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「お父様から言付かっていたのを思い出したわ。今日のアリシアの夕食は、運ばなくていいって」
「ど、どういう」
「どういうもなにも、言葉の通りじゃない。アリシアの夕食は抜きってこと。可哀想だけど、お父様の命令じゃ仕方ないわよね」
「そ、そんな」
ベティは「──お父様の命令に逆らうの?」と、口調を強めた。カーリーの顔からさっと血の気が引いていく。
「そんなつもりは……」
「いいわね。ちゃんと伝えたわよ。他の者にもそう言っておいてね」
それきり口を閉ざしたベティの口元は、醜く歪んでいた。
──可哀想なアリシア。とうとう食事まで抜かれて。でも、私だけは見捨てたりしないからね。
夕食を終えたベティは、厨房へと顔を出した。料理人が「ベティ様」と困った顔を向けてきた。
「あの、本当にアリシア様の分の食事はよろしいのでしょうか」
「ええ。お父様がどうしてもと……あ、その余ったパンを貰ってもいいかしら」
「え?」
「なにもなしじゃ、アリシアがあまりにも可哀想だわ。私がこっそり、これだけ届けてくるわね」
料理人は「……ベティお嬢様がお優しくて、アリシアお嬢様はとても救われていることでしょう」と呟いた。ベティは心の中で、そうなの、と返した。
──ああ。私って、なんて優しいのかしら。
少しずつ、少しずつ痩せ細っていくアリシア。けれどアリシアを見ない父は気付かない。何だかつまらなくて、ベティはみずから父親の自室を訪れ、こう切り出してみた。
「最近のアリシアは、よく食事を残しているようです。みなが気付くほど、痩せ細っていっているようで」
父が「──なんだ、それは」と不機嫌にこぼす。
「お父様に対するあてつけなのではないですか? 少しでいいので、アリシアと向き合ってみてはいかがです?」
こう言ったところで、父がアリシアと会話することはない。そう理解したうえでの提案だった。
「余計なお世話だ。あいつが好きでしていることだろう。放っておけ」
──なんて酷い父親。やはりアリシアには、私しか頼れる人はいないのね。
ベティは満足し「わかりました。失礼します」と頭をさげた。
ばたん。
父の部屋を出て、扉を閉める。すぐ傍には、青い顔をして立ちすくむカーリーがいた。けれどベティは「あら、いたの」と、冷静だ。
「ベティお嬢様……いまの会話は……」
「カーリー。言うまでもないことだけど、ただの使用人のあなたが、私の不利になるようなことを口にすることなど決して許されないわ」
「し、しかし……これはあまりにもっっ」
ベティはカーリーに近付き「私ね。本当は、あなたに適当な罪を背負わせて、屋敷を追い出そうとしていたの。でも、私は優しいから」と囁いた。
カーリーが、ひっと息を呑む。
「ただの使用人のあなたと、可愛い娘の私。お父様はどちらを信じてくれるかしら。ね、カーリー。あなたも、本当の家族はさぞ大切でしょう? まあ、もうアリシアはあなたにとって他人だから、どうなってもいいのでしょうけれど」
カーリーは、ぞっとした。背中に冷たい汗が流れていく。脅しともとれる言葉を吐きながら、ベティがとても優しく微笑んでいたから。
──そうしてベティは、そうとは気付かず、どんどん、どんどん、歪んでいった。
その歪みを、綺麗に隠して。
「ど、どういう」
「どういうもなにも、言葉の通りじゃない。アリシアの夕食は抜きってこと。可哀想だけど、お父様の命令じゃ仕方ないわよね」
「そ、そんな」
ベティは「──お父様の命令に逆らうの?」と、口調を強めた。カーリーの顔からさっと血の気が引いていく。
「そんなつもりは……」
「いいわね。ちゃんと伝えたわよ。他の者にもそう言っておいてね」
それきり口を閉ざしたベティの口元は、醜く歪んでいた。
──可哀想なアリシア。とうとう食事まで抜かれて。でも、私だけは見捨てたりしないからね。
夕食を終えたベティは、厨房へと顔を出した。料理人が「ベティ様」と困った顔を向けてきた。
「あの、本当にアリシア様の分の食事はよろしいのでしょうか」
「ええ。お父様がどうしてもと……あ、その余ったパンを貰ってもいいかしら」
「え?」
「なにもなしじゃ、アリシアがあまりにも可哀想だわ。私がこっそり、これだけ届けてくるわね」
料理人は「……ベティお嬢様がお優しくて、アリシアお嬢様はとても救われていることでしょう」と呟いた。ベティは心の中で、そうなの、と返した。
──ああ。私って、なんて優しいのかしら。
少しずつ、少しずつ痩せ細っていくアリシア。けれどアリシアを見ない父は気付かない。何だかつまらなくて、ベティはみずから父親の自室を訪れ、こう切り出してみた。
「最近のアリシアは、よく食事を残しているようです。みなが気付くほど、痩せ細っていっているようで」
父が「──なんだ、それは」と不機嫌にこぼす。
「お父様に対するあてつけなのではないですか? 少しでいいので、アリシアと向き合ってみてはいかがです?」
こう言ったところで、父がアリシアと会話することはない。そう理解したうえでの提案だった。
「余計なお世話だ。あいつが好きでしていることだろう。放っておけ」
──なんて酷い父親。やはりアリシアには、私しか頼れる人はいないのね。
ベティは満足し「わかりました。失礼します」と頭をさげた。
ばたん。
父の部屋を出て、扉を閉める。すぐ傍には、青い顔をして立ちすくむカーリーがいた。けれどベティは「あら、いたの」と、冷静だ。
「ベティお嬢様……いまの会話は……」
「カーリー。言うまでもないことだけど、ただの使用人のあなたが、私の不利になるようなことを口にすることなど決して許されないわ」
「し、しかし……これはあまりにもっっ」
ベティはカーリーに近付き「私ね。本当は、あなたに適当な罪を背負わせて、屋敷を追い出そうとしていたの。でも、私は優しいから」と囁いた。
カーリーが、ひっと息を呑む。
「ただの使用人のあなたと、可愛い娘の私。お父様はどちらを信じてくれるかしら。ね、カーリー。あなたも、本当の家族はさぞ大切でしょう? まあ、もうアリシアはあなたにとって他人だから、どうなってもいいのでしょうけれど」
カーリーは、ぞっとした。背中に冷たい汗が流れていく。脅しともとれる言葉を吐きながら、ベティがとても優しく微笑んでいたから。
──そうしてベティは、そうとは気付かず、どんどん、どんどん、歪んでいった。
その歪みを、綺麗に隠して。
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