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ペロネちゃんとリュコスちゃん 1
しおりを挟む私はペロネちゃんを抱き上げて、その小さな顔を覗き込んだ。
氷柱ハリネズミのペロネちゃんは、いつもひんやりしている。このひんやりした体をだきしめると、夏の暑さが凌げてとてもいい。
「ペロネちゃん、お部屋にいたはずなのに、どうやって抜け出してきたのかしら」
「きゅぷ!」
「鍵を自分であけたの? 駄目じゃない、ペロネちゃん。魔法の力を使ったら、魔生物だと知られてしまうもの」
私は「め!」と、ペロネちゃんを叱った。
ペロネちゃんは特に悪びれもせずに、「ぷぷ」と、鳴いた。
何を隠そう私は、クリスティス家からうちの子たちを数匹持ってきている。
全員置いてきたら、オリーブちゃんとローズマリーちゃんだけではお世話が大変だろうと思ったからだ。
ただでさえ私がいなくなって家事が増えるのに、魔生物たちのお世話までは手が回らないだろう。
水色大虎のティグルちゃんや、天馬のシスちゃんは頭がよくて手がかからないので置いてきたけれど、他の子たちは甘えん坊だし、私がいないということを聞かなくなってしまう。
そんなわけで日の出寮の私の部屋にこっそり連れてきて、私が帰るまでお部屋から出てはいけないと言いつけてきた。
動物を飼ってはいけないとは言われていないもの。
ただ、怒られるかもしれないとか、取り上げられるかもしれないと思ったら少し心配で、誰にも言ってはいないけれど。
午前中のお勤めをつつがなく終わらせたら、日の出寮に戻って皆にご飯をあげるつもりだった。
でも、ペロネちゃんがここにいるということは──。
「リュコスちゃん!」
誰もいないと思っていた場所に、唐突に景色が歪むようにして白狼のリュコスちゃんが現れた。
白い艶かな毛並みの金の瞳の狼である。普通の狼よりは二回りぐらい大きい。背中に乗れるぐらいには大きい。
白狼のリュコスちゃんは、透明になることができる。透明になることもできるし、壁をすり抜けることもできる。
これはリュコスちゃんが力を施したものにも同様の効果があって、ペロネちゃんはリュコスちゃんと一緒に壁をすり抜けて私の元まで来たのだろう。
てっきりペロネちゃんが鍵をカチカチに凍らせて破壊してきたのかと思ったけれど、リュコスちゃんが一緒ならお部屋は無事みたいだ。
損害賠償責任が発生する事案かと思ってしまった。お給料天引きで。
よかった。お部屋が無事でよかった。
『おい、ティディス』
リュコスちゃんの声が頭に響く。
そう、リュコスちゃんは喋ることができるのである。とても頭がいいのだ。
ティグルちゃんも賢いけれど、ティグルちゃんは「がう」とか「がうがう」とかしか言えない。
といっても、リュコスちゃんもティグルちゃんと同じで、我が家に来た頃は私の命を狙っていた。
お話をできることを隠していたし、ご飯をあげる私の手をぱっくりいこうとしていたし、透明化の力で檻から抜け出して、不意に私の前に現れて私を追いかけたりもした。
でも賢いから、オリーブちゃんとローズマリーちゃんには手出ししなかったわね。
その点いいこだ。
「リュコスちゃん、お部屋に居なくては駄目じゃない。私がリュコスちゃんを連れ込んでいることが知られてしまったら、大問題になってしまうかもしれないのよ……?」
『我を間男のように言うな』
「間狼」
リュコスちゃんは間男ではなく間狼だ。
といっても、私に夫はいないので、間には入っていない。リュコスちゃんは狼なので私の恋愛対象でもない。
「きゅぷぷ」
リュコスちゃんが、ペロネちゃんを抱いた私に近づいてくる。
ペロネちゃんは短い手足をじたばたさせた。
『ここがお主の自由を奪っている王宮とやらか』
「リュコスちゃん、何度も説明したじゃないですか。自由を奪われたわけではなくてですね、私はお仕事に来ているのです。お金を貰うために」
『お主は、ここに閉じ込められているのであろう、ティディス』
「違います。お金を貰いに来たのです。リュコスちゃんはそういって言うことをきかないから、仕方なく連れてきてあげたんですよ。大人しくお部屋にいてください」
『我がいつでもお主を食い殺せることを、ゆめゆめ忘れるでない』
「物騒……」
リュコスちゃんは賢過ぎて性格に難がある。
ティグルちゃんはもっと素直だ。大きくて力持ちで強いけれど、もっと素直。
リュコスちゃんもティグルちゃんを見習って「うおん」「わおん」とかしか言わなくなればいいと思う。
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