婚約者はやさぐれ王子でした

ダイナイ

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本編

3話 地下牢

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 地下牢ちかろうへと入れられてから数日が経った。
 ベットに横たわりながら、たまに見回りに来る執事と顔を合わせるだけの日々。
 あれからお父様が来ることはありませんでした。

 それでも、レオン王子殿下との婚約に少しでも抵抗しようと、出された食事に手を付けませんでした。

「シルヴィアさま、少しでも食べなければ体が持ちませんよ」

「ここから出られたら、好きなだけ食べますわ......」

「私たちからも旦那様にはお願いしていますから、どうか......」

 見回りにやって来た執事は、減っていないお皿を見ると、言葉をかけて来る。
 彼が悪いわけではありません。心苦しくなりながらも、八つ当たりをしてしまいました。
 執事は、困った様子で新しい食事を差し出して、部屋を去って行きました。





 カツン、カツンと足音が聞こえて来た。
 その足音は、執事のものではなく、ここでは初めて聞く音でした。

「カビくさいですわ」

 妹のセレナの声が聞こえて来る。

「お姉様? そこにいますの?」

「セレナ、どうかしたの?」

 きれいなものが好きで、汚れるのが嫌いな彼女が好んで来るとは思えません。
 わざわざ地下牢に妹がやって来るとは、何かあったのでしょうか。

「まあ! 本当に地下牢にいた!」

 妹は、私が地下牢に入っているのが分かると、目を大きく見開いた。

「お姉様、良くこんな所にいられますわね」

「私だって好きでいるわけではないわ」

 妹は布を口元に当てながら、話して来た。
 少しでもこの空間にいることが、耐えられないということが一目で分かります。

 きれい好きで掃除が嫌いなセレナには、このほこりっぽくてジメジメとした地下牢は、長く滞在したい場所ではないようです。
 私だって数日いても慣れないのに、さっき来たばかりならなおさらのはずです。

「それでセレナ、こんな場所に何をしに来たの?」

「さすがのお姉様とは言え、こんな場所に長くいたらおかしくなってしまいますわ。早く出た方がいいですわよ」

「それが出来るなら......」

「私からお父様に言ってあげますから」

 私は、妹の口から出た言葉に思わず顔を見た。
 長いこと妹と過ごして来ましたけれど、こんなことを言うことはありませんでした。
 まさか、姉である私のことを気遣ってくれているとでも言うのでしょうか。

「お父様に言ってあげますから、お姉様も婚約破棄などと言わずにお父様に謝罪をしましょう?」

「え?」

 どうやら、やっぱりそんなことはないようです。

「婚約者がレオン王子殿下だとしても、うわさが絶対と言うことはありませんわ。どこか良い所だってあるかもしれませんよ」

 妹は、私のことなんか気遣ってくれてはいません。
 むしろその逆だと言えます。
 地下牢に入っているみっともない姿を見て、嘲笑あざわらいに来たのです。

「セレナ、私はお父様に謝罪する気はありませんわ。帰って下さい」

「まぁ、お姉様ったら後悔しますわよ? それに——」

「早く行って!」

 私は、大きな声を出してしまいました。

「あらあら、こわいですわ」

 妹は何かを言いたげな様子でしたけど、私が大声を出すと出て行ってしまいました。
 また、暗くてジメジメとした地下牢に一人きりになってしまいました——。



 ◇


「......」

 誰かが話している声が聞こえて、目が覚めました。
 いつのまにか、寝てしまっていたようです。

 一日中暗い地下牢は、時間感覚が分からずに陽の高さも分かりません。
 だから、寝ているしかやることがないんです。

 聞こえて来た人の声は、どうやら二人みたいです。
 地下牢まで聞こえて来ているので、この近くで話しをしているのかもしれません。

「なぁ聞いた」
「どうしたんだ」

「セレナさまと王子殿下の婚約が決まったらしいぞ」
「あれ? 王子殿下と婚約が決まったのは、シルヴィアさまじゃなかったのか?」

「シルヴィアさまは第二王子、セレナさまは王太子殿下と婚約みたいだ」
「へぇー、アーヴァイン公爵家はすごいな」

 そこまで話すと、二人の声が遠ざかって行きました。

 先ほどの二人が会話していた内容は、本当のことなのでしょうか。
 お父様は、私のために王子殿下と婚約を結んだと言っていたのに......。
 セレナも王子殿下と、それも第一王子の王太子殿下との婚約......。

 私には、やさぐれ王子のレオン王子殿下。
 セレナには、王太子殿下......。

 王太子殿下が、どのような方なのかは分かりませんが、やさぐれ王子よりはマシなはずです。
 やっぱりお父様は、あの日から変わってしまわれたのかもしれません。

「お父様......」

 いつか、いつかは前のような日々が戻って来ると信じていたのに。
 そんな日は、もう二度と来ないかもしれません。

 ハッと思い出しました。
 セレナが、普段は決して近付かないような地下牢へとやって来た理由はこれに違いありません。

 王太子殿下との婚約を私に言うため......。
 やさぐれ王子と婚約を結んだ私に、自身はそうではないと自慢をしに来たのかもしれません。

 そう思うと、どこか胸が痛くなって来ました......。
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