崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜

束原ミヤコ

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嫁未遂宣言

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 嫁、お嫁さん、奥様、つまり皇帝妃。
 今まで一日でお世話係をやめていった女性の方々は全て――レイシールド様の嫁候補。
 つまり、レイシールド様は数々の嫁候補に逃げられた男ということになるのよね。
 一目会っただけで、怖いと言われて逃げられたレイシールド様、可哀想。

「……ティディス」

「は……はい、あの、か、かわいそうとか思ってごめんなさい……その、レイシールド様はいい人なのに、どうしてだろうって思いまして」

 レイシールド様は頭の中で考えていることがわかるのよね。
 つまり私が、レイシールド様が可哀想って思ったことも。失礼なことを考えないように気を付けなければいけないわね。

「お前は、そのままでいい」

「わ、私でも、……もしかしたら、その、すごくくだらないことを考えてしまうかもしれませんし、すごく恥ずかしいことを考えていることもあるかもしれません……」

 私は両手を頬にあてて、盛大に照れた。
 私だって十八の淑女。ちょっとした妄想とか、しているときだってあるもの。
 なんだこの変態って思われたらどうしよう、こんな変態を世話係になんてできないとか、思われる可能性だってあるもの。
 あぁ、私。修行僧ぐらい清廉潔白になりたい。

「………はぁ」

 レイシールド様は眉間に皺を寄せて溜息をついた。
 そして私は頭を抱えた。そうよね、それはそう。だってほぼ初対面の女が、恥ずかしい妄想をしている宣言をしてきたのよ。どうかしているわよ、私。

「お前はそのままでいい、ティディス」

「妄想をしていいと……」

「それはお前の自由だ。構わない」

「は、はい……」

「それから――今まで送り込まれた侍女たちを、追い出していたのは、俺だ」

「そうなのですか……?」

「あぁ。朝、剣を向けただろう。あれは毎回している」

「な、何故……?」

 レイシールド様、お嫁さん候補たちに剣を向けて度胸試しをしているのかしら。
 やはり、戦場に立つ武王の傍には、剣を向けられたぐらいじゃ怯まないそれはそれは強い女性が侍らないといけないということかしら。
 自分よりも強い女が好き、とか?
 そんな女性、いるのかしら。世界は広いから、探したらいるかもしれないわね。

「違う」

「違うのですね……」

 あぁ、レイシールド様、私の頭の中を見てくれているのね。会話が楽だ。
 いつも誰かと話をしていると一生懸命声を張らなくてはいけないのだけれど、レイシールド様との会話にはそれがない。嬉しい。

「……そうか」

「はい」

「俺も、そのように思われたのははじめてだ」

「そうですか……? とても、便利です。だって、一生懸命説明しなくても、私の言いたいことを理解してくださるということですよね。ありがたいです」

「普通は、嫌がる。怖がるものだ。……俺の力を知らなくとも、俺は怖がられていた。シリウスの送り込んだ侍女たちは一日目の朝から哀れなぐらいに怯えていた」

「どうしてでしょう」

「俺の噂を、俺の元に送り込まれた貴族の娘は皆知っている。怯える女を傍に置くなど、面倒でしかない。だから、噂通りに冷酷な王として、娘たちに剣を向けた。それから、弟たちに命じて噂を流させた」

「あぁ、気に入らない人たちには剣を向けるとか、首を刎ねる、とか。そういう……」

「噂を聞いた後、実際に剣を向けられれば、皆、逃げ出す」

 それはそうだと思う。
 でも、そんなことしなくても。せっかくの嫁候補なのに。
 レイシールド様は女性が嫌いなのかしら。世の中にはそういった男性も少なくないみたいだし、人の趣味はそれぞれだから、それはそれでいいのだけれど。

「違う」

「違うのですね……」

「……今までの娘たちは、怯えながら俺に触れ、恐ろしい、嫌だ、帰りたいとばかり考えていた。お前もそうだろうと思い、いつも通りに剣を向けた。すまなかったな」

「大丈夫です、怪我はないですし、我が家に来たばかりのリュコスちゃんの方がずっと怖かったので」

『当たり前じゃ。我を誰と心得ておる』

 床に寝そべって、大きな干し肉の塊をあむあむしながら、リュコスちゃんが言った。
 今はあんまり怖くない。干し肉がよっぽど美味しいのだろう、幸せそう。

「ティディス。お前がよければ、ここにいてほしい」

「お世話係、続けていいのですか……?」

「よ……あ、あぁ」

 よ?
 レイシールド様が口ごもったので、私は首を傾げた。
 何にせよ、私は職を失わずに済んだ。よかった。


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