真実の愛は、誰のもの?

ふまさ

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 怒りのまま、ルソー伯爵はミアが住む屋敷を訪れた。予想していたであろうベンが、怒り狂うルソー伯爵とは対照的に、冷静に対応する。

「いらっしゃいませ、ルソー伯爵」

「あいさつは結構。ミア・ジェンキンスを出せ」

「申し訳ございません。ミアお嬢様は、お屋敷にはおられません。旦那様の元へ行かれました」

 ルソー伯爵が「なんだと?」と、不快に眉をひそめた。

「私の娘に暴行しておきながら、吞気に実家にでかけたのか。いや、逃げたんだな。卑怯な奴め」

 侮辱の言葉にはあえて反応せず、ベンはもう一度、申し訳ございません、と頭を下げた。

「エディは」

「ミアお嬢様と一緒でございます」

 ルソー伯爵は盛大に舌打ちしたあと「目に物見せてくれる……っ」と、くるりと踵を返した。

『ルソー伯爵が来たら、わたしたちはお父様の元へ向かったと伝えて。いい? あなたになにかあったら、わたしも、ダリアも、ミアも哀しむわ。覚えておいてね』

 ルシンダの気遣いが、脳裏で繰り返される。もし命じられていなければ、ミアの居場所をこうもあっさりと教えることなど、なかっただろう。きっと、知らぬ存ぜぬを通していた。

 なにもできずとも。少しでも、危険が及ぶ可能性があるのなら、せめて、時間稼ぎがしたかった。役に立ちたかったから。

「──ご武運を」

 ベンは祈るように、胸に右こぶしを軽くついた。



 屋敷に戻ったルソー伯爵は、使用人たちに叫び、命じた。

「ジェンキンス伯爵の屋敷に向かう。出立の準備をしろ!」

 何事かと、使用人たちがおろおろする。早くしろ。血走った目で一喝され、使用人たちが、それぞれの準備に散っていく。

「お父様……お兄様は?」

 目を赤くしたコーリーが二階の自室から出てきて、玄関ホールまで降りてきた。ルソー伯爵が、吊り上げた目を、少し和らげる。

「逃げた。ミアと一緒に、ジェンキンス伯爵の元へと向かったそうだ」

「……そんなっ」

 コーリーは両手で顔を覆い、再び泣きはじめた。可哀想に。辛いだろうに。ルソー伯爵が慰める。

「──あなた」

 コーリーから遅れてやってきたのは、ルソー伯爵夫人だった。なにか言いたげに、眉をひそめている。

「ジェンキンス伯爵の屋敷に行って、どうなさるおつもりですか」

「コーリーから聞いていないのか。ミアはコーリーを理不尽に暴行した。これは犯罪だ。ジェンキンス伯爵に謝罪と慰謝料を要求しにいく。むろん、ミアとの婚約は破棄する」

 歓喜するように反応したのは、コーリーだった。

「! お父様、ミアとの婚約は破棄というのは、本当ですか?!」

「当然ではないか。お前に暴力をふるうような女、私が認めるわけがないだろう」

「嬉しい! これであとは、お兄様を迎えに行くだけですね」

「お前が望むなら、仕方ない。だが、お前を守れなかった相応の罰は、あいつには受けてもらうつもりだ」

「お父様ったら。言ったでしょう? お兄様は、ミアに脅されて、仕方なくああいった態度をとったのです。罰なんて、ミアだけで充分です」

「……コーリー。お前は、本当に優しい子だね。私の自慢の娘だよ」

「やだわ、お父様」

 楽しげに会話する二人。それをルソー伯爵夫人は、冷ややかな双眸で、ただ見ていた。


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