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高級ソファと旦那様
しおりを挟むレイシールド様は何かを確かめるように私の体を引き寄せると、それからぱっと手放した。
今のは一体――なんだったのかしら。
親熊が子熊を抱きしめているような感じだったわね。レイシールド様は熊じゃないけど。
それから私の体を丁寧にご自分の上からどけて立ち上がると、徐に私を抱き上げた。
「お(お姫様抱っこ……!)、あ(あああありがとうございます……!)」
おあ。
おあって何なの、私。お礼の一つもちゃんと言えないなんて、駄目過ぎる。
だって突然抱き上げられたのだもの、男性に抱き上げられるなんてはじめてなんだもの……!
それもただの男性じゃなくて、皇帝陛下なのよ。
レイシールド様がとてもとてもいい人ということは理解できたけれど、お姫様抱っこまでしていただくなんて……いえ、どうして、っていう感じではあるのだけれど。
『おい、男! 我らのティディスをどうするつもりだ!』
「悪いようにはしない、落ち着け、白狼」
『我はリュコスじゃ。覚えておけ、男。……お主、なにやら懐かしい匂いがするな』
「そうか」
リュコスちゃんが、レイシールド様の周りを警戒するようにぐるぐる回っている。
「ぷぷ」
ペロネちゃんが私の腕の中に飛び乗ってきた。
両手におさまったペロネちゃんが安心したように私にとげとげのある体を擦り付けてくる。冷たくて少しちくちくした。
レイシールド様は私を抱き上げてエントランスから二階にあがる。
二階のお部屋で鍵が開いているのは、寝室と執務室、リビングルーム、浴室ぐらいだ。
一体どこに行くのかと思っていると、レイシールド様は私を広い広いリビングルームの、この世の中にこんなふかふかなものがあるのかしらというぐらいにふかふかな、手が触れるだけで震えがはしってしまうぐらいに高級そうなソファに座らせてくれた。
最高級のソファ……!
という感じだ。
今日はとてもとても高級な紅茶をクラウヴィオ様に飲ませていただき、レイシールド様の私邸のソファに座らせていただいてしまった。
有り余るほどの高級を全身に浴びて、私はもう限界だ。
高級すぎて死んでしまうかもしれない。召される。ふかふかだわ……一生ここで眠れる。
「少し待っていろ」
レイシールド様は短く言うと、お部屋を出て行った。
何が何やら分からない私は高級ソファの上で身を固くしていた。
『おい、ティディス。なんだあの偉そうな男は』
「偉そうという意味では、リュコスちゃんのほうが偉そうです」
『お前は気が弱いのか強いのかわからんな。案外気が強いのではないか。声が小さいのはただ丹田に力が入っていないだけでは』
「たんでん?」
『腹の下のことだ。もっと気合を入れて発声せんか』
「これでも、頑張っているのですよ……!」
『気合が足りん』
これでも必死なのだけれど。
「できるだけ気合を入れて頑張ります。ところでリュコスちゃん。お行儀をよくしてください。相手は皇帝陛下です。私にお給金をくださるいいひとです。お金をいっぱいくれて、その上優しくていい人だなんて、理想の旦那様です」
『旦那様とはなんだ』
「主のことです。私が、お世話係として仕えるべき相手です」
『世話係。お主は我の世話係だろう。我や、小さきものたちや、ペロネの世話係だ』
「そのお世話に、レイシールド様も加わったのですよ。レイシールド様はリュコスちゃんたちと違って、お給金をくださいますから、本当の主といえますね」
『お主は我の配下だろうが、ティディス』
「リュコスちゃんは無一文じゃないですか」
ソファに座ってペロネちゃんを膝に乗っけながら、私はリュコスちゃんに『旦那様』の意味について説明した。
それはお給金をくださる主のことだ。
レイシールド様は私の理想の旦那様。だから、リュコスちゃんにもペロネちゃんにもいい子にしてもらって、末永く黎明宮に置いて貰わなくては。
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