わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。

ふまさ

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「きみと話をしていたのはぼくだ! ぼくを無視するな!」
 
 駄々をこねる子どもにしか見えなくて、この男のどこに惹かれていたのかもはや思い出せないほどに、ハワードを見るリネットの双眸は、侮蔑に満ちていた。

 ふと周りを見渡せば、同じような目を向けてくる使用人たち。理由がわからないハワードは、ただ不愉快で、苛ついた。
 
 ふと視界に入ったのは、乳母に抱かれたルシアン。あーあーと意味不明な言葉を出しながら、リネットに手を伸ばしている。

(……あいつが生まれてから、リネットは変わってしまった。あいつのせいだっ)

 憎い。憎い。

 目を血走らせ、ハワードは床を蹴った。

「……え?」

 自分に向かってくるハワードに気付いた乳母が、屈めていた腰を真っ直ぐに伸ばした。何ごとかとみなが注目する中、ハワードは乳母に抱かれるルシアンの頬をばちんと叩いた。

 ?!

 あまりにもな行動に、食堂が一瞬、水を打ったように静まり返った。遅れて泣き始めたルシアンの声に、はっと我に返ったリネットが、爪が食い込むほどに強くこぶしを握った。

「……よくもっ」

 声を震わせ、見たことない形相で睨み付けてくるリネットに、ハワードは恐怖しながらも、逆ギレした。

「き、きみが悪いんだ!」

 一歩。後退ったハワードの左頬を、リネットのこぶしが抉った。母は強しか。火事場の馬鹿力か。ハワード自身がひ弱だったこともあり、対して力のないはずのリネットが、ハワードを床に転がした。

 口の中が切れたようで、ハワードが、血が血が、痛い痛いとパニックになっている。

「……あなたみたいな気持ち悪い男を殴って、わたしも痛いわよ! でもね! 一番痛いのは、まだ小さな赤ちゃんのルシアンよ!!」

 悲痛な叫びが、食堂に響き渡った。


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