心から愛しているあなたから別れを告げられるのは悲しいですが、それどころではない事情がありまして。

ふまさ

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「ふざけるなよ、貴様!!」

 ──夕刻。

 帰宅してきたエノーラの父親と母親は、応接室にいるミッチェルの姿に驚きつつ、ミッチェルの神妙な面持ちに気付き、何かあったのかと心配してくれた。ミッチェルは心苦しくはあったが、エノーラに語った内容そのままに、二人に伝えた。隣に座るエノーラの表情は、あえて見ないようにして。

 エノーラの様子がおかしいことも、この二人なら何か知っているかもしれない。そう僅かに期待していたが──結果は、この屋敷を訪れる前に予想していた通りのものになった。

 応接室中に響くブラート伯爵の怒号。覚悟はしていたものの、思っていた以上の剣幕に肩がびくっと揺れたが、ミッチェルはどこか安堵していた。

(……そうだ。これが当然の反応なんだ)

 憤慨したブラート伯爵が叫ぶ。続けて、ブラート伯爵夫人も声を荒げた。

「別の女を好きになったから、エノーラと別れたいだと?! 貴族同士の婚約をなめるな!!」

「あなたを心から愛するエノーラに何てこと……っ。勝手にもほどがあります!!」

 はい。その通りです。
 前に座る二人に向かって、ミッチェルが深く深く、頭を下げる。ミッチェルはひたすら、謝罪するしかないと思っていた。

 ──なのに。

「よいのです、よいのです、お父様。お母様」

 焦ったように間に入ってきたのは、エノーラだった。ミッチェルはむろん、ブラート伯爵とブラート伯爵夫人も、驚愕に目を見開いていた。

「……何がよいと言うの、エノーラ。まさかあなた、こんな勝手な男を許すつもりですか?」

 ブラート伯爵夫人が席を立ち、エノーラにゆっくり近付く。エノーラは、はい、と頷いた。

「はいって……だってあなた、ミッチェルのこと、大好きだったじゃないですか……なのにどうして、そんなに冷静なの?」

 ──ああ、やはり。親から見ても、エノーラはどこかおかしいのだ。

 ミッチェルはエノーラが心配になり、たまらず口を開いた。

「……エノーラ。ぼくが勝手なのはわかっている。きみを裏切った、ひどい男だ。お願いだから、ぼくを責めてくれ。どれだけ罵られようと構わないから……っ」

 これに顔を真っ赤にして怒ったのは、ブラート伯爵とブラート伯爵夫人だった。

「か、勝手なことばかりぬかしおってっっ」

「こんな身勝手な男だったなんて……っ」

 二人のこぶしがわなわなと震える。だがそんな二人の怒りをしずめるように口を開いたのは、またもやエノーラだった。
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