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落ちた。雷が特別に怖いわけではないエディも、これには一瞬、息が止まった。ほっと息をついたあと、自分が知らずに、ミアを抱き寄せていたことに気付き、エディは焦った。
「す、すみません。つい……っ」
慌てて、ミアから離れようとする。ミアは、そんなエディの背中に腕をまわしてきた。ぎゅっと、力を入れて抱き締められる。力は弱いので、苦しくはない。ないが、ミアらしからぬ行動に、エディは困惑した。
「ミア嬢……?」
「やっとあえた、エディ。ずっと、こうしておはなし、したかったの」
口調が。雰囲気が。先ほどまでのミアとは、まるで違っていて。エディは助けを、答えを求めるように、ジェンキンス伯爵と、ジェンキンス伯爵夫人に、交互に視線を向けた。
「……あなた、ごめんなさい。わたし……」
ジェンキンス伯爵夫人は、口元を両手で覆い、震えていた。そんな妻の肩に、ジェンキンス伯爵は、そっと手を置いた。
「……いや。最近は、雷が原因でダリアが表に出てくることは減っていた。それに、エディに会いたがるミアを止めることなど、私にもできなかっただろうさ」
労るような口調で告げると、ジェンキンス伯爵は、一歩、前に出た。エディと視線を交差させる。
「驚かせてすまない。すべて、話すよ。その上で、今後のミアとの付き合いを、改めて考えてみてほしい」
「……付き合いを?」
呆然と、ただ繰り返すエディ。ジェンキンス伯爵は、もう一度、謝罪した。
「本当に、すまない。これは、まだ十のきみには、酷な話だ。きみさえよければ、これから王都に向かい、ルソー伯爵を交えて話を──」
ルソー伯爵。その名に、エディは正気に戻ったように、はっとした。
「い、いえ。僕なら平気です。どうか、話を聞かせてください」
「しかし……」
「お願いします。お願いします」
なにが起きたのかは、わからない。頭はまだ、パニック状態のまま。ただ、ルソー伯爵を交えることで、この出会いをなかったことにされる恐怖の方が、困惑を上回っていた。
「エディ」
舌っ足らずな声音に名を呼ばれ、エディは、引き寄せられるようにミアを見た。
「ダリア、わかるよ。ミアよりも」
「……ダリア?」
「そう。ダリアは、ダリアってなまえなの。ミアじゃないよ。だからミアってよばないでね」
「──駄目よ、ダリア」
気付けば、ジェンキンス伯爵夫人がダリアの背後に立っていて、そっとダリアの両肩に手を置いた。
「エディにちゃんと、ミアとダリアのことをお話して、わかってもらわないといけないの。おしゃべりは、それからよ。ね?」
「でも、ダリア。エディとおはなしするの、すごくたのしみにしていたの。たのしいことは、いつもミアばかりで、ずるい」
頭に疑問符を浮かべたまま、それでも二人の会話を、必死に理解しようとするエディ。けれど、すべてが耳をすり抜けていくように、なにも頭に入ってこない。
「……ディ。エディ」
ジェンキンス伯爵が、エディと目線を合わせるように、屈みながら、名を呼んでいた。気付いたエディが、うつむいていた顔を上げた。
「は、はい」
「立ち話もなんだから、応接室に行こう。数日の馬車移動で疲れているだろうから、少し休憩してからでも」
「! いえ。大丈夫です」
食い気味に声を出したエディに、ジェンキンス伯爵は、苦笑した。
「……そうだな。こんな状況で、ゆっくり休めるわけないよな」
行こう。
そう言って、ジェンキンス伯爵は、応接室に足を向けた。覚悟を決めるように、あとに続こうとしたエディの手を、ダリアが握ってきた。
「へへっ」
ダリアが、無邪気に、嬉しそうに笑う。
(……なんだろう)
似たようなことは、コーリーもしてくる。甘えるこの姿。コーリーと重なっても、おかしくはないのに。
不思議と、嫌悪感は湧いてこなかった。
「す、すみません。つい……っ」
慌てて、ミアから離れようとする。ミアは、そんなエディの背中に腕をまわしてきた。ぎゅっと、力を入れて抱き締められる。力は弱いので、苦しくはない。ないが、ミアらしからぬ行動に、エディは困惑した。
「ミア嬢……?」
「やっとあえた、エディ。ずっと、こうしておはなし、したかったの」
口調が。雰囲気が。先ほどまでのミアとは、まるで違っていて。エディは助けを、答えを求めるように、ジェンキンス伯爵と、ジェンキンス伯爵夫人に、交互に視線を向けた。
「……あなた、ごめんなさい。わたし……」
ジェンキンス伯爵夫人は、口元を両手で覆い、震えていた。そんな妻の肩に、ジェンキンス伯爵は、そっと手を置いた。
「……いや。最近は、雷が原因でダリアが表に出てくることは減っていた。それに、エディに会いたがるミアを止めることなど、私にもできなかっただろうさ」
労るような口調で告げると、ジェンキンス伯爵は、一歩、前に出た。エディと視線を交差させる。
「驚かせてすまない。すべて、話すよ。その上で、今後のミアとの付き合いを、改めて考えてみてほしい」
「……付き合いを?」
呆然と、ただ繰り返すエディ。ジェンキンス伯爵は、もう一度、謝罪した。
「本当に、すまない。これは、まだ十のきみには、酷な話だ。きみさえよければ、これから王都に向かい、ルソー伯爵を交えて話を──」
ルソー伯爵。その名に、エディは正気に戻ったように、はっとした。
「い、いえ。僕なら平気です。どうか、話を聞かせてください」
「しかし……」
「お願いします。お願いします」
なにが起きたのかは、わからない。頭はまだ、パニック状態のまま。ただ、ルソー伯爵を交えることで、この出会いをなかったことにされる恐怖の方が、困惑を上回っていた。
「エディ」
舌っ足らずな声音に名を呼ばれ、エディは、引き寄せられるようにミアを見た。
「ダリア、わかるよ。ミアよりも」
「……ダリア?」
「そう。ダリアは、ダリアってなまえなの。ミアじゃないよ。だからミアってよばないでね」
「──駄目よ、ダリア」
気付けば、ジェンキンス伯爵夫人がダリアの背後に立っていて、そっとダリアの両肩に手を置いた。
「エディにちゃんと、ミアとダリアのことをお話して、わかってもらわないといけないの。おしゃべりは、それからよ。ね?」
「でも、ダリア。エディとおはなしするの、すごくたのしみにしていたの。たのしいことは、いつもミアばかりで、ずるい」
頭に疑問符を浮かべたまま、それでも二人の会話を、必死に理解しようとするエディ。けれど、すべてが耳をすり抜けていくように、なにも頭に入ってこない。
「……ディ。エディ」
ジェンキンス伯爵が、エディと目線を合わせるように、屈みながら、名を呼んでいた。気付いたエディが、うつむいていた顔を上げた。
「は、はい」
「立ち話もなんだから、応接室に行こう。数日の馬車移動で疲れているだろうから、少し休憩してからでも」
「! いえ。大丈夫です」
食い気味に声を出したエディに、ジェンキンス伯爵は、苦笑した。
「……そうだな。こんな状況で、ゆっくり休めるわけないよな」
行こう。
そう言って、ジェンキンス伯爵は、応接室に足を向けた。覚悟を決めるように、あとに続こうとしたエディの手を、ダリアが握ってきた。
「へへっ」
ダリアが、無邪気に、嬉しそうに笑う。
(……なんだろう)
似たようなことは、コーリーもしてくる。甘えるこの姿。コーリーと重なっても、おかしくはないのに。
不思議と、嫌悪感は湧いてこなかった。
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