崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜

束原ミヤコ

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クラウヴィオ・オニキス騎士団長

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 ティディちゃんと私を呼んだ男性は、ものすごく至近距離で口を開いた。

「俺は、クラウヴィオ・オニキス。騎士だよ」

「騎士様」

「うん。ガルディアス騎士団の団長をしていてね」

「騎士団長様……!」

 自慢じゃないけれど、貴族の社交界になんて出たことがないし、私は俗世に疎い。
 ガルディアス騎士団の騎士団長様ならきっと有名人だろう。
 騎士団長といえば、筋骨隆々で熊のような方で、虎のような髭がはえているおじさま──というようなイメージを勝手にしていた。
 けれどクラウヴィオ様は、若くて細身だ。とても凛々しい容姿をしている。

「皆の健やかな暮らしを守るのが騎士団長の仕事だからね、目の前で死ぬとか言われたら放っておけないよ。死にたくなるほどに、レイシールド様が怖かった?」

「い、いえ、そういうわけでは……」

「とりあえず、心が落ち着くように少し座って話そうか。そうだ、お茶を飲もう。俺が淹れてあげるよ」

「あ、あの、私、お仕事がまだ、終わっていなくて……」

「大丈夫だよ。黎明宮にはレイシールド様が一人しかいないのだよね。それに、侍女は君一人。レイシールド様は政務中で、夕方までは黎明宮に帰らない。細かいことを気にする方じゃないから、少しお茶を飲むぐらい大丈夫だよ」

「で、でも」

「このまま君を仕事に帰して、思い詰めて死んでしまったら、俺は一生後悔する。だから、こちらにおいで」

 私の声が聞こえやすいように、クラウヴィオ様はすごく至近距離で話をしてくれる。
 優しげな雰囲気の美形だ。レイシールド様もシリウス様もそうだけれど、お城にいる男性たちは顔立ちが整っているわね。感心してしまう。

「ティディちゃん、こっちだよ」

「あ、は、はい……」

 クラウヴィオ様が私の手を取ってどこかに案内してくれるので、私はそれに従った。
 ここで手を振り払うのも失礼だろうし、優しさから私を心配してくれているのに、とてもそんなことはできそうにない。

「ここは、中天宮の休憩室。中天宮に入ることができるのは、許可された商人や、ガルディアス騎士団でも赤腕章以上の立場のある者、それからシリウスの部下の文官たちと、君たち内廷の侍女たち」

 私はクラウヴィオ様によって、いくつかの長椅子とテーブルが並んでいる部屋に案内された。
 部屋の奥には、小さめの調理場がある。
 クラウヴィオ様は私を長椅子に座らせると、水魔法陣から湧き出る水を管を通して引き込んである水道から水を出して、ポットに注いだ。
 それから炎魔法陣が組み込まれているコンロに火をつけて、お湯を沸かしてくれる。
 私は落ち着かない気持ちで、クラウヴィオ様が紅茶を淹れてくれるのを待った。

「城で働く者たちの中でも中天宮に入ることができるの者は特別だからね。中天宮に設けられているこういった休憩所は好きに使用していいことになっている。覚えておくといいよ」

「休憩時間は、お昼だけです……」

「そんなに一生懸命働く必要はないんだよ? 他の侍女たちも、特に用事があるわけでもないけれど、息抜きのために中天宮に来て少し休憩をしていくことがよくあるのだし。それを皇族の方々も許しているよ。あくまで内廷は生活の場所だからね。そう堅苦しくては、みんな疲れ果ててしまう」

「そういうものでしょうか」

 クラウヴィオ様が淹れてくれた紅茶は、とても芳しい香りがする。
 侍女は食事を日の出寮でとることができる。私たち侍女のために提供される豪華で美味しい食事にも驚いたものだけれど、好きに使っていいと言われている休憩所に用意してある紅茶でさえ、とても高級な予感がして、渡されたカップを持つ手が震えた。    


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