9 / 67
午前中のお洗濯
しおりを挟むレイシールド様を送り出した私は、いそいそとお着替えなどなどの乗ったカートを回収するためと、お部屋を整えるために、寝室に向かった。
大きなベッドのシーツを剥ぎ取って、新しいものにとりかえる。
高級なベッドはふかふかで、一瞬寝そべってみたいとうずうずしたけれど、我慢した。
誰にも見られていないからといって、そんなことはしてはいけない。
レイシールド様の朝のお支度が無事に終わったけれど、お仕事が終わったわけじゃない。
カートの上の物品を洗ったり片付けたりしたあとに、お洗濯をするために黎明宮の裏庭に向かう。
裏庭には、洗濯用の水場がある。
街の水源は井戸が主流だけれど、お城の水は呪符師の方々が管理している水魔方陣から湧き出ている。
ガルディアス王国には、法力と言われる不思議な力を持っている方々がいらっしゃる。
呪符師とはそういった法力を呪符に込めて生活に役立てている方々のことだ。
呪符師の方々がつくりあげた水呪符を地面に置くと、水魔方陣が現れる。
水魔方陣からはいつでも清廉な水が湧き出ている。飲み水にも使用できるし、お料理にも使うことができる。
といっても、呪符師の方々の呪符は庶民ではとても手がでないほどに高級である。
街の人々の暮らしにはほぼ普及していない。
貴族ともなるとお抱えの呪符師を家に置いていたりするのだけれど、我が家には当然そんな方がいるわけもなく。
井戸から水をくみ上げるのも毎日の日課だった。
それなのに、黎明宮では井戸から水くみをしなくていいのだ。
「なんて楽なのかしら……!」
私はお洗濯の大きな洗い桶に、噴水のようになっている水魔方陣の水汲み場からお水を汲んでくると、洗い桶に入れて、レイシールド様のお召し物と洗濯粉を入れた。
水魔方陣の水汲み場からは水が溢れ続けているので、溢れた水は川となって内廷の広大な敷地を流れている。
川にはお魚がいる。
見たところ、オナガキンギョと、黄金ナマズ、フリル鯉。残念だけれど、観賞用だ。食べるには観賞用魚として高級すぎる。
食べられるお魚をつい探してしまう。癖である。
「ふふ……お洗濯、楽しい」
一人になると、朝からの緊張が体から抜けていった。
レイシールド様は思ったよりも優しい方だったけれど、慣れない環境や初めて会う方々に、どうしても緊張してしまう。
高級なお洋服を傷つけないように丁寧に洗いながら、私はほっとして口元に笑みを浮かべる。
石鹸の香りは好きだ。
泡立ったシャボンがふわりとシャボン玉になって浮かんで、ぱちんと弾けるのも好き。
なによりも一人きりで仕事ができるのが、いい。
レイシールド様とお話しする時は緊張したけれど、それ以外はこの広い黎明宮に一人きり。
お洗濯やお掃除など、必要なお仕事をして、お昼は少し休憩をして、シーツを取り替えるなどのお仕事をして、レイシールド様のお休みまでのお世話をしたら、一日が終わる。
洗い終えたお洋服をぎゅっと絞って、服の皺を伸ばしながら、裏庭にはりめぐらせている洗濯用の紐へとかけていく。ぱんぱんと皺を伸ばす。
レイシールド様は大きいので、お洋服も大きい。
今日は天気が良い。
お日様がきらきら輝いていて、風もある。お洋服は綺麗に乾いてくれそうだ。
寝衣は毎日洗う。シャツも洗う。下着も洗う。上着は余程のことがなければ洗わない。
シーツは毎日洗う。テーブルクロスも毎日洗う。
洗い物について頭の中で反芻しながらシーツを広げて干している私の耳に、明るい声が響いた。
「ティディス! 大丈夫だった!? ひどいことをされたりしなかったかしら!?」
声の大きい女性が、私に向かって駆けよってくる。
そのままその女性は私の目の前で転んで、思い切り私に覆い被さるようにして倒れた。
「わぷ……っ」
「きゃあああごめんなさい! ティディス、大丈夫!? 勢い余って転んでしまったわ!」
「大丈夫です……」
草むらに尻餅をついた私の上で、悲鳴を上げる女性は、マリエルさん。
私と同じ侍女で、レイシールド様の弟君であるシュミット第二王子殿下の住まう白夜宮で働いている方だ。
181
あなたにおすすめの小説
【完結】タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する
雨香
恋愛
【完結済】美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。
ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。
「シェイド様、大好き!!」
「〜〜〜〜っっっ!!???」
逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
婚約破棄されましたが、辺境で最強の旦那様に溺愛されています
鷹 綾
恋愛
婚約者である王太子ユリウスに、
「完璧すぎて可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄を告げられた
公爵令嬢アイシス・フローレス。
――しかし本人は、内心大喜びしていた。
「これで、自由な生活ができますわ!」
ところが王都を離れた彼女を待っていたのは、
“冷酷”と噂される辺境伯ライナルトとの 契約結婚 だった。
ところがこの旦那様、噂とは真逆で——
誰より不器用で、誰よりまっすぐ、そして圧倒的に強い男で……?
静かな辺境で始まったふたりの共同生活は、
やがて互いの心を少しずつ近づけていく。
そんな中、王太子が突然辺境へ乱入。
「君こそ私の真実の愛だ!」と勝手な宣言をし、
平民少女エミーラまで巻き込み、事態は大混乱に。
しかしアイシスは毅然と言い放つ。
「殿下、わたくしはもう“あなたの舞台装置”ではございません」
――婚約破棄のざまぁはここからが本番。
王都から逃げる王太子、
彼を裁く新王、
そして辺境で絆を深めるアイシスとライナルト。
契約から始まった関係は、
やがて“本物の夫婦”へと変わっていく――。
婚約破棄から始まる、
辺境スローライフ×最強旦那様の溺愛ラブストーリー!
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる