崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜

束原ミヤコ

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震える私と無口な陛下

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 レイシールド様が、かつんかつんと靴音を響かせながら、私に近づいてくる。
 時々クリスティス伯爵家に乗り込んできては、お父様が稼いだり、私が内職で稼いだりしたなけなしのお金を根こそぎ持っていってしまう借金取りの方々と同じくらい怖い。

 私はペロネちゃんと刃向かっていこうとするリュコスちゃんを抱きしめながらぶるぶる震えた。

(どうしよう、このままではレイシールド様のお側にいられなくなってしまう……私、レイシールド様のお世話を未来永劫ずっと続けたいのに……!)

 黎明宮のエントランスホールを魔生物を持ち込んで氷漬けにする女など、追い出されて当然だ。
 それどころか、反逆者だと思われるかもしれない。
 朝には剣を突きつけられて、昼には実際に剣で切られる私。

「オリーブちゃん、ローズマリーちゃん、先立つ不幸を許して……お姉ちゃんがいなくても、頑張って生きるのよ……」

 あぁ、もう駄目だ。
 せめてペロネちゃんとリュコスちゃんは逃がしてくれないかしら。
 二人ともいい子だもの……!

「剣を向けたのは、悪かったと思っている」

 レイシールド様は私のすぐ近くに、片膝をついた。
 視線が合わさる。やっぱりレイシールド様はどことなくペロネちゃんに似ているわね。色合いが。

「ど(どうして私の心の声が!?)……あ(あぁ、申し訳ありません、不敬な質問をしてしまいました……!)」

 言葉が出てこなさすぎて、レイシールド様に向かって「どあ」って言ってしまった。
 ドア。
 今、ドアの話はしていない。

「ティディス」

「は、はい……」

「…………それは、魔生物だな」

 レイシールド様は何かを考えるような長い沈黙のあと、リュコスちゃんとペロネちゃんを指差して言った。

「はい、あの、はい……っ、ペロネちゃんの力で、黎明宮を氷漬けにしてしまい、申し訳ありません……悪気は、なくて、どうかペロネちゃんのことは許してあげてください……」

 私が涙目で許しを乞うと、レイシールド様は軽く眉間に皺を寄せた。

「いや」

 だから、いや、というのはどちらの意味なの!?
 嫌、なのかしら。
 許さん! という意味なのかしら。
 それはそうよね、初日からお給金の前払いで浮かれていたのに、失態どころか大失態だもの。
 許されないわよね……。

『ティディス、この男、強いぞ。しかし我も負けん。噛み殺してくれようぞ!』

「リュコスちゃん、落ち着いて……駄目よ、穏便に……!」

「ティディス」

「は、はい!」

 好戦的なリュコスちゃんをぎゅうぎゅうしていると、再びレイシールド様に名前を呼ばれた。

「白狼の言葉がわかるのか」

「えっ、あ、はい……」

 私が今、リュコスちゃんと話していたことが、レイシールド様に伝わったらしい。
 リュコスちゃんはお話ができる。
 けれどそれはどうやら私とだけで、オリーブちゃんやローズマリーちゃんにはリュコスちゃんの声は聞こえないようだ。
 それなので、リュコスちゃんとお話していると、私はずっとぶつぶつ一人で話しているように見えるみたいだ。
 けれど、レイシールド様はリュコスちゃんが話せることを理解している。
 それはつまり。

「レイシールド様にも、リュコスちゃんの言葉がわかるのですか?」

「いや」

 私にはレイシールド様の言葉がまだ理解できないみたいだ。
 否定のいやなのか、肯定のいやなのか。
 どちらなのかしら……。
 ただレイシールド様は怒ってはいないみたいだった。
 もしかしたらすごく、いい人なのかもしれない。


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