の話をしていると、そばに寝かせていたキドナがうめき声を上げた。
その声を聞いてリディは剣を構え、アイシスはリディの背後に隠れるように移動する。キドナの魔素は浄化されたはずだが、まだ油断は出来ない。
キドナの目がゆっくりと開く。寝転がり、目を細めたまま辺りを確認するようにキドナは首を動かした。
「ここ、は……アイシス……様?」
リディの背後にアイシスの姿を見つけると、キドナはアイシスの名前を呼んだ。先程までの荒々しい気性は影も形もなくなり、今のこの状況を理解できないでいるように見えた。
キドナはリディの剣を見て、怯えにも似た表情を見せる。先程までのキドナであれば絶対に見せなかった表情だ。
キドナが攻撃してこないことを確認すると、リディは剣を収めた。アイシスはリディの背後からキドナのもとへと歩み寄り、キドナの様子を確認する。
「キドナ……戻ったのね?」
「戻った……それは一体? ……うっ」
キドナは顔を顰めると、頭を押さえた。
「すみません。少し、頭痛が……」
頭痛を訴えるキドナの様子を伺いながら、アイシスはキドナに質問をしていく。しかし、キドナはアイシスの質問に困惑するばかりで、先程リディと戦ったことなども全く覚えていない様子だった。
もっと詳しく聞き出したい思いはあったが、先程からずっと頭を押さえているキドナの体調を優先し、キドナへの事情聴取は別の機会に行うことにした。
キドナの体調の回復だけではなく、アイシスにもキドナ自身にキドナが行った所業を伝える覚悟をする時間が必要だった。
「もうすぐポリムが憲兵たちを連れてやって来るはずだ。彼らの到着を待って一旦街へ戻ろう」
ポリム達が来る前にケルベたちには、また離れたところへ身を隠してもらう。ポリムには人を多めに連れてくるように伝えてある。彼らがケルベたちを見て騒ぎになってもいけない。
ニケがケルベたちにいつものように身を隠しておくように伝えると、ケルベたちはめいめいに好きな方向へと移動していった。
彼らの様子はいつも通りだった。
だから気づけなかった。ケルベの青い瞳の奥に赤い光が燻っていたことに――。
ケルベに噛まれたキドナの腕を治療し、キドナたち3人を並べて寝かせたところで、リディはアイシスのことを思い出した。離れたところへ行っておくよう伝えた時に、アイシスが向かった方向を見てみると、木の陰からこちらを伺っているアイシスが見えた。
リディが大きい声でアイシスを呼ぶと、トコトコという擬音がつきそうな足取りでアイシスがリディたちの下へと向かってくる。少し怖がっているように見えるのは、ケルベたちがリディたちの側にいるからだろう。
「ふたりとも、よかった無事で」
リディたちの下へとやってきたアイシスは、リディとニケの無事な様子を確認するとほっと胸をなでおろした。
「リディよくこの場所がわかったわね」
「あぁ、ニケが場所を教えてくれたからな」
「えっ? ニケ君は馬車の中でも、ここへ来てからも、それらしいことはしていなかったけど」
アイシスの言う通り、ニケは大声でリディを呼んだり、馬車からリディが辿れる目印を落としていったりということはしていない。
「見た目ではわからないだろうな」
「じゃあ、どうやって呼んだの?」
「ニケはケルベたち……この大きい友達らのことだが、彼らに魔法で簡単な言葉を伝えることができるんだ」
それはニケが街に入るときなどにケルベたちと別れ、再び集まる時によく使っている魔法だ。以前リディも見せてもらい、その時にケルベたちだけでなくリディにも声を伝えることができるかを試していた。
「前に試したときには私はなんにも感じなかったのだが……」
それは、リディがポリムと話していた時だった。突然ニケの声がリディの頭の中に響いた。その声を聞いたリディはすぐに憲兵の詰所を飛び出し、声のする方へと全力で向かった。
そして、声のする方へと向かって街を出て森に差し掛かった辺りで、グリフに見つかり緊急時だったので一緒に乗せてきてもらったという訳だった。
アイシスが馬車の中で感じた『ぞわっ』とする何かが通り過ぎる感覚は、ニケがリディたちに向けて魔力を飛ばした影響を受けたものだった。
「ニケは私に声が伝わるって知っていたのか?」
「ん、たぶん……だったけど、前に魔法の色を見せてもらったから……」
「魔法の色?」
魔法の色という言葉はリディも初めて聞く言葉だった。魔法は使う人によって、色あるいは、波紋と言うべきような個性がある。双子など特異な例を除き、完全に同じ色の魔法色を持つものは極稀だ。普通の人はこれを見ることは出来ないが、ニケは術者が魔法を使う時に放出される魔力を色として知覚することが出来た。
「ちなみに私は何色をしているんだ?」
「リディは白」
「アイシスは?」
「青」
「ニケは?」
「自分のは……わかんない」
火の魔法が得意なものは赤色、水の魔法が得意なものは青色といった具合に、魔法色にはその人が得意とする魔法の特色が表れる。色はその人自体が持つもので、発動する魔法の影響は受けない。例えばアイシスが火の魔法を使ったとしてもその時に表れる魔法の色は青のままだ。
リディの白は珍しい色だった。何色にも染まらないニュートラルな色、逆に何色にも染めることができる。リディが器用に様々な魔法を使うことができるのは、この魔法色であるが故だ。
ニケができるのは魔法色を視ることだけではない。ニケは自身のこの魔法色を変化させることで、他の人の魔法に干渉することもできる。リディにこの場所を伝えることが出来たのもその力によるものだ。ヒジカ退治のあとで観察させてもらったリディの魔法色を自身の魔力で再現し、その状態で魔法を飛ばす。すると飛ばした魔力がリディの魔力に干渉し、簡単な言葉を伝えることができるのだ。
そしてニケは同様にしてキドナの魔法にも干渉していた。キドナの火球がニケに当たらなかったのは、キドナの魔力にニケが干渉し、火球のコントロールを乱していたからだ。
「う、うぅ……」
3人が魔法色の話をしていると、そばに寝かせていたキドナがうめき声を上げた。
その声を聞いてリディは剣を構え、アイシスはリディの背後に隠れるように移動する。キドナの魔素は浄化されたはずだが、まだ油断は出来ない。
キドナの目がゆっくりと開く。寝転がり、目を細めたまま辺りを確認するようにキドナは首を動かした。
「ここ、は……アイシス……様?」
リディの背後にアイシスの姿を見つけると、キドナはアイシスの名前を呼んだ。先程までの荒々しい気性は影も形もなくなり、今のこの状況を理解できないでいるように見えた。
キドナはリディの剣を見て、怯えにも似た表情を見せる。先程までのキドナであれば絶対に見せなかった表情だ。
キドナが攻撃してこないことを確認すると、リディは剣を収めた。アイシスはリディの背後からキドナのもとへと歩み寄り、キドナの様子を確認する。
「キドナ……戻ったのね?」
「戻った……それは一体? ……うっ」
キドナは顔を顰めると、頭を押さえた。
「すみません。少し、頭痛が……」
頭痛を訴えるキドナの様子を伺いながら、アイシスはキドナに質問をしていく。しかし、キドナはアイシスの質問に困惑するばかりで、先程リディと戦ったことなども全く覚えていない様子だった。
もっと詳しく聞き出したい思いはあったが、先程からずっと頭を押さえているキドナの体調を優先し、キドナへの事情聴取は別の機会に行うことにした。
キドナの体調の回復だけではなく、アイシスにもキドナ自身にキドナが行った所業を伝える覚悟をする時間が必要だった。
「もうすぐポリムが憲兵たちを連れてやって来るはずだ。彼らの到着を待って一旦街へ戻ろう」
ポリム達が来る前にケルベたちには、また離れたところへ身を隠してもらう。ポリムには人を多めに連れてくるように伝えてある。彼らがケルベたちを見て騒ぎになってもいけない。
ニケがケルベたちにいつものように身を隠しておくように伝えると、ケルベたちはめいめいに好きな方向へと移動していった。
彼らの様子はいつも通りだった。
だから気づけなかった。ケルベの青い瞳の奥に赤い光が燻っていたことに――。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった!
「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」
主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる