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ルソー伯爵の養子となってから、はじめて、エディに逃げ道ができた。心の拠り所と言ってもいいだろう。
あの夜会で、ミアと親しくなったエディに、ルソー伯爵は、たいそう満足していた。絶対に逃がすな。その命に、はじめて心から、はいとうなずいた。
王都を出立した馬車には、エディと、護衛と、馭者しか乗っていない。つまり、ルソー伯爵家の誰もいないのだ。
ジェンキンス伯爵の屋敷は、王都から馬車で、片道、四、五日はかかる。移動だけでも最低、八日を要するので、その日にち分、ルソー伯爵家から、コーリーから、離れられるということだ。
ジェンキンス伯爵の屋敷に行く。ルソー伯爵はそれを喜んで許可したが、コーリーは予想通り、激しく拒否した。黙って出立する手もあったが、そうすると、二回目からがより面倒になるので、移動日程など、すべてを伝えた。
『いやです! そんなにながいあいだおにいさまとはなれるなんて、さびしくてしんじゃいます!』
『どうしてもというなら、コーリーもいっしょにいきます!』
キイキイ響く金切り声に、頭痛がした。けれど怒鳴るわけにも無視するわけにもいかず、これはお父様の命令なのだと、ルソー伯爵も加わり、説得し続けた。
けれど。結局、納得はさせられず。結果、コーリーがまだ眠っている早朝に、屋敷を出ることになった。
「……帰りたくないなあ」
ぽつりと呟く。心なしか、楽に息ができる。それでもコーリーを脳裏に浮かべれば、気分は沈む。
手のひらに置いた、ハンカチを見る。自分で綺麗に手洗いし、アイロンをかけたものだ。
「……ミア嬢」
会いたい。そう願っているのは、自分だけだろうか。これが好意なのか、ただ、縋りたいだけなのか。今はまだ、わからないけど。
(きみに会いたいのは、本当だから)
馭者や護衛の男たちとの会話は、必要最低限。そんな移動ではあったが、エディの心は、終始、とても凪いでいた。
♢♢♢♢♢
「やあ、いらっしゃい。遠路はるばる、ようこそ。大変だったろう」
「あなたがエディね。まだ十歳なのに、護衛の人たちとだけでここまで来るなんて、すごいわ。しっかりしているのね」
ジェンキンス伯爵の屋敷に着くなり、当主家族自らが、出迎え、労いの言葉をかけてくれた。
心が、じんわりと温かくなる。
「いいえ、そんな。僕はただ、馬車に揺られているだけだったので」
あら。ジェンキンス伯爵夫人が上品に笑い、エディからミアに視線を移した。
「見目も良いのに、物腰もとても穏やかなのね。ミアが仲良くなれたのも、納得だわ」
頭を撫でられながら、少し緊張したようにミアが頬を赤く染める。父親だけでなく、母親にも、大事に、ちゃんと想われている。そのことはもう、妬ましくもなく。何故か安堵さえ覚えて。
(僕は存外、単純なのかもしれないな)
まだ、会ったばかり。過ごした時間は、一日にも満たない。
それでもエディにとって、ミアは、はじめて心の痛みに気付いてくれた人。そして、涙を拭ってくれた人だったから。
惹かれるきっかけとしては、充分だった。
あの夜会で、ミアと親しくなったエディに、ルソー伯爵は、たいそう満足していた。絶対に逃がすな。その命に、はじめて心から、はいとうなずいた。
王都を出立した馬車には、エディと、護衛と、馭者しか乗っていない。つまり、ルソー伯爵家の誰もいないのだ。
ジェンキンス伯爵の屋敷は、王都から馬車で、片道、四、五日はかかる。移動だけでも最低、八日を要するので、その日にち分、ルソー伯爵家から、コーリーから、離れられるということだ。
ジェンキンス伯爵の屋敷に行く。ルソー伯爵はそれを喜んで許可したが、コーリーは予想通り、激しく拒否した。黙って出立する手もあったが、そうすると、二回目からがより面倒になるので、移動日程など、すべてを伝えた。
『いやです! そんなにながいあいだおにいさまとはなれるなんて、さびしくてしんじゃいます!』
『どうしてもというなら、コーリーもいっしょにいきます!』
キイキイ響く金切り声に、頭痛がした。けれど怒鳴るわけにも無視するわけにもいかず、これはお父様の命令なのだと、ルソー伯爵も加わり、説得し続けた。
けれど。結局、納得はさせられず。結果、コーリーがまだ眠っている早朝に、屋敷を出ることになった。
「……帰りたくないなあ」
ぽつりと呟く。心なしか、楽に息ができる。それでもコーリーを脳裏に浮かべれば、気分は沈む。
手のひらに置いた、ハンカチを見る。自分で綺麗に手洗いし、アイロンをかけたものだ。
「……ミア嬢」
会いたい。そう願っているのは、自分だけだろうか。これが好意なのか、ただ、縋りたいだけなのか。今はまだ、わからないけど。
(きみに会いたいのは、本当だから)
馭者や護衛の男たちとの会話は、必要最低限。そんな移動ではあったが、エディの心は、終始、とても凪いでいた。
♢♢♢♢♢
「やあ、いらっしゃい。遠路はるばる、ようこそ。大変だったろう」
「あなたがエディね。まだ十歳なのに、護衛の人たちとだけでここまで来るなんて、すごいわ。しっかりしているのね」
ジェンキンス伯爵の屋敷に着くなり、当主家族自らが、出迎え、労いの言葉をかけてくれた。
心が、じんわりと温かくなる。
「いいえ、そんな。僕はただ、馬車に揺られているだけだったので」
あら。ジェンキンス伯爵夫人が上品に笑い、エディからミアに視線を移した。
「見目も良いのに、物腰もとても穏やかなのね。ミアが仲良くなれたのも、納得だわ」
頭を撫でられながら、少し緊張したようにミアが頬を赤く染める。父親だけでなく、母親にも、大事に、ちゃんと想われている。そのことはもう、妬ましくもなく。何故か安堵さえ覚えて。
(僕は存外、単純なのかもしれないな)
まだ、会ったばかり。過ごした時間は、一日にも満たない。
それでもエディにとって、ミアは、はじめて心の痛みに気付いてくれた人。そして、涙を拭ってくれた人だったから。
惹かれるきっかけとしては、充分だった。
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