魔法の剣とエド

アズ

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第一章 魔法の剣

04

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 サムと別れて一時間が経過していた。勾配が厳しく息も荒くなっていく。
 だが、サムから買った薬のおかげで寒さには多少よくなっていた。体内から熱いものを感じ服の中で暖まるような感じだった。
 山の川がたまに横沿いに現れたりもすれば、森も山を登るにつれ木々は数を減らしていき、より青空の見える景色へと変わっていった。
 多分、だいぶ歩いただろうと思われる。
 エドはサムから買った霧吹きを自分自身にかけていた。これで、自分に獣は近づいてはこない筈だ。
 これなら案外行けるかもしれないと思いだした頃、また人を見つけた。
 その人はエドに対し背を向けていたので、エドはその人に声をかけてみた。
 だが、反応がなく、それどころか奇妙に感じた。
 何故ならその人物はそこからピクリとも動かないからだ。
 と、そこへ二人に向かって横から強風が襲った。
 これまで森にいたが、山の頂上へ向かうあたりから強風を今度は相手にしなければならない。
 強風が少し止むと、エドは歩き始めた。
 エドは動かない背中姿しか見せない人物にようやく追いつくと、真正面へ回った。
 そこでようやく気づく。
 その人物は男で、顔はすっかり蒼白く目は動向が開いていた。唇はピンク色をしてないところまで見れば、もうだいたい察しがついた。
 立ったまま死んでいたのだ。
「何故こうなるんだ」
 エドは少し悩んでからその男性に指先だけ触れて見た。手袋をしている為、触れた時の感触は分からないが、まるで石像のような感じに見えた。
 立ったまま凍っているのか考えもしたが、やはり原因は分からない。
 不思議そうに見てから、エドは男の目線の先がふと気になり、その目線の先へと振り向いた。すると、その先にもまた一人、同じように立ち尽くしてピクリと動かない旅人がいた。
 まさかと思い、更に先へ急ぐとその先もまた一人、また一人と同じような死体を発見した。
 ここまで来てようやくその原因の正体に気づいた。
 イエティだ。
 イエティは魂を凍らせ、人間を永遠の眠りにつかせてしまうと父の情報を集めた資料にはあった。
 これがそれなんだ。
 つまり、この人達はイエティに襲われた人達なんだ。
 まてよ、イエティに襲われたのがこの場所なら…… 。
 エドは周囲を見渡した。もうすっかり森を出ている。
 あとは頂上まで雪と岩と強風の大自然だ。
 まずい!
 こんなに見渡しがいい場所でイエティに遭遇したらほぼ間違いなく見つかってしまう。
 いや、それかサムから買った獣避けの霧吹きがイエティにも効くのでは?
 いやいや、効くかどうかは分からない。そんな根拠のないもので安心なんか出来ない。
 エドは急ぎ足で山を登り始めた。
 既に標高2500メートルは越えてきてる筈だ。あとは体力と気力の問題だ。いや、あとイエティに遭遇しない強運もだ。
 ピッケルも使いながら急ぐが、だが、焦り過ぎても禁物だった。万が一でも転がり落ちれば、それだけでも命にかかわるからだ。
 まだ会ったことがないイエティの恐怖と、焦ってはいけないけど急ぎたい気持ちと、そこにいちいち冷たい風が邪魔をしたりと、まるで頭の中も精神的にも地獄になっていた。
 すると、エドの周囲をぴょんぴょんと跳ねるガラスのような体をした兎がエドの横を一緒に走っていた。
 見たことがない生物でどうなっているのか気になるし、とても面白そうで綺麗な体をしているが、構ってはられなかった。
 特に危害を加える様子もなさそうなので、今はほっておいたが、兎の方はというと、まるで此方をからかうように必死そうなエドをずっと追いかけてきた。
 すると、今度は空から鳥の鳴き声が聞こえてきた。見上げるとそこには、首の長い鳥が数羽飛んでいるではないか。
 なんだよここ…… 。
 日光と雪が反射し、またに宝石のようにギラギラと光り、風は人にとっては厳しいものなのに、ここにいる生物にとってはそれは生活の一場面に過ぎないかのように、なんとも思わない顔をしている。
 ああ、いつから人間は自然から離れてしまっていたのだろうか。
 ふと、エドは不思議にそう思わされた。
 それからはこの土地の魔法にでもかかったかのように、少し急ぐのをやめ、今度はこの大自然を歩いてみることにした。
 イエティは怖い。だが、こんな大自然を目の辺りにして、ただ過ぎ去るのも馬鹿らしくなった。
 エドはまだイエティが実在することを未だ半信半疑でいた。噂に惑わされるより、今目に見えているものを見よう。そう思ったのだった。
 エドはどこか、イエティが実在することを半信半疑故に存在を否定してもいた。
 とにかく、恐れても仕方がない。あの死体の数を見て焦らない方がおかしいが、あれがこの土地の魔法が見せる罠のようにも思えた。あれで人を焦らせ、その足で滑らせ転倒し命を奪おうとする悪魔のような罠ではないのか。
 どちらにせよ、こんな場所で遭遇すれば死ぬだけだ。
 それよりかは、確実に山を越えることだけに今は集中しよう。そうでなければ、むしろ死んでいたところだ。
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