崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜

束原ミヤコ

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余計な物がない暮らしは掃除が楽 1

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 中天宮から黎明宮に戻った私は、広い広い黎明宮のお掃除をすませることにした。
 まずは入り口までの長い長い石畳のアプローチを箒ではいて、落ち葉やらいつの間にか入り込んできている砂粒やらを綺麗にしていく。

 広大なお庭の手入れはしなくていいと言われている。
 手入れされたお庭も綺麗だと思うけれど、植えた草木や花が自由にのびのびしているお庭も元気があっていいとは思う。
 けれど、あまりにもごちゃっとしているので、少し手を入れてあげたいような気もしている。
 
 レイシールド様はあまりそのあたり、神経質ではないのかもしれないわね。
 質素だし、侍女は一人だけ。
 皇帝陛下というのはもっと優美で豪華絢爛な暮らしを送っているイメージがあったけれど、そうでもなさそう。

 レイシールド様がどんな方なのかまだよく分からないけれど、噂のような恐ろしい方ではなさそう。
 少し安心したからだろうか、クリスティス伯爵家に残してきた妹たちが心配になってくる。
 今まで、離れたことなんて一度もなかったのだもの。

 身の安全は――ティグルちゃんに任せてきたから、大丈夫だと思うけれど。

「ティグルちゃん、もし借金取りの方々が来て、ローズマリーちゃんとオリーブちゃんに悪いことをしようとしたら、食べてもいいわ。いえ、実際に食べたら大変なことになるから、食べるぞ! みたいなふりをしてね」

「がう」

 水色の獣毛が美しい、私よりも二回りぐらい大きな体をしているティグルちゃんは、オリーブとローズマリーは俺が守る! みたいな雰囲気を出しながら、返事をしてくれた。
 昔はよく私をじいいいっと見て「食べたい」みたいな雰囲気を醸し出したり、実際食べようとして追い回したりしたものだけれど、今ではよく懐いてくれていい子だ。
 魔生物は人間と同じぐらいに賢いと言われている。私たちの言葉も理解してくれているみたいだ。

 ティグルちゃんは私を追い回したりはしたものの、小さなオリーブちゃんやローズマリーちゃんには手出ししようとしなかった。
 我が家に来た頃のティグルちゃんは、多分――だけれど。
 お父様が闇オークションで高値で買ってきたばかりだったから、人間に酷いことをされて人間不信だったのだと思う。
 立派な首には首輪が繋がれていたし、人に危害を加えないようにだろう、爪は抜かれていて、口輪もされていたようだし。それは人間が嫌いになるはずよね。

 入り口までのアプローチの掃除を終えた私は、落ち葉や砂が溜まったちりとりと箒を持って裏庭に向かった。
 裏庭には落ち葉を捨てる場所がある。煉瓦で作られた大きめのスペースで、落ち葉や砂や手入れのために切った草花や雑草なんかを入れておくことができる。
 これは新しい土を作るための場所である。クリスティス伯爵家でも、お料理に使わなかった野菜の皮とか(といっても基本的にはギリギリのラインまで食べるけれど)果物の皮なんかを捨てていた。
 ある程度時間が経つと、そういったものが土の中にいる微生物や虫さんなどによって分解されて、畑の肥料になるのである。

「……お庭、広いから、すごく野菜を作れそうだわ」

 黎明宮のお庭で芋を育てたら多分怒られるだろうから、しないけれど。
 芋はいい。大体育ってくれる。
 私は箒とちりとりを片づけると、館の中へと向かった。
 黎明宮はそれはそれはとても広いけれど、レイシールド様がご使用になるお部屋は限られている。
 使用されない部屋の扉には鍵がかけられていて、中に入ることができない。
 だから私が掃除をするのは、エントランスと大階段、水回りとお風呂、レイシールド様のお部屋とダイニングとリビングルーム。それぐらいだ。

 モップと水を汲んだバケツを持ってきてせっせと床を磨きながら、私は――このお仕事は結構楽なのかもしれないと、考えていた。

「……鍵がかかっているお部屋には入れないし、そう思うと部屋数はすごく、少ないもの。鍵のかかった部屋がたくさんあって怖いって、皆は言っていたけれど……もしかしたら仕事を減らそうとしてくれているのかもしれないわね、レイシールド様」

 ぶつぶつ言いながら、私は一階の床を全て磨き終えた。
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